第3章・タクヤ(3)
僕とレアリィ、そしてセロフィアの三人は、ガルオン王国を目指して歩き続けていた。
僕たちはなんとしても、トルネッタ姫がガルオン王国に辿り着く前に、彼女たちに追いつかなければならない。
そのため、多少無茶な旅を続けていた。
朝早くから行動を開始して、休憩の回数も減らし、夜も松明の明かりを頼りに可能な限り遅くまで歩き続けた。
「キ、キツーイ! この旅はキツイって、防御くん!」
「が、頑張りましょう! レアリィ!」
僕の無茶振りに、レアリィとセロフィアもよく応えてくれていた。
そんな中であっても、モンスター共はお構いなしに襲い掛かってくる。
「あーもう、邪魔すんな! 爆裂魔光!」
この辺りに出現するモンスターなど、場違いな装備に身を固めた僕たちの敵ではない。
半ギレ気味のレアリィが勢いよくぶっ放す範囲攻撃スキルによって、モンスター達は次々に返り討ちにあうのだった。
そんなこんなで長い旅路を歩み続けること幾日か、僕たちはようやくガルオン王国の城下町へと辿り着いた。
時刻は昼を回った頃だった。
「結局……トルネッタ姫たちには……追いつけなかったみたいね……」
最早ダウン寸前のレアリィは、城下町の入口に腰を下した。
「私たちも……頑張ったつもりですが……残念です……」
セロフィアも息を荒らして、その辺の壁にもたれかかった。
「くそ、間に合わなかった……か……?」
僕も両手を膝に置いて肩で呼吸をしながら、辺りの様子を伺った。
ガルオン王国はカバルダスタ大陸の中で最も大きな国であり、その規模はレイアレス王国と肩を並べるほどである。
城下町に人影は多い、特に武器を携えた者たちの姿が目立つ。
この場所は今、戦争のために集まった多くの傭兵によって賑わっているようだ。
だが、その他には特におかしな点はなかった。
どこか殺伐とした空気が漂ってはいるものの、何か大きな事件が起こった後という雰囲気には見えなかった。
僕は近くの立て看板の内容を確認した。
「えーっと、なになに? ガルオン国の兵士として軍への参加を希望する者は、王の前でその実力を示されよ。兵士として採用するに値する者には支度金を支給する。まずは王宮に来られたし……」
それはガルオン王国の発した御触書だった。
まだ、こんな内容の看板が残っているだなんて……。
もし、トルネッタ姫たちが既にガルオン王のお祓いイベントを発生させているのであれば、こんなものは既に取り除かれているはずだ。
そうだ、町の様子だって大人しすぎる。
もしも王が正気を取り戻して、戦争を取りやめることになっていれば、戦争のために集まった多くの傭兵たちも仕事を失うことになり、この場で右往左往しているに違いないのだ。
トルネッタ姫たちはまだ、ガルオン王のお祓いイベントを発生させていない――!
「まだだ、みんな……! まだ間に合う!」
僕は一息付いてから立ち上がり、城下町の中心に向かって歩き始めた。
「どこへ行こうっての……? 防御くん……!」
「お待ちください、ラオウール様……!」
そう言いながらも、二人とも立ち上がって僕の後に付いてきた。
「王宮だ! 王宮に向かうんだ! トルネッタ姫たちはきっと、そこにいる!」
僕の向かう先には、ガルオン王国の王宮があった。
「止まれ! 王宮に何用か!?」
王宮の入口で、僕たちは衛兵に声をかけられる。
「この二人に見覚えがないかい?」
僕は人相書を取り出して、衛兵に見せつける。
「うん? この二人だったら、ついさっき、ここを通って行ったぞ。軍隊への参加を志願する者たちの中に混ざっていたな」
「ついさっき、だって!?」
「う、うむ。長い白髪の老人に連れられて、王宮の中に入っていったばかりだ」
長い白髪の老人……!
それは霊媒師デュレクトの特徴だ、間違いない!
「ようやく、お姫様たちを取っ捕まえられそうだね! 防御くん!」
「行きましょう! ラオウール様!」
レアリィとセロフィアの表情も晴れたものに変わる。
「ちょっとここを通させて貰うよ!」
僕たちは衛兵の脇を通り過ぎようとしたが、衛兵は慌てて僕の前に立ち塞がる。
「ならぬ! その者たちと貴公がどのような関係かは知らぬが、用のない者を王宮に立ち入らせるわけにはいかぬ!」
僕は鞄から、トルネッタ姫とマイロナ姫を連れ戻す旨が記載された命令書を取り出して、衛兵に見せつける。
「これはレイアレス王国が直々に発行した命令書だ。僕たちはこの命令書に従い、さきほどの人相書に描かれた二人の身柄を確保する任を負っている」
「レイアレス王国直々の、命令書だと……!?」
衛兵は命令書を上から下まで眺めてみるが、怪訝そうな表情を崩さない。
「ともかく! 今はこの二人を止めなければならないんだ! そこをどいてくれ!」
「待て! 今、責任者を呼んでくる。それまで、ここで待つのだ!」
確かに、こんな国が関わるスケールの話は、現場の兵士が判断できる内容じゃない。
だが、今は大人しく待っていられる状態じゃない。
「こっちは急いでるんだって……!」
僕と衛兵が押し問答をしていると、王宮の中から「キャーッ!」と悲鳴があがった。
「な、何事だ!?」
衛兵は王宮の方を振り返る。
もう、お祓いイベントが始まってしまったのか?
いや……違う!
このイベントは、ガルオン王から悪魔を祓えばそれだけ済む内容なのだ。
誰かが悲鳴をあげるような内容ではなかったはずだ。
――何か、想定外のことが起こっている!
「急ごう! レアリィ、セロフィア!」
「あっ、待て!」
僕たちは衛兵の静止を振り切って、王宮内に乗り込んだ。
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