31話
話すつもりなどなかった。少なくとも最初は……
「結局……俺が栞の身に起こった事を知ったのは全てが終わった後だった。メモリの中にあいつの手紙を見つけた時は泣いたよ。せめてあいつを追い詰めた奴等全員に報いをくれてやりたかったが……俺の身体にはその時間さえ無いんだとさ。まったくお笑いぐさだ。俺はなにも特別な事をしたかったわけじゃない、ただ普通に生きる人達の平穏を守る為に警官になった。なのに……家族の幸せすら……」
なぜか……俺は腹の中に溜まったものを見ず知らずのマスターに全てぶちまけていた。
もしかして俺は……自分でも気付かないうちに腹の中に溜まったモノの“はけ口”を求めてたのか?
「はん、何を言うかと思えば好き勝手やってきたツケが回っただけじゃねぇか」
「………」
隣で空になったグラスを弄んでいた男の言葉が突き刺さる。反射的に……何か言い返そうとして、俺は言葉に詰まった。
「オーナーは黙るのである。これ以上余計な事を言うなら……」
「おー怖い怖い。ま、確かにツケに関しちゃオレが言えたこっちゃねぇーわ。だがな……」
「主よ!」
「うるせぇ、ちっとくらい言わせろよ」
「マスター」
マスターの言葉を俺は目線で制した。何故か……俺はこの風変わりな酔っ払いの言葉を止める気にはならなかった。




