30話
「はは、俺はしがないバーのオーナーだよ……副業で死神なんぞやってるがね」
………?
やっぱりおかしいのかこの男?
「その男の事は気にしないで下さい。オーナーも余計な事は言わないのである」
「へいへい……接客はテメーの仕事だからな。ブラッディマリーおかわり」
「タバスコでも舐めとけなの。……と、申し訳ありません客様、どうもオーナーの方針でウチは騒々しくなりがちでして……」
「……それは俺も含めてかい?」
一口含んで呑む事を諦めたグラスをコースターの上に戻す。
「失礼ですが……嘆きの大きさと言う意味ではお客様のお声が群を抜いておられるでしょうな」
……図星をさされた事に驚く。
(それほど気落ちしている様に見えるのか?)
いや……いくらなんでもそんな筈はない。これでも数限りない犯罪者と渡り合ってきたんだ。初対面の人間に一目で内心見透かされたりしたら商売上がったり……
「ええ、普段の御姿は存じ上げませんが……おそらく何もお変わり無いのでしょうね。ただ、バーのマスターと言うのはお客様のその日の気分を観察するのが仕事みたいなものでして」
俺は今度こそ驚愕に目を見開いてマスターを見つめた。
「だとしても……あんた察しが良すぎるぜ? あとトニックをくれ。サービスはありがたいが……こんな酒、そのままじゃとても呑めん」
「なるほど……これは失礼いたしました。私の観察眼もアテになりませんな」
「……そうでもないさ。少し無理が効かんだけだ」
実際、アルコールに頼って理性を吹き飛ばす事が出来れば……と考えなかったわけではない。
「よろしければ……事情をお聞かせ願えませんか? バーのマスターとしてはお客様へのサービスを外した理由が大いに気になるところですので……」




