第1章・タクヤ(3)
このままではマズイ!
僕は、自分がパーティに参加していることの重要性を訴えようとした。
「何故でしょう、トルネッタ姫! 僕には、守備低下というスキルがあります! 高い防御力を持つエンシェント・ウルフに対しても、物理攻撃で有効打を与えられるようになります!」
必死になる僕の声は、自然と大きなものになっていく。
「他にも対獣耐性という、仲間が受けるダメージを軽減するスキルも習得しています! エンシェント・ウルフの激しい攻撃から、仲間を守ることもできるんです! 僕だって、十分に戦力になるんです!」
というか、エンシェント・ウルフ戦こそ僕の大きな見せ場なんだ!
僕の見せ場を奪わないでくれ!
「アンタはそう言うけどさ、今までにアンタが自分のスキルを使ってみせたコトなんて一度もないじゃん……。実際、アンタが持っているスキルって、本当に戦闘の役に立つの? 人を働かせるだけ働かせておいて、自分だけいい思いをするような防御くんのいう事なんて、信じられないんですケド?」
あきれ顔でレアリィが口を挟んでくる。
それは、僕がパーティに参加してから今までの間に、補助系スキルの効果を実感できるような場面が一度もなかっただけのことであって……!
「……私もレアリィと同じ気持ちです。この方を信用していません」
レアリィの後に続いて、セロフィアも口を開いた。
これは駄目だ!
『レアリィ特攻作戦』を続けたことで溜まりに溜まっていた僕へのヘイトが今、爆発しようとしている!
「だからって、何も僕をパーティから追い出す必要はないだろう!? 五人で討伐に向かえばいいじゃないか!」
「横から失礼する。お見受けしたところ、こちらのパーティでは、回復役は金髪の方だけのようだが……?」
僕の言葉に続いて口を開いたのはレナウドだ。
「その通りです、レナウドさん」
セロフィアが頷く。
「広範回復のスキルはお持ちで?」
「……いいえ、習得していません」
レナウドからの質問に対して、セロフィアが首を横に振った。
広範回復とはその名の通り、有効範囲内にいる複数の者の体力を一度に回復させる、かなり高度な回復スキルだ。
第二章の時点で習得できるようなスキルではない。
レナウドは肩をすくめてみせる。
「回復役が一人で広範回復もないと言うのであれば、パーティの人数は四人までが限界だろう。人数が多くなり過ぎると、回復が追いつかなくなってしまい、どうしても犠牲者が出てしまうことになる」
レナウドの言っていることは正しい。
特にエンシェント・ウルフの場合は、範囲攻撃の獣王咆哮を放ってくる。
仲間全員の体力をケアする必要があるため、回復役の負担が大きい戦いになるのだ。
だからこそ、僕の対獣耐性で被ダメージを軽減して、回復役の負担を減らすことが、攻略の要となっているというのに!
「わたくし共も本気であるからこそ、多忙な王国騎士団の中からも騎士を派遣してみせようというのです。わたくしの提案を受け入れないというのであれば、支度金は与えません」
トルネッタ姫が厳しい口調で言い放つ。
「……グレリオ様の意見はどうなのですか?」
腕を組んで俯いたままのグレリオに、セロフィアが問いかける。
そうだ、このパーティのリーダーはグレリオだ。
彼がトルネッタ姫の提案を受け入れさえしなければ、僕はこのまま、パーティに残ることができるんだ!
「不公平なやり方は良くなかったかもしれないけど! 僕の提案した通りに狩りを続けた結果、僕たちはあっという間に強くなることができたじゃないか! これからも僕の言う通りにすれば、必ず何もかも成功するんだ!」
僕がグレリオに訴えかけると、グレリオは顔を上げて口を開いた。
「俺は……俺は、このレナウドという男と一緒の戦場で、肩を並べて戦ってみたい!」
そんな、グレリオ!
グレリオの目は、熱く燃えているように見開かれていた。
どうやら、体育会系同士の間に生じるシンパシーのようなものに、心を突き動かされているらしかった。
「パーティのリーダーがこう言ってるんだから、これはもう決まりだよね~」
レアリィが意地悪そうな笑みを浮かべて僕を見やる。
「本当に短い間ですが……お世話になりました」
最低限の社交辞令はしておこうといった風に、セロフィアが僕に頭を下げる。
「ラオウール殿。貴公の代わりは、このレナウドが立派に果たして見せる」
レナウドは僕に歩み寄って、僕の肩に分厚い掌を置く。
「では、ラオウール殿をパーティから離脱させて、レナウドを新たに加入させる……ということで、よろしいですね?」
トルネッタ姫はグレリオに向かって言葉を放った。
いやだ、止めてくれ!
僕は、仲間や集団から見捨てられるのは、もう耐えられないんだ!
グレリオ!
お願いだ頼む、トルネッタ姫の提案を断ってくれ……!
「はい、トルネッタ姫様! 俺たちは、レナウドを新たな仲間として受け入れます!」
その言葉を聞いて、僕は膝から崩れ落ちた。
現実世界に続いて異世界でも、僕はリストラの目に合ってしまったのだ。
トルネッタ姫が口を開く。
「安心なされよ、ラオウール殿。貴方にはここレイアレスの市民となることを許可いたしましょう。住居についても、国で手配します。当面の生活費も支給します。ここの城下町で静かな一生を送るというのも、悪くないでしょう」
僕は失意に打ちひしがれていた。
異世界に転生してさえも、僕は誰からも必要とされていない存在なのだと思うと、惨めな思いで心が潰れそうになった
「く……くくぅぅっ」
僕の目からは自然と涙がこぼれる。
僕はその場で嗚咽をもらし始めていたが、僕に声をかける者は誰一人としていなかった。
――まさかこんな形で、勇者パーティから追放されることになるなんて。
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