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第四十話:キノコ式訓練その一(抜き足の極意)

どうも井中です。今回も少し長くなってしまっていますので時間があるときに読んでくださると幸いです!。

訓練を始めてからどのくらい経ったであろうか。ここには太陽とか月なんていうようなものはないので何日陽が過ぎたのかわかるわけもなく、ただただ真っ白い景色が広がっていた。食事もキノコが気まぐれで木の実をくれるくらいでたまにお腹がすいていないときにでも食べさせてこようとする。すごく人懐っこいのかかわいい目で食べさせてこようとするからことをろうにも断ることもできない。


「はぁ、だいぶその早く動くやつは見慣れたけど、見慣れただけなんだよなぁ。まだ俺の身体の方が動きに対応できてないな」


「!っ!! !! !っ!っ! っ!!! !! !っ!っっ !っ っ!っっ!」


「キノコのその話し方も表情でだいたいなんて言っているかもわかってきたけど、やっぱりなぁ…」


大きくため息をつく。今の俺とキノコの間には明らかな大きな溝が存在していた。飛び越えることのできないほどの大きな溝があり、そこへ至るための手段が思いつかない。キノコの速度は常識を逸脱し物理の法則を無視しているくらい早く、目で視認するのが今の精一杯である。ああ~あの時最初になんて言っていたかわかっていたらもっと簡単に攻略ができたかもしれないと思うと無念でたまらないぜ。


キノコは俺がいろいろと考えているのをまじまじと眺めてニコニコしていた。何も考えていないような無邪気なその顔は俺を励ますように見ていた。その顔を見て俺は頭の中でこれを攻略する方法を一つ思いついた。うまくいったときのことを思い浮かべて少し口角が上がり、そのままその場で座禅を組み、キノコに話す。


「まだまだ戦えるからもっと打ってくれ!」


キノコがどんな顔をしているかは不明であるが素足で移動する音が聞こえる。俺の推測ではこの業は人から探知されている状態からでしか発動ができないと思った。目で追うと肉体的に限界がやってくる。本来人は見えていないところには意識が向くことが無いはずである。急に脅かされたりしたときとかまさにな。


じゃあその意識があるときとないときの境界をないようにすれば、うまくいくのではというのが本作戦である。幸い、俺は人より気配には敏感である方なのでこの静かなところで動くキノコは目で追えずとも何となく場所をつかむことが出来る。


いつ襲い掛かってくるかもわからないこの状況で俺は意識を極限まで高めてキノコの動きをより鮮明にとらえる。戸惑っているのか多少の緩急を付けながら俺の周りをまわっているだけであった。そしてその時が来る。


「!」


後方左後ろから近づき、無駄のない振りかぶりで首を狙ってきたのが分かった。瞬時に木刀を手に取り、すかさず防御をする。キノコは防がれると思っていなかったのか驚いており、眼を丸く見開いていた。ようやく防ぐことが出来、俺は内心すごくテンションが上がっており、にやにやしてキノコを煽る。


「っしゃ!。やっとわかったぞ!見たかキノコよ!。ようやく見切ったぞ!。もうこれで同じ出には二度と引っ掛からないぞ」


ガハハと大きく笑い、キノコのほうを見ると柔和な笑みを浮かべつつもどこか少し悔しそうにも見えた。どのくらいキノコがここにいて、そしてこの業を磨き上げてきたかは俺にはわかるはずもない。だからこそ長年積み上げてきた業が破られたのがきっと悔しいからそんな顔をするのだろうと思った。少し泣きそうにも見えたキノコに俺は笑うのをやめて話しかける


「・・・しか~し!まだここでは終わりではない。次はこれを俺が体得するまでが目標となった。だからキノコ、これからもいろいろ教えてくれよな」


「・・! ・!・!・」


返事をしてくれ、満面の笑みを浮かべながらキノコは木刀を構え、そして意趣返しと言わんばかりにいきなり仕掛けてきたので俺は手も足も出ずにやられて膝を地につけた。どこか勝ち誇った顔をしており、俺も少し唖然としながら立ち上がった。


『きっとキノコは見取り稽古でしか教えられないからこうしているのだろうな』


心の中でそう思いながらいまだしっかりと眼で追うことのできない動きを捉えにいく。目を開けている状態ではさすがにまだわからないので眼を閉じ、集中をして動きを学んでいく。この動きの謎はたとえ直線的に突っ込んできても眼に見えることが出来ないことだ。


俺には学があまりないからこれが何なのかはわからないがそこにいるということだけはわかる。地面を蹴り近づいてくる足音が異様に大きく聞こえ、反射的に木刀を振るがそこには当たった感触は残されていなかった。眼を開け振り向くとやはりという感じかキノコの姿がそこにはあった。


「くそぉ~。どうしてそんなに見えないんだよ。なんかしゃべってくれよ~」


キノコは相変わらずなんか説明しているみたいだがちゃんとなんて言っているかまではよくわからなかったが「そんなにすぐにはできないよ」と言っているような感じがした。どうすればいいかを考えていると

キノコが不意に俺の脇をつついてきた。何かを伝えようとしているのが分かり、眼を向けると「今度はそっちから攻めてみて」と言わんばかりに立ち止まって構えを取っていた。


意図をくみ取り少し離れたところから打ち込もうと構え、キノコの方を一目見るとそこには幼い見た目に反して只ならぬオーラがあるのが俺にでも分かった。ぶれることなくただ一点だけを見つめるその(まなこ)は俺には見えていない景色があるのが視られている立場としてわかる。


乱れていた呼吸を整え、足を踏み出そうとしてもうまく体が動かない。木刀を持つ手が震えて今にも落としそうであり、自分がまだ未熟であることがいやでもわからされてしまう。受けているときはこれほどまでにプレッシャーがなかったというのに。あの時はキノコがまだ手加減をしていたと思わされて仕方がなかった。


「・・・。無理だ。勝てない」


手に持っていた木刀を落として再び膝から崩れ落ちる。何度も崩れ落ちてきたがこれまでとは比較にならないほどの絶望があった。キノコは予想していなかったのかこちらに駆け寄ってくれた。すでに先ほどのようなオーラはなく、ただ無邪気な子供のような様子になった。


ーーーーー

一度休憩がてら木の実を食べながらキノコの身体に触れようとして見た。俺の身体はしばらくここにいるうちに何となく形成されて実体化していたがキノコの身体は最初に会ったときからずっと透けているように見えていた。


肩に手が当たる瞬間にキノコはこちらに気づきちょっと不機嫌そうに俺を見た。とっさに手を引き、謝るとキノコは俺が何をしようとしたのかを察知したのか体を寄せてきた。


「触っていいのか?」


俺がそう尋ねるとキノコはこくりとうなずき、先ほど引いた手で肩に触れてみた。


「!」


俺の考えが甘かったのが()()()()で分かった。すべすべした感触で子供らしい丸みを帯びたような曲線がそこにはあった。触れている部分だけが実体のようなのか肩だけが鮮明にはっきりとした色が見える。白い素肌で骨があるようには思えないほど柔らかく、そのまま手を滑らして頬まで触れてみる。


キノコ恥ずかしいのか照れくさそうな仕草をしていたが俺はそんなことに気を取られなかった。そんなことよりも手で触れたところだけでも骨があるようには思えなかった。・・・いや断言しよう。骨がないのが分かった。きっと全部がそうなんだろうと思った。


ちょっと怖くもあったが試しにキノコのことを抱き寄せてみる。匂いとかはないが落ち着くような感じがして全体的にやはりというか柔らかかった。そして抱き着いてわかったのがこの姿、俺にも骨がないことがその柔らかさから気が付いた。


~~~

羽田基地


特別殲滅部隊(鷹島春久を除く)が出発してから数時間が経った。隊長である千楽寺アケツミから本任務とは毛ほども関係がないような連絡が着た一方で呉基地の司令官からも一通の連絡が来ていた。


「はぁ。とうとうばれてしまったか。一人向かっていないことがな」


「どうされますか山風指揮官?。今すぐ向かわせますか?」


オペレーターの一人が進言したが私は軽く首を横に振った。


「向こうの状況は少し、いやかなり劣勢を強いられている。特殊変異体が出現したそうだがこちらとしても今向かわせられるものがいない。もうしばらくしても鷹島のやつが戻ってこなかったら何とかするとの旨を伝えといてくれ」


「しかしそれでは万が一先に向こうがやられてしまうかもしれませんよ」


「大丈夫だ。君たちよ。心配をするな。私が見た未来は絶対だ。案ずるでない」


安心させるようにオペレーターの者たちに言うと納得したくれたようですぐさま仕事に戻ってくれた。


『私としても早く鷹島には例の修行が終わってほしいものだな。・・・一応布石を打っておくか』


そうして一本の連絡をあるものにして私は目の前の別の仕事に目を向けた。


~~~

身体を触ってからしばらくして俺たちはただいま特訓を中断し、追いかけっこをして遊んでいた。


ただ追いかけっこをしているわけではない。捕まったら相手の身体をまさぐって二分くらいくすぐられるという罰がある。


「っやめてくれw。もう限界w」


まぁ一方的に俺は捕まってばっかりなんだけどな。キノコはワクワクした顔で何度も集中的に攻めてくるためとても敏感になっていくのが分かった。抱き着いているときにこの身体だとかなり感覚が鋭敏になっているわかったため、ちょっと好奇心でこの遊びを提案するとキノコは目を輝かせて誘いに乗ってしまい、今では少し後悔している。


しかしこのおかげでかなりいい感じに走るコツをつかんだ。走りながら相手の認識から自分の姿を捉えさせないことで見えない状況を創り出すということらしい。まだ完全に理解しきれていないところも多くあるためうまく使えてはいないが追いかけながらその片鱗はあった。そして何度目かの追いかけで俺はとうとうキノコを捕まえることが出来た。


「よし、捕まえたぞ。一瞬俺のことを見失っただろ。ふふふ、じゃあ約束通りに身体をこちょばすからな」


腋から初めお腹をこちょばしたり、足の方とかも念入りにくすぐってやるとキノコはすごくくすぐったかったのか終わったころにはすごく息が上がっておりちょっとなんか目覚めそうであった。いやキノコは性別不明だからほんとになんでもない。


そして再び追いかけっこが始まる。特にルールなどはないが追いかけ捕まえを繰り返すだけでもすごく楽しく、久々にいい気分になった。本当に子供に戻ったかのような気がした。


今度は俺が追いかけられる番。追いかけてくるキノコは後ろから捕まえようとしているのが気配でとらえられる。肝心の眼で追うことはできないが後ろからでもそれを逆手にとって俺が目の前から消えればいい。


一瞬のうちに身体を左右に揺さぶり、キノコの意識から外れる。その刹那わざと立ち止まり過ぎ去るのを待ってそして・・・


「ほら。捕まえた」


「!」


キノコの肩に触れておしまいにする。すごくびっくりしているようでそれでいてとても眼を輝かせていた。俺は我ながらとてもスマートにできてしまったことにうぬぼれてニマニマした。もう完全にどうすればいいかはわかった。キノコも嬉しそうになったが俺は容赦なくくすぐってやった。


「よし!。キノコ。俺にもう一度木刀で稽古をお願いします」


「・! ・! !!」


またなんて言っているかわからん言葉を発したが木刀を持ち、構えを取った。あの時のプレッシャーも今となっては少したじろぐくらいになった。俺も木刀を取りに行き、待っているとこに行くとそこにはすでに姿がなかった。


すぐに眼を閉じ、どこにいるかを把握しようとした瞬間に無意識に体が動き、気づいていなかったキノコの攻撃を受けきった。何が起こったか俺もキノコもわかっていなかったがすぐに体制を立て直して今度は俺から切りにかかった。動きがばれないように大きく動きながら視界から意識から外れるようにして切りかかる。


「いける。入る!」


「!」


腋に入りそうになった木刀は寸でのところで地面にたたき落とされ体の体勢が崩れ、追い打ちをかけるようにしてキノコが打ってきたので一度距離を取る。立て直すと同時に踏み出してすでに姿が見えないキノコを探る。速度は追い付けないが眼を閉じ意識を高め位置を捉え、攻撃の準備をする。


『俺にできてキノコにはできない技で最後一本を取る!』


一瞬。キノコがこちらを認識した瞬間に詰め寄って打つ。


「天音太刀抜刀術が一つ:神風(かみかぜ)


神速でより木刀を治め軽くキノコの頭を触る。キノコは上を見上げて俺の方を見て、心底嬉しそうに笑っていた。


勝負がつき一息ついて俺はあることに気が付き、キノコに話しかける。


「あの。これ俺どうやって帰るんだ?」


「?」


俺に寄り添って揺れているキノコはよくわかっていないのかただニコニコしているだけだった。


「帰れないのか俺」


帰れないのかと思うとふと身体がぶれるのを感じた。例えるならなんかゲームのバグみたいに姿が保てなくて揺れるみたいな感じ。次第に視界もぶれていき体がふらつき始め、倒れてしまい、キノコが心配そうにこちらを見てくる。問題ないと言いたいところだがもうすでに意識が保てそうになかった。泣きそうな顔がみえ、それが最後の光景となって画面は白くなった。


ーーーーー

目が覚め起き上がるとなんだか見慣れた場所で隣でわんわん泣いている声が聞こえそっちを向くとなんだか久しい顔があった。


「あ?。乃々葉じゃん。どうして泣いているんだよ。おい」


「あ!。やっと目が覚めた!。よがっだ~。死んじゃってるって思ったじゃん」


そういう乃々葉は俺に抱き着き、頭が混乱した。どのくらいの時間が経ったのか知らないが外はかなり明るく、もうお昼頃であった。冷たい隙間風が肌をすり抜けていった。

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