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第3章・ミサキ(4)

「私たちの旅は終わりではありません。これから始まるのです」


べスタロドからの解放が成し遂げられた今、私は真の自由を得た。

ようやく、心から旅を楽しめるようになったのだ。


「トルネッタ姉様……!」


「そうこなくっちゃ……!」


マイロナ姫もラベルラも、私の言葉に顔を輝かせていた。


「じゃあ次の旅は、何を目的とするんだい? あてのない放浪の旅っていうのも、面白いものだけどさ」


次の旅の目的か……。

私は顎に手を当てて考え込む。


――そうだ、勇者ゴッコというのはどうだろうか?


本来の勇者だったグレリオは、エンシェント・ウルフの討伐に失敗して、再起不能の重傷を負ったという話だ。

このまま放置しておけば、魔王を倒すものは現れず、やがて世界は魔王の軍勢によって支配されてしまうことになるだろう。


そうなってしまえば、私たちも旅どころではない。


誰かが彼の代わりに、四聖獣のオーブを集めて魔王の力を抑え込み、魔王を討伐しなくてはならない。


ならば、私がその役割を果たせばいい。

私が、この世界における勇者と呼ばれる存在となってしまえば良い。


私には前世で培った、この世界における知識がある。

最終的には、魔王を討伐することも十分に可能だろう。


四聖獣のオーブのひとつである白虎のオーブは、ここプレナド国の隣国であるガルオン王国にて、国宝として扱われている。

これを勇者に代わって私たちが手に入れることにしよう。


「ガルオン王国を訪れて、侵略戦争を思いとどまるように、ガルオン王を(いさ)めましょう。魔王が世界を支配しようとしている今、人間同士が争っている場合ではありません」


本来のシナリオ通りであれば、ガルオン王は上級悪魔バルバレオに取り()かれている。

ガルオン王の場合は、昨日までの私の場合とは違い、既に体を乗っ取られた状態にある。


バルバレオはガルオン王の姿を借りて、周辺国家への侵略を目的に、兵士となる人材を集めている最中だ。

侵略の真の目的は、人間同士を戦わせて疲弊させることにある。

その隙をついて、魔王による世界の支配を実現しようというのだ。


しかし、ガルオン王の前に霊媒師(シャーマン)のデュレクトを連れていくことで、ガルオン王の体からバルバレオは(はら)われる。


正気を取り戻したガルオン王は、侵略戦争を取りやめ、勇者たちに家宝である白虎のオーブを託す……というのが、シナリオの流れだ。


私はこのシナリオを再現しようと考えているのだ。


「一国の王を(いさ)めようとは……これはまた随分と、大きな目標を掲げたもんだね……」


ラベルラは目を丸くしたものの、その内容を否定することはなかった。


「この平和な国を(おか)そうというのは、私には許せないことです。私は、トルネッタ姉様の案に賛成します!」


マイロナ姫は強い眼差しを私に向ける。


「では、決まりですね」


私の言葉に、マイロナ姫とラベルラは深く頷いた。


「ならば、新たな旅を共にする者を、これから迎え入れることにしましょう」


私はそう言うと、プレナド国の商店街に向かって歩き始めた。


「……旅を共にする者? 誰のことだい?」


ラベルラが私の横から尋ねてくる。


「その内にわかります」


「まただよ。アンタには、この先々に起きることを全て見通してるような、おっかないところがあるんだよね……」


ラベルラの言う通りだ。

私はこの先に起きる出来事を全て知り尽くした存在だ。


私たちは商店街に入り、道なりに進んで、水晶玉が描かれた看板の店の中に入った。


「ここは何のお店ですか?」


「水晶玉の看板は、占いのお店の目印さ」


マイロナ姫の疑問に、ラベルラが答えていた。


まだ日の高いこの時間では、店内に漂っていた神秘的な雰囲気も、どこか薄まっているように感じられる。


デュレクトは昨晩と同じように、椅子に座って水晶玉を覗き込んでいた。


「どうも、デュレクト殿」


「おや、昨晩の嬢さんじゃないか。どうじゃ、良い朝を迎えられたかね?」


「ええ。それはもう、実に心地良いものでした」


「そうかい、そうかい。それはなによりじゃ」


デュレクトはホッホッホと笑い声をあげる。


「なんだい? トルネッタと占い師の爺さんとは知り合いなのかい?」


私たちの会話を耳にしていたラベルラが私に聞いてきた。


「ええ。昨晩に少し、()()貰っていたのですよ」


「じゃあ昨晩は、私が眠った後で、姉様は外出していたのですね」


「その通りです。私にも眠れぬ夜というものがあります」


マイロナ姫にそう答えながら、デュレクトに片目をつぶってみせる。

デュレクトはまたもホッホッホと笑い声をあげた。


「なるほど、わかったよ。アンタはこれから、新しい旅の仲間がどこにいるかを、この占い師に占って貰おうっていうんだね」


「そうではありません、ラベルラ」


「なんだい、違うのかい……」


私はデュレクトの顔を真っすぐに見据えて、口を開いた。


率直(そっちょく)に申し上げます。わたくしたちの旅にご同行願えますでしょうか、デュレクト殿」


「なんだい? この爺さんをアタイたちの旅の仲間にしようっていうのかい?」


私の言葉に、ラベルラは酷く驚いた様子をみせる。


「ホッホッホ! 随分とまた、唐突な申し出じゃのう。旅の行先はどこかの?」


「ガルオン王を訪問します」


私の言葉を聞いて、デュレクトの顔から笑みが消える。


「……ふむ。近い内に、ワシをガルオン王の元に連れていこうという者が現れると、占いには出ておったが……。それが嬢さんだったとはのう」


「デュレクト殿にも、近頃のガルオン王の()()()について、思う所があったのでは?」


「確かにのう。これはワシの領分なのではないかと、常々思っていたところじゃ。ワシをガルオン王の元に連れて行こうとする誰かを、ずっと待っておったのじゃよ」


デュレクトは顎に手を置いた。


「……あい、わかった。ワシをガルオン王の元へ連れて行っておくれ」


デュレクトは私の前に右手を差し出す。


「よろしくお願い申し上げます、デュレクト殿」


私は差し出された右手を握り返した。


「では、旅支度をするとしようかのう。少し時間をおくれ」


そう言ってからデュレクトは椅子から下りると、部屋の隅に置かれた鞄を取り出して、棚の上の小物類をその中に詰め込み始めた。


「いったい、何が起こったんだい……?」


「わ、わかりません……気が付いたら、占い師さんが仲間になってました……」


私とほんの少し言葉を交わしただけで、デュレクトが旅の仲間に加わってしまった。

そのことに、マイロナ姫とラベルラは顔を見合わせ、困惑の表情を浮かべるのだった。

お読みいただきありがとうございました。

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