25話
あの女を連れて店を出た後、タクシーに乗り込み……
駄目だ……タクシーに乗り込んだ後の事がどうしても思い出せん。
「おいおい、さっきからどうでもいい事ばっか考えてんな? さっさと自分のやった事を思い出してきっちり懺悔しないと……マジでどうなっても知らねぇぜ?」
いつの間にか……兄の前に居た男が今度は私の前に来ていた。
「何故私の考えている事が?!」
そういえば……さっきの兄とのやりとりもそうだ。短いやりとりだったが兄のあの狼狽え方……この男、こちらの考えが読めるのか?
(バカな! そんな事出来るはずが……)
その時、男は私の耳元に口に寄せて小さな声で囁いた。
「面倒臭い事に……分かっちまうんだなこれが」
まるで聞き分けの無い子供をあやす様な口調が……優秀な兄へのコンプレックスを逆撫でする。
「貴様!」
思わず声を荒げた。そもそもこちらの考えが読めるなら何を言っても……いやまて、バカバカしいしいが、仮に本当にこの男が人の思考や記憶が読めるというなら……
「待ってくれ……いや、待ってください。本当に私の考えが読めると言うなら……私が彼に命じたのが事態の収拾であって、決して彼女に危害を加えろと言った訳では無いと分かるはずだ! 私は会社を守る為に当然の指示をしただけで……」
そこまで言った時……私は、男の顔から表情か消えている事に気付いた。
「ああ……あんたは確かに具体的な指示なんて出してねぇな。だが俺はさっきあんたの兄貴に言ったろう? 『だからって罪が無いとは言わせない』ってな。いや……あんたはそこに居る部長がどんな処理方法を取るか薄々見当がついてたろう? それでもまだ自分は悪くないってのかい?」
- ズズズッ -
男の言葉が終わると同時に……
男と同じくあらゆる表情を消したマスターが……また一つ私の椅子を破滅に向かって押し進めた。




