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第2章・ミサキ(6)

私とマイロナ姫、そしてラベルラの三人で構成されたパーティは、マルニ村の跡地での一件以来、お互いに打ち解けた様子を見せていた。


私とマイロナ姫がレイアレス王家の者であること、そして旅の目的がプレナド国にある凶獣の牙の入手であることを知ると、ラベルラは目を丸くして驚いていた。


(たたず)まいから、世俗の者じゃないことは察してはいたけどねえ……」


だが、そのことを知っても、私たちに対するラベルラの態度は特に変わらなかった。

彼女(いわ)く、「共に旅をする者の間に上下関係はない」とのことだ。


マイロナ姫はラベルラにすっかり(なつ)いていて、ラベルラの方もそれによく(こた)えていた。


そんな私たち一行は、イネブルからプレナド国への中継地点となるクリプトという宿場町で足止めを食らっていた。


クリプトとプレナド国を繋ぐ街道で、大規模ながけ崩れが発生したとのことだ。

復旧までには結構な日数を要するらしい。


『ちくしょう! なんだよ、あとちょっとってところで!』


べスタロドが悔しがる。

目標が目と鼻の先にまで迫っているというのに、お預けを食らっているのだ。

無理もない。


「世の中、どうしようもないことってのは、あるもんさ。道が通れるようになるまで、ここで待つことにしようさね」


ラベルラの言う通りである。


「そこで、だ……。クリプトと言えば、温泉さ。湯に浸かって、のんびりと旅の疲れを癒そうじゃないか」


「……それもよいでしょう」


私は平静を装って、ラベルラの提案に賛同する。


「温泉とは、どのような場所なのですか?」


マイロナ姫がラベルラに問う。


「地面から湧き出たお湯の中に、皆で入るのさ。ようは、でっかいお風呂だね」


「み、皆で入るのですか……?」


レイアレスの王宮では、他の誰かと一緒に浴槽に浸かるという習慣はない。

各々(おのおの)が風呂場を使う時間が決まっていて、使用人が体洗いを手伝うのだ。


「そうさ。『裸の付き合い』……ってやつさ」


ラベルラの言葉に、マイロナ姫は顔を真っ赤にする。


「トルネッタ姉様……私、恥ずかしいです……」


マイロナ姫が俺の服の袖を引っ張る。

彼女は、生まれてから今までの間に、風呂場を担当する使用人のナターシャの他に、自分の裸を見せた経験がないのだ。


本来のシナリオ通りに話が進んだ場合でも、彼女は勇者パーティの女性メンバーと共に温泉に入ることになる。

そして今と同様に、皆と温泉に浸かることを恥ずかしがるのだ。

歳の近い魔法使いレアリィがその場をリードする形で、マイロナ姫は温泉というものを堪能するのだった。


かくいう私も、トルネッタ姫に転生してから、誰かと風呂を共にしたことはない。


「これも旅の良い経験となるでしょう」


私は震える手を必死に抑えながら、マイロナ姫の頭を撫でた。


「よし。それじゃ早速、ひとっ風呂(ぷろ)浴びようかね」


ラベルラが先頭になって、私たちは湯場を訪れた。


「女三人ね」


「あいよ!」


ラベルラが三人分の銅貨を番頭に渡して、奥の脱衣所に進む。

私は自分の胸の高鳴りを耳にしながら、マイロナ姫と一緒にラベルラの後を追った。


『なんか居心地が悪いな、こういう健康的な場所はよ……』


べスタロドが肩を縮める。


脱衣所に入ると、早速ラベルラが服を脱ぎ始める。

私も彼女に続いて服を脱ぎ始めた。


全裸になったラベルラの姿は、酒浸りの生活を送っていた割には、だらしのないものではなかった。

全身にはほどよく肉が付いており、張りのある豊かな乳房とくびれた腰つきからは、女性ならではの包容力が感じられる。


「なんだい、人の体をじっと見て……ああ、これかい?」


彼女の体には、細かな傷痕(きずあと)があちこちにあった。

私がそれらに目を奪われていると思ったのだろう。


「十年も旅を続けるとさ、色んなことが起きるってもんだ。後方で回復役(ヒーラー)に徹していても、ときには大きな危険に晒されることもある。(いく)つもの修羅場をくぐってきた証……。それが、この数々の傷痕(きずあと)さ」


彼女が喋っているのを聞きながら、私の方も一糸も(まと)わぬ姿になった。


「はーっ……アンタは顔だけじゃなくて、体つきまで美人さんだね」


今度はラベルラの方が、私の体を凝視する。

トルネッタ姫の体は細く華奢で、手足は長くスラリとしており、乳房は決して大きくはないがツンと形よく膨らんでおり、腰つきは(なま)めかしいものであった。

いわゆるモデル体系というヤツである。


「さて……。マイロナは準備ができたかい? ……おやおや」


ラベルラが私の後にいるはずのマイロナ姫に声をかける。

私の心臓はもう爆発してしまいそうだった。

私はゆっくりと、後を振り返った。


「……」


そこには、私の期待したものは無かった。

服を着たままのマイロナ姫が、顔を真っ赤にして(うつむ)いていた。


「トルネッタ姉様……やっぱり、恥ずかしいです……」


「服を脱ぐのです、マイロナ」


私は自分がトルネッタ姫であることを忘れないよう、厳しい態度を意識して言い放った。


「ね、姉様……」


「このような機会は、長旅を続ける中で何度も訪れます。今ここでできなければ、今後もできないままとなるでしょう。貴方(あなた)は、今後も旅を続けたいでしょう?」


私は強い口調で言葉を続けた。


「……はい」


「やってみせなさい、マイロナ」


私の言葉を受けて、意を決したマイロナ姫はゆっくりと服を脱ぎ始めた。

私はその一挙手一投足を脳裏に刻み込むように、じっと眺めていた。


「へぇーっ。健康そうな良い体をしているじゃないの」


丸裸になったマイロナ姫の姿を見て、ラベルラが声をあげる。


「あ、あまり見ないで下さい……」


マイロナ姫は胸部と陰部を手で隠す。


「そのように隠さず、全てをさらけ出すのです。背筋を伸ばし、腕を後で組みなさい」


私がマイロナ姫に言うと、彼女は俺から目線を反らしながらも、私の言葉に従った。


――美しすぎる。


まだ細い四肢は、その内に宿る筋肉によって(すこ)やかな曲線を描いている。

発育途中の胸部は、乳房と呼ぶにはまだ早いような、ささやかな膨らみを形作っており、その先端にはまだ(つぼみ)のように小さくピンク色をした突先がある。

無駄な肉が一切ない腹部は筋肉で割れており、彼女の体が鍛えあげられたものであることを証明する。


そして、そこから下には――。


私は心から愛する者の全てが目の前にあることに、言葉を失っていた。


『まだまだ体つきは子供のものだっていうのに、あんだけ強いんだ。人間ってのは、見た目だけじゃ分からないもんだねえ』


べスタロドが感嘆した声をあげる。


「も、もうよろしいでしょうか! トルネッタ姉様!」


そう言うと、私の返事を待つことなく、再び胸部と陰部を手で隠した。


「よくできました、マイロナ。これが、ラベルラの言う『裸の付き合い』というものです。さあ、これから湯船につかる番ですよ」


私はマイロナ姫のことを今すぐこの場で押し倒し、深く愛し合いたいという欲望を抑えることで精一杯になっていた。


「さあ、ついておいで。風呂を楽しむよ」


ラベルラが先頭になって、私たちは風呂場に足を踏み入れたのだった。

お読みいただきありがとうございました。

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