第四十二話:巨大マルシーズ討伐は容易ではなかったよ…
どうも井中です。諸事情で一周また遅れてしまいました。最近いろいろと忙しいことがありましたがこれからも続けていきますのでよろしくお願いします。今回も少し長くなりましたが時間があるときに読んでくださると幸いです
何日たったであろうか。彼らはいつもこんなに長く戦っているの?。今目の前では先ほどまで一緒に戦ってきた仲間が多く倒れてしまっていた。衛生兵の人たちが避難所で全力で治療に取り掛かっているがよくなる人は少ない。あたしはそれをただ眺めて見守ることしかできなかった。
東雲副隊長はあの後再び別の部隊の人たちと合流して助けに行ったのでここには来ていない。あたしもついて行くと言ったのだが東雲副隊長から「凉さん。お気づきでないかもしれませんがかなり疲労が溜まっているようなお顔ですよ。まだ私たちより若いのですから一度戻って休んでください」
メっとあたしを叱るように言うのでしぶしぶ了解してあたしはこっちのほうに戻ってきた。戻ってからはよく覚えてないが気が付いたら起きていて今に至るというわけだ。なんとなく回想に耽っていると後ろから声を掛けられる。
「墨坪さん。少しいいですか?」
「はい。何ですか」
「司令官、呉の司令官があなたのことを呼んでいましたのでその知らせに来ました。直ちに向こうの仮拠点に行ってもらえると助かります」
あたしを呼びに来た隊員も満身創痍なのか丁寧な言い方を心がけようとしていたが疲れからなのか少し語気が強くイラついているようであった。先ほどあの人も仲間の一人がやられてしまったからだろう。あたしはすぐにここから出て呉の司令官がいるテントに向かった。
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テントの中は意外と明るく、簡易的な机を取り囲むようにして見たことが無い人たちが秘密の会議が行われるような雰囲気が漂っていた。現在の時刻はお昼ごろであった。あたしは深く深呼吸をして話し始める。
「失礼します。特別殲滅部隊所属、墨坪凉です。あの先ほど招集があると聞いてきました」
敬礼をし目線の先を真正面に向けると爽やかそうな顔つきの人がいて隊服にはでかでかと司令官と書かれた襷がかけられていた。どうやら確認するまでもなくあの方がここの指揮官だろうと思った。その司令官と書かれた襷を持った人はにこりと笑ったのち話す。
「よく来てくれた。墨坪くん。とても感謝する。あ、僕の名前は橘大和。ここ呉基地の司令官を務めている者だ。よろしく頼む。では早速集まったことから本題に入ろうか。墨坪くん、もっと近くに来なさい」
終始笑顔を絶やさない橘司令官は敬礼をして、私に手招きをした。なんだか思い描いていたイメージがすごく歴戦のおじいちゃんみたいな人かなと思っていたから想像と違ってなんだかすごく違和感を持ったが導かれながら輪の中に入っていった。
「じゃあ始めるがまず初めに現状の確認からお願い。」
「わかりました」
橘司令官が早々に言うと横にいた人が説明を始める。
「結論から申しますとかなり押されている状況になります。現在新生物マルシーズの攻撃は第4波目であり、これは通常よりも大が型な種のマルシーズが確認され、我が呉基地が全総力を挙げてもなお、その猛攻を止めることが出来ていない状況です」
ひと段落が付くとこの場にいる全員少しため息をついていた。あたしはこれがもう第何波とかは知らなかったが確かに戦っていくうちに次第に敵の大きさも大きくなって行った気がしたのを思い出す。一瞬静まり返ったが橘司令官がその静寂を破った。
「続けてくれ」
「はい。ただいまこのマルシーズの侵攻を受けているところが九州地方の南東沿岸部。四国地方全域。そして瀬戸内海側の中国地方であり、九州の方ではあちらの隊員たちによる防人部隊の結成により被害は最小限に抑えられており、四国地方では羽田基地から救援でやってきた特別殲滅部隊隊長、千楽寺アケツミによってすべて薙ぎ払われており、特殊な結界によって中に入ることがただいまできません。そしてこちらの方では大友を主軸とした討伐隊と避難してきた人たちの護衛をする護衛部隊の二手に分かれて作戦を行っていますが討伐隊の方ではかなり苦戦を強いられているそうです」
長々と状況を説明してくれた人にあたしは感謝をしつつ、耳を傾け続けた。今のところあたしが呼ばれた理由が全くないということだけがあれだがもう何となくなぜ呼ばれてきたのかが分かってきた。
「ありがとう。今後も随時報告してくれると助かる。ではこれを踏まえて今後の対策を立てようと思う、がただ率直な話を言ってしまうともうすでに僕の方で打開の作戦はいくつか考えてある」
「そりゃあどがいなものなんかのぉ」
「それはだな。そこにいる彼女がキーマンだ」
そう言って橘司令官はあたしに指をさしてきた。その顔は少し価値を確信しているようなにやけ面で周りにいた人たちは一斉にあたしを見る。にやけ面をしながら話を続ける。
「羽田基地にいる山風総司令官に聞いた話だが彼女の能力は見た相手を動けなくする能力らしい。動けないところをすぐに倒してもらおうということだ」
「なるほど。確かにアイデアとしていい案なのかもしれませんが、それは負担がいくらなんでも大きすぎませんか?」
「そうですね。それに墨坪さんは今年に入ったばかりの新人ですよ。そこまで無茶をさせるわけにはいかないのでは?」
「君たちそう口々にするが何か代わりの案はあるのか?」
口々に不安点を述べていた隊員は橘司令官のその一言で黙りこくってしまった。いや何も言い返すことが無かったのだろう。
「ほら。やっぱりこの案しかないと僕は思うんだ。これ以上このままを維持し続ければ確実に戦力が削がれ、ジリ貧となる。そうなる前に僕たちは打開の一手を打たなければならない。墨坪くんもそれでいいかな」
そう聞いてくる橘司令官にあたしは一度呼吸を整えてから答える。
「・・・。はい。もちろんです。あたしたちがここに来たのはそのためですから」
脳裏によぎった言葉を反芻しながら落ち着いて答えると橘司令官は何かを察したのかにやりと笑って話す。
「そうか。じゃあ、それでいこう。もし能力が通じなかったり、何らかの理由でだめだったら墨坪くんのとこの隊長に任せるから安心して頑張ってくれ。お前たちも全力でこの子をバックアップするぞ!」
激励の言葉が飛んだ瞬間その場にいた隊員全員が大きく返事をする。その声の圧がすごくてあたしは少し気圧されてしまったが同時に少し口角が上がっていたのに気づいた。
「では墨坪くん。外に送迎用に特殊車を用意してあるからそれに乗って向かってくれ。そして畝くんたちは援護車に乗って先に前に行って小さいやつを一掃して言ってくれ」
「承知しました」
畝くんと呼ばれた青年は周りの人たちを連れてテントを勢いよく飛び出していった。すれ違いざまに横顔が見えたが漸くの勝機が見えたからなのかそれともただ単純に戦って役に立てることが嬉しいからなのかはわからないがすごく嬉しそうに見えた。
ほかの隊員が出て行った後、テントに残されたのがあたしと橘司令官だけとなってしまった。司令官と二人っきりの空間は少し気まずいようであったが羽田基地にいる指揮官さんよりかは緊張はしなかった。
「・・・すまないね。こんなことになってしまって」
「えっ?」
唐突に静かな声が聞こえてきた。先ほどまでの威勢のいい感じの橘司令官ではなく、残業疲れで精気を失ったようなサラリーマンのようであった。
「はは、心底驚いた顔をしているね。まぁその反応が普通だよ」
戸惑いも含まれていた表情もきっと見透かされているような眼でこちらを見てくる橘司令官は力なく肩にかけていた司令官と書かれた襷を力なく取った。
「ごめんね。本当の僕はこうなんだ。はは、これからも関わっていく人たちには一応知ってもらっておこうと思っててね」
「・・・。そうなんですね」
正直な話をしてしまうと少しコメントに困ってしまう。今から戦いに赴く人に対して暗いような感じを出すのはよくないと普通に思ってしまった。
「・・・。墨坪くんが思っていることはごもっともだよ」
「‼‼?」
「隠してもしょうがないからいうけど僕には読心術があるんだ。ははは」
「・・・す、すごいですね。そんな能力があるなんて」
「お世辞はよしてくれ。こんな能力が戦いの場で使えることなんてないんだからさ。・・・じゃあなんで今司令官になっているのかも気になるよね」
何も言わずにただ思ったことが読み取られてしまう気持ちの悪さと確かに気になっていることの回答の興味が今あたしの中で入り混じっていた。
「そうですね。確かに気になります。どうして橘司令官は司令官になったんですか?」
「ひたすらに。ただがむしゃらに足掻いていたからだよ。心を読んで勝手に傷ついたこともあったけどそれでも頑張り続けたから今の僕があるんだ。だからね。墨坪くん。今君が抱えている悩みとか考えていることは今この瞬間だけは忘れて全力で任務にあたってほしいんだ」
「・・・。わかりました」
暗い状態は続いていたがその顔には確かな覚悟が見られた。そして今までひそかにずっと考えていたことが当然のようにばれていたことにあたしは少しあきれ返って心の中で笑った。それを見て橘司令官も柔和な笑顔を浮かべていた。するとテントの外から声が聞こえてきた。
「墨坪さん!。もう出発します。早く来てください!」
「ほら、行け。墨坪くんの活躍に期待しているぞ」
外ではあたしを催促する声が聞こえ、声のする方に向かって行く。もう振り返らなかったが後ろから聞こえてきた橘司令官の声は初めに会った活気のある青年の声であった。
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外に行くと目の前にはなんか戦車とは言えないような感じの車があった。前方は戦車のような形をしているのに後ろの方は改造されたのか普通の軽トラの荷台がくっついていた。なんというか戦車と軽トラのキメラはなんかその形容し難いような異様さがあった。
「来ましたね。では墨坪さん荷台に乗ってください」
「はい…」
もうだいぶ待たせてしまったので反論することなくあたしは荷台に乗った。乗ると同時に戦車軽トラ略して戦トラは急発進した。その反動であたしは振り落とされそうになったが何とかしがみついて耐える。道路は舗装されていたが崩れた建物のがれきや消滅していない新生物のあとを戦車のタイヤがガタガタと轢いて行った。
「目的のところに着いたら能力の使用をお願いしますね」
「了解しました」
前方に座っている人から声が聞こえてきたので事務的な返事をしてそのまま乗り続けた。かなりの速さで進んでいたからか先に前方に行ってマルシーズを倒している車両に追い付く。先頭の車両はただの軽トラで荷台からマルシーズを銃撃して応戦している様子はまさにアポカリプスで奔走して戦っている人みたいであった。
しばらくそうこうしていると前方の車両から音声が聞こえてきた。
「前方5m先に3mくらいの中型のやつがいます」
身を乗り出してあたしも覗いてみると確かにそこには大きなマグロの顔をしたマルシーズがいた。ぎょろッとした目がこちらを見つめてきてあたしの背筋は冷やりとした。そしてその報告を聞くとあたしが乗っている戦トラの操縦者が言う。
「気にしないでそのまま前進してください」
「了解」
ただその一言の返事だけを聞いた瞬間、戦トラがゴゴゴゴッという音と共に前方についていた主砲が角度をつけて狙いを定めていた。なんだかまずい予感がすると戦トラの中から声が聞こえてきた。
「墨坪さん。耳を防いでください」
言われたとおりに指示に従うと轟音と共に主砲から一発の弾が飛び、目を向けると対象が命中し爆ぜていた。弾けたマルシーズの中から飛び出した液体が上から振ってきてもろにかぶってしまった。
青い色の液体はねばねばとしていて肌に吸着するようでとても気持ち悪かった。隊服もたくさん濡れてしまい着心地も悪かったが今は着替えられないので我慢するしかないと心の中で思った。
更に走行していくとまた中から声が聞こえてきた。あたしは少しでも服が乾かせるようにべとべとした液体を取っ払っていて常備しているタオルで体をふいていた。
「もうすぐです。墨坪さん。銃声音も聞こえていると思います。また今巨大なマルシーズの姿が見えていないと思いますが、ある程度近寄ると見えるようになりますのでいきなり見えても驚かずにすかさず動きを止めてみてください。・・・では行きますよ」
そういうと戦トラはさらにスピードを上げて行った。このまま先に進むと瀬戸内海のほうに出る。そして日差しが眼にかかり、眼をすぼめて開くとそこには太陽を覆い隠すほどの大きな巨人のようなマルシーズが立っていた。
あたしは動きを止めるためにその大きな体を収めようと手で囲いをつくり、能力を発動しようとする。青い晴れ晴れとした空を隠すような巨大な壁は大きくひれを動かして猛攻に耐えていた。




