表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/40

第1章・タクヤ(2)

レイアレス城を訪れた僕たち勇者パーティの四人は、従者に案内されて城内の廊下を歩かされていた。


周囲をキョロキョロと見回しながら歩くレアリィの姿は、完全にお(のぼ)りさんのそれだった。

レアリィほど露骨でないにしろ、内装に目を奪われているのはセロフィアも同じだ。


「なんて豪華な建物なんだ!」


グレリオに至っては、声に出してしまうほどだ。


かく言う僕も、城内の絢爛(けんらん)さには息を呑んでいた。


前世では、中世ヨーロッパをモチーフとしたテーマパークに何度か訪れたことはあったけれども、それらも所詮は作り物だったのだということを、改めて思い知らされていた。


本物にはやはり、人を圧倒する何かがある。


「こちらでお待ち下さい」


僕たちは城内の一室に通された。

その広さは、大人数が入れる大きめの会議室程度……といったところか。


僕はこれから始まるイベントの内容――トルネッタ姫からの数々の罵詈(ばり)雑言(ぞうごん)に備えて、心の準備をしていた。


トルネッタ姫から受ける言葉は、それはもう筆舌に尽くし難い凄まじい内容だ。

その場面だけを切り抜いたゲームプレイ動画は、数十万の再生数を叩きだす程だった。

ゲーム内では表現されていなかったが、この場でレアリィやセロフィアが泣き出してもおかしくない。


数分の後、豪奢(ごうしゃ)な赤いドレスを(まと)い、(きら)びやかな数々の装飾品を身に着けた一人の成人女性が、従者を伴って室内に現れた。


――彼女がトルネッタ姫だ、間違いない!


僕はゴクリと唾を飲み込んだ。


「エンシェント・ウルフに立ち向かおうという、勇敢なる者たちよ。このレイアレス城へようこそ、いらっしゃいました。わたくしは第一王女のトルネッタと申します」


そういうとトルネッタ姫は(うやうや)しく頭を下げた


――あれ?


僕は、目の前にいるトルネッタ姫が、ゲーム内のトルネッタ姫と余りにも印象が違うことに驚いていた。

確か、第一声は「なんと見るからに粗野で下品な者達ですこと!」だったはずだ。


「我が国では魔王の侵攻に対抗するため、新たな魔導兵器の開発を進めようとしております。そのため、強力な法力(プラーナ)を秘めた素材を必要としております。伝説によれば、エンシェント・ウルフを討伐することで手に入る魔獣の爪には、強い法力(プラーナ)が宿っているとのこと」


トルネッタ姫は、余計なことは一切口にせず、イベントの背景を淡々と述べるだけだ。


「ですが、今の我々は魔王の進軍を食い止めるだけで手一杯――エンシェント・ウルフの討伐に割けるだけの余力がありません。そこで、貴方(あなた)たちのような冒険者にお力添えを(たまわ)りたい、そう考えた次第です。我々に協力頂けるとのこと、深く痛み入ります」


そう言ってから、トルネッタ姫は再び頭を下げた。


「頭を上げてください、姫様! 俺はこのパーティのリーダー、勇者グレリオです! 俺たちが必ず、エンシェント・ウルフを討伐してみせます!」


グレリオの声のボリュームはいつも通りに大きい。

本来のトルネッタ姫であれば、グレリオの声量に対して不快感を示すはずだ。


「おお、なんと猛々(たけだけ)しいこと……。貴方(あなた)が、神の啓示を受けたという勇者殿なのですね。貴方(あなた)のような者であれば、信じるに値します」


一体どうしちゃったっていうのさ、トルネッタ姫!

そこは『野蛮人』とか言って(ののし)るトコロだろ!


物事が想定と異なっている事への違和感に、僕の心は酷くザワついた。

何かこう、嫌なことが起こりそうな予感がするのだ。


「ですが、ひとつ気になる事があります。後ろの男性の方……。随分と華奢(きゃしゃ)な体をされていますが、貴方(あなた)の役割は?」


トルネッタ姫は少し顔をしかめながら、僕に向かって問う。


「はい、僕は魔法剣士ラオウールと申します。剣技と支援魔法の両方に長けております」


横から「ウソばっか! 得意なのは防御だけじゃん!」というレアリィの小声での(ささや)きが聞こえてくる。


「無礼を承知で申し上げるのですが、貴方(あなた)からは勇者殿のような力強さが感じられません。果たして貴方(あなた)に、エンシェント・ウルフの討伐を務めることができるのでしょうか?」


トルネッタ姫は何故か僕に対して不信感を持っているようだ。

確かに僕の外見は、激しい戦いに身を投じるようなタイプのものではないが。


やはりオカシイ、こんな話の展開は本来のシナリオにはなかったはずだ。


「そうは申されますが姫様、僕は……」


「メイや。レナウドをここへ」


僕の言葉を(さえぎ)って、トルネッタ姫は従者の一人に声をかけた。

従者はその指示に従って、部屋の外へと出て行った。


レナウド……そんなキャラ、いたっけ?


少しの間を置いて、レナウドと思われる熊のように大柄な男が部屋に入ってきた。


彼の姿を見て、僕は思い出した。

魔獣の爪を持ち帰った後のイベントで、トルネッタ姫が第二章のボスであるべスタロドへと変貌した際に、べスタロドに斬りかかって返り討ちにあったキャラだ。


そう言えばいたな、そんな(ノン・)(プレイヤー)(・キャラクター)


「この者はレナウド。王国騎士団でも高い実力を持つ、(ごう)の者です」


トルネッタ姫からの紹介が終わると、レナウドは僕たちに向かって頭を下げる。


「見るからに強そう~、誰かさんと違って」


「本当に、(たくま)しい方ですね」


レアリィとセロフィアの囁き声が僕の耳にも聞こえてくる。


「勇者殿。そちらのラオウール殿に代わって、このレナウドをエンシェント・ウルフの討伐に連れて行きなさい」


トルネッタ姫からグレリオに向かって放たれた言葉は、僕にとって余りにも想定外の内容だった。


待って、待って!

僕の代わりにパーティに参加って、なんでそうなるの!


なんでこんなタイミングで、僕はパーティから離脱させられそうになっているんだ!


僕は自分の頭から血の気が引くのを感じていた。

お読みいただきありがとうございました。

「面白かった!」と思っていただけましたら、ブックマークや⭐︎での評価等、応援よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ