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第3章・ミサキ(6)

私とマイロナ姫、ラベルラ、そしてデュレクトの四人は、ガルオン王の前に立っていた。


デュレクトが口を開いた。


「では、ガルオン王。是非、ワシのスキルをご覧ください……」


そういうとデュレクトは鞄の中から荷物を引っ張りだし始めた。


「ほほう? そなたは占い師か? 何やら、初めてみる形であるな……?」


ガルオン王は興味深げにデュレクトの様子を伺っていた。


デュレクトは魔法陣のような模様が描かれたラグを広げると、その上に不思議な形の小物類を規則的に並べていく。


この場にいる全員が、デュレクトの仕草のひとつひとつを不思議そうに眺めていた。


「……?」


そしてラグの中心に、ひとつの手鏡を王に向かって立てかけた。

それは、私からべスタロドを(はら)う際に使用したものと似た、スマホのような大きさや形をした手鏡だ。

私のお(はら)いの時より、一回り小さいサイズだ。


「では、始めますぞ……ほいや!」


デュレクトが大きな掛け声をひとつあげながら手をかざすと、ガルオン王は途端にぐったりとその場に項垂(うなだ)れた。


「王様、どうされました……!?」


お付きの者が慌てて王に駆け寄る。


少しの間をおいて、王は頭をゆっくりと上げてから、


「よくぞ、余の()き物を(はら)ってくれた……」


と、力ない声で(つぶや)いた。


さきほどのデュレクトの掛け声によって、ガルオン王に取り()いていたバルバレオは、べスタロドと同様に鏡の中に閉じ込められているはずだ。

そして、ガルオン王も、本来の人格を取り戻した様子だ。


前世でも思っていたことだが、第三章の最後のイベントの割には、あっけないものだ。


さあ、後は白虎のオーブを貰うだけ――。


「さてと、これでワシの役目も完了じゃ……ん?」


デュレクトはラグの中心に置いた鏡を手に持ってから、その中を覗き込んで怪訝(けげん)そうな表情を浮かべる。


「あちゃあ……これはマズイのう」


「どうしたというのです?」


私はデュレクトの背中越しに、鏡を覗き込む。


「魔封じの鏡の大きさが、ちょっと足りなかったみたいじゃ。このままだと、悪魔が鏡の内から(あふ)れ出てくるのう」


デュレクトがそう言った瞬間、ピシッという音とともに鏡がひび割れた。


――おかしい、こんな展開はシナリオにはなかったはずだ。


「えっ、なんで?」


私は素に戻って、デュレクトに問いただした。


「嬢さんを(はら)う時に使った鏡があったじゃろ。あれと同じぐらいの大きさじゃないと、上級悪魔を完全には封印できないようじゃ」


つまり、本来はこのタイミングで使われるべき鏡を、私からべスタロドを(はら)うときに使ってしまっていた、と。


そして、本来のシナリオ展開とは異なる鏡を今この場で使ったせいで、バルバレオの封印に失敗してしまった、と。


そのせいで、この場で発生するイベントの内容が、本来のシナリオ展開とは全く違う形になろうとしている――!


「こりゃあ、時間の問題じゃのう」


ピシッ、ピシッと音を立てて、鏡の表面のひび割れが広がっていく。


デュレクトは手に持った手鏡を、謁見の間の中央に向かって投げ捨てた。


「ワシは戦闘はからっきしじゃからのう。悪魔の相手は、嬢さんたちに任せたよ」


そういうとデュレクトは部屋の物陰にそっと隠れた。


手鏡は地面に転がるとバンッと派手な音で砕け散った。


そしてその場には、べスタロドの本来の姿によく似た、大きく醜い異形の化け物が姿を現していた。

ライオンのたてがみに似たものが、顔面の周囲を覆っている。


これがバルバレオの真の姿……!

本来のシナリオでは見せることがなかったものだ……!


つまり、私の前世の知識にはない存在だ!


「キャーッ!」


王のお付きのものが悲鳴を上げる。


「良くも我が計画を邪魔してくれたな……人間め……」


――落ち着け!


私には、本来は敵だけが使えるチートスキルがある!

マルニ村の跡地のときと同じように、魔式必眠(デモニック・フォール)でハメ殺せばいいだけだ!


魔式必眠(デモニック・フォール)!」


「……!? グゥ……」


よし!

魔式必眠(デモニック・フォール)はバルバレオにも通用した!


「皆はこの場から避難なさって! マイロナ! この異形の化け物に、貴方(あなた)(こぶし)を叩き込みなさい!」


ガルオン王はお付きの者に伴われてこの場から立ち去ろうとしていた。

いつの間にか、デュレクトの姿も見えなくなっていた。


「はい、トルネッタ姉様! でえぇぇいっ!」


マイロナ姫が睡眠状態のバルバレオに強烈な一撃を叩き込む。


「カカッ! おのれ人間め、小賢しい真似を!」


マイロナ姫の一撃で、バルバレオが目を覚ました!

私はすかさず魔式必眠(デモニック・フォール)を発動させ始める。


魔式(デモニック)……!」


しかし、私のスキルが発動するよりも早く、バルバレオは目の前にいるマイロナ姫に一撃を加えてきた!


「くうぅっ!?」


その一撃は強烈なもので、彼女は派手に床に転がった。


「……必眠(フォール)!」


「グゥ……」


その後に私のスキルが発動して、バルバレオは再び深い睡眠状態に(おちい)った。


――二回行動のパッシブ・スキルだ!


どうやらバルバレオは、こちらよりも早い間隔で行動できる状態にあるようだ。

だから、目が覚めてから再び睡眠状態に(おちい)る間に、こちらに一撃を加えることができる。


「マイロナ、大丈夫かい! 強治魔法(ヘヴィ・ヒール)!」


ラベルラのスキルが発動して、マイロナ姫が負ったダメージを(いや)す。


「大丈夫です、ラベルラ! たあぁぁっ!」


再びマイロナ姫の鉄拳がバルバレオに叩き込まれる。


目を覚ましたバルバレオに対して私は魔式必眠(デモニック・フォール)を仕掛ける。


「貴様か、小賢しい真似をするのは!」


バルバレオはマイロナではなく、私に向かって襲い掛かってきた!


「うぁっ!」


その一撃で私は瀕死の状態になる。

マイロナ姫はこんな重いダメージを受けていたのか!


しかし、連続で攻撃を受ける前に魔式必眠(デモニック・フォール)が発動して、バルバレオは睡眠状態になる。


「グゥ……」


「トルネッタ! 今、回復させるよ! 強治魔法(ヘヴィ・ヒール)!」


私がバルバレオから受けたダメージは、一瞬で全回復した。


大丈夫!

多少痛い思いをさせられるものの、パターンには入っている――!


「今のが最後だ! もうアタイの残りの魔力(MP)は空だよ!」


しまった!


こんなタイミングでボスと戦闘するつもりがなかったので、十分な休息は取っていない。

回復役(ヒーラー)であるラベルラの残りの魔力(MP)が十分にない状態で、戦闘が始まってしまったのだ。

手持ちの体力回復薬(ポーション)魔力回復薬(エーテル)は底をついているので、回復手段もない。


目の前には眠りに落ちたバルバレオの姿がある。


「はあぁぁっ!」


マイロナ姫の正拳突きが深々とバルバレオの体を打つが、トドメには至らなかったようだ。

私はすかさず魔式必眠(デモニック・フォール)を発動開始させるが、案の定、スキル発動完了までの合間にバルバレオが私に重い一撃を加えてくる。


「ぐふっ!」


「……グゥ」


私がその場に膝をつくと同時に、バルバレオも深い眠りに落ちる。


「すまない、トルネッタ! もう、アンタのダメージを回復してやることができない!」


「どうしましょう、姉様!」


マイロナ姫とラベルラが私の方を向く。

このまま何もしなければ、バルバレオは目を覚まして、私に襲い掛かってくるだろう……!


私たちに残された手段は、ひとつしかない!


「全ての力を込めて、強烈な一撃を放つのです! マイロナ!」


このマイロナ姫の攻撃がトドメの一撃とならなければ、私には死が待っている――!


「分かりました! はあぁぁっ!」


マイロナ姫の重い一撃がバルバレオの体を強く打つ!

確かな手ごたえを感じさせる重い音が辺りに響き渡る!


――お願い、その一発で倒れて!


「……ぐぬぅぁっ! おのれ、その程度で倒れる我輩ではないわ!」


私の願いは届かなかった。

バルバレオは目を覚まし、平然とその場に立っていた。


「死ねいっ!」


バルバレオが手を振り上げる光景が、私の目に映る。


この手が私に振り下ろされたとき、私は死を迎える――!


「いやーっ! ()()死にたくない!」


――こんなところで死ぬのは嫌だ、嫌だ、嫌だ!


強治魔法(ヘヴィ・ヒール)!」


突如私の体力(HP)を回復する何者かが現れた。


一体、誰が?


私は声のした方を振り向く。


そこには、勇者パーティの一員だった修道女セロフィアが立っていた。

なぜ、彼女がこんなところに?


対魔耐性(アンチ・デモンズ)!」


私たちの体に、魔法の薄い幕が張られる。

これは悪魔からの攻撃からダメージを軽減するバリアのようなスキルだ。

そのスキルを発動させたのは、私が勇者パーティから追い出したはずの魔法剣士ラオウールではないか!


魔導炎塊(フレア・スマッシュ)!」


魔法による炎の塊がべスタロドに叩き込まれる!

それは魔法使いレアリィが発動させたものだった。


私の妨害により壊滅状態になったはずの勇者パーティが、今は私を助けようと戦闘に参加している。

それは私にとって、余りにも予想外の出来事だった。

お読みいただきありがとうございました。

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