第1章・タクヤ(4)
僕が勇者パーティを追放されてから十日が経った。
最初の一日目こそ、僕は途方に暮れて、宛がわれた家の中で一日中ボーっとしていた。
次の日、僕は気晴らしに城下町のバザーを覗くことにした。
そして驚いた。
「これって、ミスリルソードじゃないか! なんでこんな武器が今、ココに!?」
シナリオの最終盤で手に入るような強力な武器を店先に並べている商人がいたのだ。
「どうだい兄ちゃん、凄いだろ! こんな武器、早々お目に掛かれやしないぜ?」
商人の言う通りだ。
シナリオの第二章後半である今の時点では、ミスリルソードの性能はチート級である。
「一体、どうしてバザーで売ってるんです? こんな掘り出し物……」
「いやね? 本当は、王様の近衛兵が装備するのに丁度良いと思って、王国騎士団に売りつけに行ったんだ。だけど、お目当ての近衛兵は既に旅に出て不在っていうんで、仕方なくこうして店売りすることにしたんだ」
商人が言っている近衛兵とは、僕の代わりにエンシェント・ウルフ討伐に向かったレナウドのことだろう。
もしも本来のシナリオ通りに話が進んでいれば、この武器は彼が購入していたようだ。
「どうだい? 兄ちゃん、あんた見たところ剣士だろ? この武器に興味はないかい?」
「そりゃ、興味はアリアリですよ! ……でも、お高いんでしょう?」
「まあ、それなりに値段は張るわな。五千ローナでどうだ?」
安っ!
確かにこの時点で五千ローナは高価ではあるが、武器性能を考慮すれば破格の値段である。
ちなみにローナとは、この世界における通貨単位だ。
「買う! その武器は僕が買う!」
僕には当面の生活費として、十分な資金が支給されていた。
ミスリルソードを購入することは可能だった。
「はいよ! それじゃあ、この武器は兄ちゃんの物ね!」
僕は五千ローナと引き換えに、ミスリルソードを手に入れた。
そして、おかしなタイミングで売られていたのは、ミスリルソードだけではなかった。
バザーには他にも、高い防御力を誇るオーロラメイルや、優れた属性耐性を持つオーガシールドといった、現時点ではやはりチート級と呼べる防具が並んでいたのだ。
僕はミスリルソードの同様に、それらの防具を買い揃えた。
その結果、僕はレイアレス周辺ではゴリゴリでカチカチの無敵の存在となっていた。
そして次の日から、僕は大量の食料を鞄いっぱいに買い込んで、山に籠って一人で狩りに没頭することにした。
買い揃えた装備のおかげで、襲い掛ってくるどんなモンスターの攻撃からも一切の傷を負うことなく、そして一撃で粉砕できる!
「あー気持ちイイー! カ、イ、カ、ン! 来い、もっと来い! モンスター共!」
無双状態であることに酔いしれて、昼夜を問わず延々と狩りを続けた僕は、気が付けば第三章後半で辿り着くようなレベルに達していた。
エンシェント・ウルフの討伐のメンバーから外された結果、僕はこのレイアレス周辺では最強と言える存在となっていたのだ。
そして今日、食料もなくなり、狩りで入手したレア素材で鞄の中身がいっぱいになったので、僕はそれらをバザーで売るためにレイアレス城に戻ってきたというわけだ。
城下町のバザーは相変わらずの賑わいを見せていた。
僕はレア素材を高値で買い取ってくれる商人の店を訪れて、鞄の中身を売り払った。
「いやー、こんな上質の素材がいっぱい手に入って嬉しいよ!」
ホクホク顔の商人は代金の入った袋を僕に手渡す。
「そういえば兄さんは聞いているかい? エンシェント・ウルフ討伐隊の話……」
そうか、グレリオ達の挑戦結果がそろそろ分かる頃か。
僕の持つスキルがなければ討伐の難易度は高い戦いなのだ、きっとグレリオたちの討伐は失敗しているだろう。
本音を言えば、無様に逃げ帰って来ていて欲しい。
「いや、まだ聞いてないや……。結果はどうだったんで?」
僕は商人に聞き返した。
「それがねえ、討伐には失敗しちまったっていう話だ」
それ見たことか、言わんこっちゃない!
僕は「ざまあみろ」の一言を飲み込む。
連中は今頃、挫折感に打ちひしがれている頃だろう。
「そりゃ、残念だ……。じゃあ、討伐隊はその後は?」
僕は、顔がニヤけるのを我慢していた。
「それが、散々な結果でねえ。王国騎士団のレナウドは死亡で、勇者の兄ちゃんは再起不能の重傷。魔法使いと修道女の姉ちゃんも、酷い傷を負ったって話だ」
「なんだって!?」
いくら討伐に失敗とはいえ、そこまでの惨状になっていただなんて……!
「生き残った三人は今、どこでどうしているか、分かるかい!?」
僕は商人に強い口調で問い詰めた。
「お、おう……。そんなにグイグイ来なくても、教えるって! 今は、教会に担ぎ込まれているって話だ」
「そうか、ありがとう!」
僕は急いで商人の店を後にした。
「また、よろしく頼むよ! 兄さん!」
僕は商人に返事を返すことなく、急いで城下町の教会に向かって走っていった。
「僕はエンシェント・ウルフ討伐隊の縁者です! 彼らはどこですか!?」
僕の言葉に、看護師役を務める修道女が教会の一室へと案内してくれた。
そこには、深く項垂れるレアリィとセロフィア、そしてベッドの上で苦しそうに息を吐くグレリオの姿があった。
「あ……防御くん……」
僕に気付いたレアリィが、虚ろな目をコチラに向けた。
お読みいただきありがとうございました。
「面白かった!」と思っていただけましたら、ブックマークや⭐︎での評価等、応援よろしくお願いいたします!