第四十一話:途中参戦ほど胸が高まるものはない
どうも井中です。いろいろあって予定より遅くなりました。もう少し短いですが時間があるときに読んでくださると幸いです!。
乃々葉に抱き着いてから俺はしばらく動けなくなっていたが悪くない気分であった。軽く首を振って周りを確認する。ドアが開きっぱなしになっていた。俺の横にはちゃんと俺の刀はあった。肩が少し濡れるのを感じる。その直後乃々葉が泣きはらした顔で話す。
「ごめんね。ちょっともう駄目だと思っちゃってたから。ふ~。ふふ。鷹島さん五日間も何も口に入れていないんですよ」
「え!。そんなにですか!?。アレ、俺って意外とタフなんか?。」
「いや。そんことはないですよ。ここに来た時鷹島さん座禅組みながら白目で泡吹いてましたからね。私とてもびっくりしましたよ~。」
「・・・なんかすいません」
乃々葉が「もう!」とか言いながらぷく~っと頬を膨らまして少し怒っていたので俺はひたすら機嫌を取るかのように謝っていた。
「そういえば乃々葉。乃々葉がここに来たってことはなんかあったのか?。相棒もいないみたいだし、あれか?代わりに来たみたいな感じなんか?」
俺は今の状況の整理をするために乃々葉に尋ねると少し深刻そうに答えが返ってきた。
「そう、ですね。私がここに来たのは千楽寺さんの頼みではなくて山風指揮官から直々に頼まれたものです。ただいま鷹島さん以外の特別殲滅部隊の方たちは広島のほうに行っています」
「?。なんで俺以外みんな広島に行ってるん?。俺だけはぶられたんか…」
「違いますよ。別に鷹島さん抜きで旅行に行っているわけではありません!。今四国・中国地方で大量の新生物が出現していましてその数の多さゆえに派遣されました。鷹島さんは修行していたのでおいて行くと風の噂で聞いていましたのでそれでここにいるんだと思います」
俺が内心落ち込んでいると乃々葉が慰めるようにしてあたふたと事情の説明をして、頭をなでてくれていた。『そうか俺は見捨てられていなかったのか』と心の中で安心してひとまず平常心を取り戻した。
「それで俺はこの後どうなるわけなんだ?。このまま加勢に行くのか?」
このままずっとここにいては俺自身としてもむずがゆいような気がしていたので乃々葉に当然のように聞くと何とも言えないような返事が返ってくる。
「多分?。私は山風指揮官から『大至急様子を見てくてくれ』としか言われていませんから何とも言えませんがまぁとりあえず山風指揮官がいるところに向かってみてはどうですか?」
「確かに。んじゃ、そうするわ」
きっと山風指揮官も起きたら自分で聞きに来いとか言いそうなタイプの人だから多分そうなんだろうと思いながらその提案に賛成した。そばにある刀をつかみ腰に携え立ち上がって俺は乃々葉に挨拶をした。
「それじゃ。俺は指令室に向かってみるよ。ありがとな。俺のことを起こしに来てくれて。きっと来てくれなきゃ俺はあのまま帰れなかったところだったからさ」
そういうと乃々葉は何のことかわかっていないのか初めポカンとしていたが次第に表情が柔らかくなって朗らかな声で返事をした。
「・・・どういたしまして。私はずっと鷹島君の味方ですからね。いつでも頼ってください!」
その声を聴き、俺は踵を返して道場を出る。そして足早に指令室に向かって行った。向かっている最中に久々の外を眺めたがなんだか人の気配が少ないように感じた。指令室のある建物に向かう際に、体術のための訓練場(外)を通るがいつもはどこかしらの部隊の人たちが訓練をしているにもかかわらず今回に限っては一人もいなかった。
さらに奇妙なことに建物に入るとこれまた人の気配が少ない。指令室に着くまでにすれ違った数少ない人たちはみんな支援員の方たちであわただしく廊下を移動しており、俺に気づいていないようでもあった。
指令室に着き、ドアをノックして大きな声で名を名乗ると向こう側から冷静な返事が返ってきた。
「特別殲滅部隊所属鷹島春久です!」
「入れ。すまん今手が離せない」
「失礼します。お久しぶりですね」
山風指揮官は一瞬振り向き俺のことを一瞥し、一言言ってとすぐに仕事に戻って行った。しばらく待っているとこちらに山風指揮官が話しかけてきた。
「すまない。待たせたな。・・・ちゃんと起きたみたいだな」
「はい!。なんか俺五日間も修行してたらしいです」
「そ、そうか。よく死ななかったな」
元気よく答えると山風指揮官は少し言葉に詰まりながら苦笑し話し続けた。
「その、鷹島。別に君を傷つける意図はないが、その少し、臭いがあるからとりあえずシャワーを浴びてこい」
山風指揮官はフォローのつもりでシャワーを促してきたが俺は自分が臭いなんて思ってもいなかったから普通にショックを受けた。そのまま一言言ってシャワーを浴びに一時的に部屋に帰った。
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五日ぶりの俺の部屋は誇り一つないほどにきれいになっていた。いやもう誰が入ったかとか詮索するつもりはないが十中八九あの人だとわかる。
「・・・もうあの人俺の部屋で過ごしてんじゃないかって思うわ」
当然ながら風呂場の浴槽もピカピカにされており、備え付けてある鏡も入ることが出来るんじゃないかと思うほどにピカピカであった。シャンプーやボディーソープもすべて入っていた。
まるで自分がもてなされているような感覚に陥りそうになったがよくよく考えると普通に不法侵入ということに気が付き、また今度来たときに軽く話をしておこうとシャワーを浴びながら思った。
五日分の方の汚れを落とし、冷蔵庫に何か入っていないか確認をするとほとんど空っぽではあったが一つだけお皿が置いてあった。ラップをしてあり付箋が貼ってありかわいい文字で書かれていた。
「鷹島さんのために作り置きをしておきました!。食べてくださいね」
ラップをはがして中を見てみると回鍋肉が入っており温めて食べてみると久々に口にちゃんとした食べ物を入れたせいか感動が押し寄せてきた。なんのたれを使っているのかわかんないがとても口に合うような感じのであり、同時に懐かしさも感じた。
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懐かしさを一通り楽しんだ後に再び山風指揮官に会いに、指令室に戻るとそこでは山風指揮官がずっと待っていたかのように佇んでいた。俺はすかさず言葉を発した。
「帰ってきました。これでもう臭いはないですよね」
「・・・ああ。そうだな」
せっかく風呂に入ってきたというのにまだ何か不満げのありそうな山風指揮官を気にせずに話を続けた。
「それで乃々葉から聞いたんですが俺以外の特別殲滅部隊の人たちは広島のほうに行っているんですか?」
「まぁそうだな。それがどうしたんだ?」
なんだかいつもよりとげとげしく、そっけないような感じで答え、まるで何事もないような感じで返答をした。何か考えがあるのかと思い尋ねる。
「あの。俺は行かなくていいんですか?。その大変かもしれませんので」
「いや。鷹島には今すぐに行ってもらいたい場所があるから先にそっちの方を頼みたい。広島のほうはまだ何とかなっているから安心しろ」
そう促している山風指揮官に少し違和感を感じた。普通救援の要請があれば、いつも俺たちを向かわせていたのにそこに今回は俺だけ行けていないということが無性に腹が立った。そしてちょっと八つ当たりのように言う。
「・・・別にその広島のほうに出てきた新生物も大したことではないんですよね。相棒が行っているんですから俺なんかいらないってことですよね」
「私はそうとは言っていない」
「けど、実際向かわせてくれないってことはそう言っているようなもんじゃないですか」
「はぁ。いいか鷹島。今回君を向かわせていないのは単に特訓していたからではなく絶望的に相性が悪いからなんだよ。私が視た予知では鷹島が行くと即刻返り討ちになって死んでいた」
「・・・!」
説教をするように言っているはずなのに少し物憂げなのが山風指揮官からは感じ、俺はそれ以上何も言えなくなってしまった。山風指揮官はそのまま続けて話す。
「数日前までだったらどうにかなっていたんだが未来は常に変化する。あるときから鷹島が向かうとやられてしまう未来が視えるようになったのだ。ただえさえいま人員が少ない現状で新進気鋭の君がいなくなってしまうのは私個人としても望ましくない。だからな。こんなことを言っては鷹島が傷つくかもしれないが特訓をしていてくれて今はありがたいとさえ思っている」
「そうなんですね…」
「少し湿っぽくなってしまったかな。代わりと言っては何だが鷹島には私の秘密を話しておこうと思っている」
そう言ってちゃんと俺のほうに向きなおって言う。
「私の能力は実は制限が利いていない。もうすぐ私は死ぬだろう」
「は?」
内容が衝撃すぎて頭が追い付いてこない。山風指揮官が死ぬ?
「鷹島は能力を持っていないからわからんと思うが、突然変異で発現した特殊能力は必ずしも全員に順応するわけではない。ある人は完璧に使いこなしてほぼ無限と使えるが、ある人は一度きりで使えなくなる。そして能力は普通使えば使うほどに慣れていき順応することが出来るが、私はどうにもその才はないらしい。私の教官が言っていたことだが「能力は筋肉のように鍛えるとより強固になり、多くの人を助ける武器となる」と言っていたが私は能力を使うたびに視力が落ち始めていた」
「そして気づいたら歯止めが利かず、身体がうまく言うことを聞かなくなってきた」
「で、でもそれで死ぬとは限らないじゃないですか!。能力が原因なら治癒で直せるんじゃ・・・」
俺が言いかけると山風指揮官は静かに首を振る。
「残念だがこうなってしまったらもう寿命が尽きるのを待つしかない。私も多くの隊員を見てきたが戦場で死ぬ奴とこうして能力に身体を蝕まれ食い殺される奴をたくさん見てきたからな」
口角を少し上げ、ドアのほうに歩いて行った。後ろから眺める背中は初めて会った当初から変わらぬ威厳が漂っていたが少しずつ小さくなっているような気がした。山風指揮官は出て行く前に振り返りいう。
「だからな。鷹島。私は君にここですぐに死んでほしくはない。もっと鍛え、多くの人をその磨いた技で助けてやれ」
視線を刀に一瞬向けて俺の眼を見て、少し笑った。
「・・・草津のほうでも新生物が暴れているからそっちに救援に行ってもらってもいい。大切な部隊の人たちが気になるなら、呉の方に行ってもいい。どっちに決めるかは鷹島に委ねる。決まったら第一ヘリポートに向かってくれ」
そう言い残して山風指揮官はどこかへ去ってしまった。起きてからいろんなことを知ったからなのか頭は混乱していた。しかし俺のすることは変わらない。
「救えるのであれば救う。それが今の俺にできることだ」
誰もいない部屋を出て俺は第一ヘリポートに向かって行った。




