イントロダクション “呪われた祝福” 10
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「……」
「どうしたんだ……まさか痛い所を突いちまったってわけでもあるまい?」
そう言われた瞬間……俺はさっき編集長から聞かされた内容を思い出した。
『君が取材していた八菱VFJファイナンシャルのあの娘……どうやら自殺したらしい』
そんな事を告げられても……俺の心には何の感慨も湧かなかった。
当然だろう。彼女に汚職の罪を着せた奴らの下っ端が俺なのだから……
俺自身は木っ端ライターに過ぎないが……これでも三十年近く業界をのたくってきたのだ。ツテもあればシガラミもある。
俺は汚職を世間の目から逸らしたい奴らの意を汲んで……
『一行員であった彼女が会社から巨額の資金をタックスヘイブンへと流した』という記事をなじみのゴシップ雑誌に掲載させる事に成功した。
当然社内の真実とは違うだろうが……奴らだってそんな事は百も承知だし、本当に罪をなすりつけられるなんて思っちゃいないだろう。
俺が書いた記事だって……彼女を名指しで書いたものではない。
目線を引いた顔写真、そして優秀だった彼女がいかにも“犯罪に手を染めそうなストーリー”を言質を取られないような曖昧な筆致で記事に仕立てただけだ。
奴らはただ“世間の巨大な銀行に対するイメージ”を操作するために俺という手駒を適当なマスへと動かしたに過ぎない……