33話
「フン……口だけなら何とでも言えるさ。あんたそいつらの生殺与奪の権利をその手に握っても同じ事が言えるのか?」
俺は即座に答えようとして……思いがけず言葉に詰まった。俺の考えは心底から本心だ。……だが、それは刑事として生きてきた建前では無いと本当に言えるのか?
実際に……栞を死に追いやった奴等を目の前にして俺は理性を保つ事が出来ると?
脳裏に最後に会った時の栞の笑顔が浮かぶ……あの時はまだ学生だった彼女の言葉。
『お父さんはすごいよ。一課の刑事なんて酷い事件の捜査ばっかりなんでしょ? 人の嫌なところばっかり見るのが分かってるのに……なんで耐えられるの?』
あの時、俺はなんと答えた? たしか娘の前で多少の見栄をはった様な記憶はあるが……
それでも本心から口にした言葉……
『酷い事だからさ。お前や……母さんが生きる世界にそんなモン放置出来ないだろ? 俺の仕事は掃除と同じさ。どうせ汚れると思って放っておいたらこの世はあっと言う間にゴミだらけになっちまう』
『ふふっ……カッコつけちゃってさ。それでお母さんや私を放置してたら意味ないじゃん。世の中全部綺麗に出来るわけでもないのにさ〜』
口を尖らせて不満気な顔をしてみせる栞……だがその目は笑っていた。
『違いない。ま、俺は俺の手の届く範囲を掃除するので手一杯だし……そもそも最初から世の中全部綺麗にしようなんて考えちゃいないさ。だが、誰もが誰かの世界を掃除してるからかろうじてこの世はゴミに埋もれないで済んでるんだ。だから……父さんが誰かの為にしてる掃除は、別に無償で奉仕してるってわけじゃないのさ』
屁理屈と正論をブレンドして職業意識を少しだけ垂らした言い訳……それを聞いた栞は……確か……
『ほーんと……オジサンってなんで皆古くてお説教臭い話が好きなのかしら?』
栞はそう言って……笑っていた。




