第2章・ミサキ(4)
旅を続けた私とマイロナ姫の二人は、マルニ村だった場所の入口に辿り着いていた。
ここまでの道中に現れるモンスター共が地味に厄介だった。
本来であれば勇者パーティが総出で相手をするような連中を、たった二人で戦い抜かなければならなかったからだ。
幸いなことに、この世界ではNPCである私にもダミーのステータスやスキルが割り振られており、戦力として戦闘に参加することができた。
そして私の習得スキルは、べスタロドと深い関係にあるせいか、敵キャラ専用のチート級のものがズラリと並んでいた。
例えば、私には無限魔力というパッシブ・スキルがある。
私が何らかの行動を取る際には、直前に自動で魔力が回復するというものだ。
このスキルによって、私は強力なスキルを使い放題だった。
おかげで、二人だけでもここまで無事に旅を進めることができたが、体力回復薬もそれなりの数を消費していた。
プレナド国への長旅を続けるとなると、やはりラベルラの回復スキルが必要であると、改めて実感した。
「ここが、マルニ村の跡地……。禍々しい雰囲気を感じます……!」
マイロナ姫が背筋を震わせる。
「悪魔が住み着いている、とのことでしたね。慎重に進みましょう」
私たちは村の跡地に足を踏み入れた。
建物は焼かれ崩れ落ち、あらゆる物が壊され潰されて、草木が無遠慮に生え広がっていた。
「ゲッゲッ! こんな所に人間がなんの用だ! ここは魔王軍の前線基地だぞ!」
突然、小さな悪魔が私たちの前に立ち塞がる。
下級悪魔のバンプという雑魚敵である。
「あっ! あんたはべスタロドさんじゃ……!?」
私の脇にいるべスタロドに気付いたのか、バンプは驚きの声をあげる。
どうやら悪魔には、私に取り憑いたべスタロドの姿が見えるらしい。
『いや……そうなんだが……。すまねえな、俺のために死んでくれ』
べスタロドはバンプに向かって申し訳なさそうに、片手で謝る仕草をしてみせた。
「へっ?」
「魔式斬刀!」
呆気に取られたバンプに対して、私は魔法による斬撃スキルを発動させた。
「ゲゲェッ! な、なんで……」
完全に不意を突かれたバンプは、私が発動させた攻撃スキルの直撃を受け、真っ二つになってから消え去った。
『ああ……。こうなったらもう、やるしかねえな……!』
仲間を一人、見殺しにしてしまったのだ。
毒を食らわば皿まで――べスタロドも腹をくくったようだ。
「あっ! 人間が仲間をやりやがった!」
「べスタロドさんがいるじゃないか! なんで俺たちの仲間を……!」
周囲から複数のバンプたちが現れて、私たちを取り囲む。
「出ましたね、悪魔たち……!」
マイロナ姫が悪魔からの攻撃に備えて構える。
「魔式爆撃!」
私はすかさず、自分を中心とした広範囲の敵を攻撃する攻撃スキルを発動させる。
「ゲゲェッ!」「グギャッ!」「ギエェッ!」
私たちに詰め寄っていたバンプたちは、私のスキルによってまとめて爆散していった。
「たあぁぁっ!」
私の攻撃の範囲外にいた一体のバンプに向かって、マイロナ姫が飛び蹴りを浴びせる。
「グゲェェッ!」
重い一撃を急所に受けたバンプは吹き飛ばされながらその姿を消した。
「なんの騒ぎだ! グフフフ!」
低く太い大きな声が辺りに響き渡る。
この場所を支配している、中級悪魔デルタンのお出ましのようだ。
身長は二メートルを超えるであろう、大柄な体格をした緑色の悪魔が、太く長い棍棒を手にして姿を現した。
「グフ!? なんでべスタロド殿がここに?」
『久方ぶりだな、デルタンよ。ここは貴様のシマだったのか』
「な、なんだって俺の手下どもを!?」
『ちょいと事情が合ってだな……。悪いがデルタン、貴様もここで死んでもらう』
「グフ! 何を言って……!?」
先手必勝とばかりに、まだ喋っている最中のデルタンの懐に、マイロナ姫は素早く飛び込んだ。
「でえぇぇいっ!」
マイロナ姫はデルタンの腹に向かって重い正拳突きの一撃を繰り出す。
「グフォッ!? 小童めが、小癪な!」
デルタンはダメージを負った様子を見せたものの怯むことはなく、棍棒を高々と振り上げてマイロナ姫に叩きつけようとした。
「魔式必眠!」
すかさず私がスキルを発動させると、デルタンは「グゥ……」と深い眠りについた。
魔式必眠――対象の状態異常耐性を貫通して、百パーセント必ず睡眠状態にする、本来であれば敵専用の反則スキルである。
デルタンは肩を落とした状態で眠りこけている。
状況が飲み込めず、マイロナ姫は次の攻撃を躊躇していた。
彼女にとっては、『睡眠』という状態異常は初めてみるものなのだろう。
「どうしたのです! そのまま攻撃をお続けなさい!」
「は、はい! トルネッタ姉様! たあっ!」
マイロナ姫は回し蹴りを繰り出して、デルタンの脇腹に踵を激しく打ち付ける。
その衝撃にデルタンは目を覚ました。
「グフォッ、グフォッ!? よくもやってくれたな、人間!」
「魔式必眠!」
目を覚ましたところに、私がすかさず魔式必眠を発動させる。
「グゥ……」
デルタンは再び深い眠りについた。
――パターン入った!
私はこの戦いの勝利を確信した。
私が魔式必眠でデルタンを眠らせ、マイロナ姫がデルタンに一撃を与え、衝撃で目を覚ましたデルタンに私が再び魔式必眠を仕掛ける。
後は同じことを繰り返せば良い。
「ていっ!」
「グフッ! に、人間のくせに……!? グゥ……」
「せいやぁっ!」
「グフォッ! おのれ、卑怯だぞ……! グゥ……」
「姉様! これはなんと言いましょうか、良い戦い方ではないのでは……!?」
あまりにも一方的な展開に、マイロナ姫が戸惑いの表情を見せる。
「構いません! この者達の手によって、村はこのような惨状になったのです! 遠慮の必要は全くありません! 村人たちの無念を晴らしてみせなさい!」
「わ、分かりました! たぁぁっ!」
デルタンは完全にマイロナ姫のサンドバック状態になっていた。
「グ……グフォッ……! う、恨みますぞ、べスタロド殿……!」
マイロナ姫の打撃を何度も何度も受け続けたデルタンは、最後にはその場に倒れ込み、そして消滅した。
「や、やりました! トルネッタ姉様!」
そういうマイロナ姫の表情は、どこか浮かないものであった。
「よくやりました、マイロナ」
私はマイロナ姫の手を取り、労をねぎらった。
「はい……! あまり、勝ったという気持ちではありませんが……」
「手段はどうあれ、わたくしたちが悪魔を討伐したのです。誇りなさい、マイロナ」
『ああ、とうとうやっちまった……! これで全部だよな、他にはいねえよな……』
べスタロドはキョロキョロと辺りを伺っていた。
生き残っている下級悪魔がいないか、探しているのだろう。
「さて、銀のロザリオを持ち帰ってくるように、とのことでしたね……。おそらくは教会の建物内にあるのでしょう。行きますよ、マイロナ」
「はい!」
私たちは村の跡地から、教会だったと思わしき廃屋を見つけた。
そして、その中で銀のロザリオを発見したのだった。
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