36話
「アンタ……やっぱり創作の才能は無えなぁ」
- パチンッ -
男の手元から乾いた音が鳴る。と、同時に俺の座る椅子は最後のマス目に移動した。屋上の終わりはもうすぐそこだ。グズグズしていたら……
(せっかく助かるかも知れないチャンスをフイにしてたまるか)
「待て! 待ってくれ!! ウソじゃない。あの時、俺は確かにこっちを見下ろす人影を見たんだ!!」
「へぇ……じゃあ一体誰が屋上に居たってんだ?」
当然の質問……だが、
「あの時はもう日が落ちかけていたし、人影はすぐに引っ込んだからそこまでは……」
俺の声か自分でも分かるくらい勢いを失っていく。なんとかこいつの興味を引いて時間を稼がなければ……
「なるほど……顔は分からなかったと……随分都合のいい話だな? えっ?」
「ウソじゃない! 本当だ!!」
男はがっかりしたように俺から視線を外して……マスターが俺の椅子の背もたれに両手を掛けた!!
「アンタがどんなに主張しようと……こっちには信じるに足る証拠が無い。だいたい……あんたらは知らんだろうが、栞さんは自殺の前にあんたらのやった事の記録と遺書を彼女の親族に遺して……」
「『お父さんの健康を祈っています』だ!!!」
俺は……叫んだ。
彼女が父親に向けて遺したとされるメッセージの最後の部分を……
同時に俺の椅子を虚空に押し出そうとしていた手が止まった。
「……何の事だ?」
男は訝しそうに目を細めた。
俺は……男が俺の言葉を信じるに足る証拠を口にした。
「彼女の遺したメッセージの最後は『お父さんの健康を祈っています』だ! 彼女が死んだ時……その手握っていたメモリーを彼女の父親に送ったのは俺なんだ!」




