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第2章・タクヤ(5)

僕とセロフィアは、行商人フェルノールトと一緒に、イネブルの街の出入口でレアリィの到着を待っていた。


「ではフェルノールトさんは、世界中を周りながら、商売をしているのですね」


「そうなんです。とはいっても、僕はまだ駆け出しだから、比較的初心者向けの大きな街道沿いしか経験がありませんが……」


「その歳で独り立ちしようっていうんだから、大したものだよ」


「小さい頃から父に行商の旅に連れられていたので、行商人としての肌感覚ってのが、なんとなくで分かるんですよ」


僕たちのパーティは、フェルノールトを護衛するという依頼を受けることにした。

僕たちの荷物を荷馬車の空いたスペースに置かせて貰うことで、旅は随分と快適なものになるはずだ。

想定よりも早く、クリプトに辿り着けることだろう。


「お待たせーっ!」


「おっ、来た来た。……って、何。その大荷物」


待ち合わせ場所に来たレアリィは、両手いっぱいに食材を抱えていた。


「宿屋のおばちゃんに、カバルダスタ風の料理を色々と教わったからね。せっかく荷馬車が使えるんだし、道中で色々と再現しようと思って!」


そう言いながらレアリィは、抱え持った大量の食材を荷馬車に押し込んだ。


「それじゃ、準備はいいですか?」


フェルノールトは荷台の座席から僕たちに向かって声をかける。


「ああ。それじゃあ旅立とうか」


「クリプトに向けて、いざ、しゅっぱーつ!」


「行きましょう、フェルノールトさん」


僕たち三人の声を聞いたフェルノールトは前を向いた。


「では、行きます!」


フェルノールトが手綱を引くと、馬車はゆっくりと進み始めた。


馬がポックリポックリと歩く音が、耳に心地良い。


「これは楽でいい……!」


重い手荷物から解放されて、僕は背を伸ばしながら歩くことができた。


「アタシたちも馬車を手に入れようよ、防御くん!」


僕と同じことを感じていたのか、レアリィが馬車の入手を勧めてくる。


「荷台があれば、動けなくなった者を()ながら旅ができますね……!」


セロフィアは、グレリオを荷台に乗せてクリプトへ向かう光景を想像しているのだろう。


「馬車ってのは、やっぱりお高いものなのかい?」


僕はフェルノールトに向かって声をかける。


「そうですね、そう簡単に購入できる金額ではありません。ボクのこの荷馬車だって、ローンを組んで購入したものですから」


「ローンで購入、か……」


僕はふと、前世のことを思い出す。

僕と同じぐらいの年齢で家庭を築いた者達と飲んだ時、彼らは家や車の購入のためのローンについて愚痴っていたものだ。

そんなに悩むぐらいなら、買わなければ良いのに……僕はそう思っていた。


こうやって、パーティのリーダーの立場に置かれた今、僕は彼らの気持ちが少し分かったような気がした。


「ラオウールさん達は、何の目的で旅をしているんですか?」


「僕たちの目的は、魔王グランゼパンを倒すことなんだ。今は、そのために必要な四聖獣のオーブを集めているところさ」


僕はフェルノールトに答えながら、腰鞄から取り出した玄武のオーブを見せる。


「これが四聖獣のオーブのひとつ、玄武のオーブさ」


「えっ!? じゃあ、ラオウールさんってもしかして、勇者様なんですか?」


「うん。まあ、一応、そう呼ばれてはいるよ」


正直、未だに自分が勇者扱いされることに違和感がある。

僕はどこか自信なさげに答えた。


「それじゃボクは、とんでもない方々に護衛をお願いしてしまっていたんですね! そうとは気付かずに、失礼しました……」


フェルノールトが恐縮したように頭を下げる。


「気にしなくていいよ、フェルノールト」


「そうそう! 防御くん相手にかしこまる必要なんて全然ないって!」


レアリィが横から口を挟んでくる。


「ぼ、防御くん……?」


「僕の渾名(あだな)だよ。まあ、詳しい話は聞かないでおいて……」


「は、はあ……」


フェルノールトはどこか気まずそうな表情をする。


「フェルノールトは、どうして行商人になろうと思ったんだい?」


話を反らすために、僕は別の質問を投げかけた。


「やっぱり、父と一緒に長い間、行商の旅を続けていたから、でしょうか……」


フェルノールトは空を見上げた。


「父は随分と行商の旅で苦労をしていたみたいでした……。ボクには常々、『行商なんてするんじゃない、王宮に士官しろ』なんて事を言ってました。そのためにボクを学校に入れようとしていましたし、入学に必要な知識を得るためだと本を買い与えられていました」


フェルノールトは言葉を続ける。


「でもボクは、王宮へ士官するつもりはありませんでした。やはりボクには、誰かに()かれたレールの上に乗るような生き方は、性に合わなかったんです」


その言葉を聞いて、僕は喉元に出かかった言葉を飲み込んだ。


僕は、「レールに乗る生き方」といった表現を使う者に言いたいのだ。

レールに乗り続けることはとても難しいものだということを。


前世での僕は、自分なりにレールに乗った人生を歩んでいたつもりだった。

親の言葉に従って進学校に通い、恥ずかしくない程度の学歴を得て、一目置かれるような会社に就職して……。

人生の節目節目で、僕は僕なりに悩み、考え、答えを出したつもりだ。


ところが僕の人生は、結果的にはレールから外れてしまった。

自分なりには、レールに乗る努力はしたつもりだったのに。


この世界に転生して、今度こそレールに乗った人生を送ろうと思っていたのに、今は不本意な行動を余儀なくされている。


そもそも、人の生き方にレールなんてものはない――。

僕はそう思い始めていたのだった。


フェルノールトは、僕が一人で勝手に思いを巡らせていることに気付くこともなく、言葉を続けていった。


「それに、ボクは行商人の生き方が好きでした。色んな場所に行き、色んな人に出会い、色んな物に触れる。こんな魅力的な生き方は他にない。ボクはそう思って、父の反対を押しのけて、一人の行商人として独立して生きることを決めたんです」


「へーっ。アタシとたいして年齢が変わらないだろうに、しっかりしてるわね……」


「レアリィさんだって凄いですよ。勇者様のお供をして、魔王グランゼパンを討伐しようというんだから。人には真似できないことです」


「フフン、でしょう? そんな凄い人が一緒なんだから、感謝してよね、防御くん!」


レアリィが肘で僕の背中を突く。


「はいはい。しっかり者でちゃっかり者のレアリィには、感謝しております」


「何よ、そのテキトーな言い方!」


僕とセロフィア、そしてフェルノールトは、笑い声をあげるのだった。

お読みいただきありがとうございました。

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