第三十六話:地面の味はしょっぱかった
どうも井中です!今回で深海の話を終えます。短いですが時間があるときに読んでくださると幸いです。また警察の方の話もどこかで書きたいと思っています。
長い時間をかけて俺が暗い海の底から手の皮がぐしゃぐしゃになりながら船に這い上がるとなんかすべてが丸く収まっていた。
甲板によじ登り、立てるほどの力も残っておらずそのまま匍匐前進で歩いていると廊下で朱鷺さんに出会った。朱鷺さんは持っていたお盆を投げ捨てながら近寄って肩を貸してもらった。「大丈夫ですか!」とまぁ当然ながらの反応をされたので生きていますとだけ言った。意識が無くなる境界にいるのか視界があんまりはっきりしていなかったのを覚えている。
「そうだ…。凉はだいじょぶ…なんですか?」
「ええ、彼女もちゃんと乗っていますよ。あとで会えると思います。軽く回復させておきますからね」
支えてもらっている手から心が満たされていくような安心と力が戻ってき、その後操縦席で話をして帰りのヘリを待っていた。ヘリに乗ると優しい香りが眠気を誘ってきたので爆睡をした。
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気が付くとヘリは日本に着いたようで相棒が肩を揺らしながら声をかけてきた。外は陽が落ちてきている時刻であり、少し暑さが残っていた。
「おい、着いたぞ。起きろ。春棒。このまま寝てると連れてかれるぞ」
「?ほあ?。あれ?もう着いたんか。結構早かったなぁ」
「はは、香熾たちはもう降りているからな。あと、指揮官からの連絡だが今日のところはもう帰って休んでいろだってさ。明日任務についての報告は俺の方でやっとくから春棒は玉の休みをゆっくりしてろ。それじゃ俺は用ができたから先に行くな」
「あ、はい。お疲れ様です」
相棒は振り返り軽くにやりと笑ってどこかに行ってしまった。見送った後、体の疲れが限界突破しているのか動く気配がなかったのでヘリの中で休んでいると操縦士の人からそのまましばらく休んでいいと言ってもらえたのでまた俺は夢の中に入ることにした。
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「・・・・・。夢か…」
しばらく時間が経ったであろうか。ヘリの中で再び目が覚めるとあたりは真っ暗であった。そして窓から見える景色は先ほどとは変わってないようであった。
先ほど見た夢は幸せであった。地元の生活で何不自由は少しあるけれど、それなりに周りの人に恵まれて楽しい生活をしていた。もちろんここに入ることもなくのどかであり、戦うこともなく安全で、それでいて・・・・。
「・・・。いいや!。そんなことを思い返しても変わらん!。今を大事にしないととりあえず凉の様子を確認しに行こう」
ドアは空いており、よく壊れてしまうくらい勢いよく開き、凉がいるであろう建物に走り始めた。建物はかすかに窓から明るい光が漏れていて都会と言うことを感じる。夢とは大違いであった。
建物の中に入り、受付にいた人に事情を話すとすんなりと場所教えてくれた。廊下はかすかに電気がついているくらいで少し先が見えないくらい暗いほどだったが今はそんなことより、凉の様子のほうが大事である。頭の中で『大丈夫。きっと大丈夫と』しゃべっていると携えている刀がわずかに温かみを帯びているような気がした。
部屋番号334 墨坪凉。目的の場所に着くとかすかにドアは空いており、中に入ると先に相棒が座っていた。相棒は入ってくるのを察知してこちらを振り向き。声をかける。
「だいぶ長く寝てたな。春棒よ」
「はは、体が動かなかったんですよ。それよりも、凉の様子は…」
相棒は憐憫の表情をしながら一拍置いて告げる。
「・・・。すまない。洗脳、解くことが出来ない。もうこの先もこのままだ」
「 …」
もうすでに表情から何となく察してはいた。洗脳を解くことが出来ないと聞かされ俺はそんなはずがないと!叫びそうになったが必死でおさえ、理由を尋ねる。
「どうして、できないんですか。相棒ならそのくらいできますよね。事象を改変できるんですから。できないはずがないですよね」
「っ!。・・・ああ、確かにできないわけではない」
「じゃあ!どうしてなんですか」
「落ち着いてくれ。手をかけている刀から下ろせ。いや下ろしてくれ。感情をむき出しにしてはいけない。今から話すから。ちゃんとな」
気付かないうちに手に刀をおき、抜刀しようとしていたことを教えられ、おとなしく震える手を下げ話を聞いた。相棒の視線は刀から俺の顔に移り口を開く。
「正確には解除してはいけないんだ」
「は?。言っている意味が分かりません」
「人波エイトと言う人物が墨坪及びあそこの場にいた人たちにかけた能力はただの洗脳ではなく、過去を捏造させる洗脳。いわば劣化版ではあるが俺と似た分類の能力なんだ」
「その洗脳によって食らった人の過去はその人にとって本当にあった出来事として上書きされ、これに干渉して俺らが知っている記憶を直そうとしてもその知っている記憶が彼女たちにとって知らない記憶となってしまうから脳が拒否の反応を示してしまって出来ないんだ」
「で、でも相棒は同じことが出来るんだろ⁉」
「ああ、できるとも。ただ、それは俺の命と等価交換なんだ。春棒もすみの時に見たであろう。能力を使うものの中には代償を払う人たちがいることを。俺の場合は体の一部分を能力の規模に応じて欠損する。ものを出現させる程度なら赤血球10万ほどでいいんだが、対象に対して行動を起こすようなことをすると体の腕や脚が消える。さらに人に干渉する能力だと感覚も消える。最後に世界に干渉すると命が消える。今回は墨坪の生きてきたまがい物の世界の記憶を変えるから俺の命は消えてしまう。無論ほかの人が同じことをしようなんて以ての外だ」
「そ、そんな…。・・・じゃあもう凉は、俺の知っている凉じゃなくなるんですか」
「ああ、そうだ。・・・涙」
「・・・。違います。これは心の血です」
そっと渡されるハンカチを受け取り、握りしめ、墨坪が寝ているシーツを濡らした。相棒はもう話すことなくただ病室から出て行く足音を残していった。
「・・・なぁ凉。出会ってからそんなに日は経ってないけど、俺といて楽しかったか?。辛いこともたくさんあったと思うけど俺は凉と会えてよかった。君が唯一の同期で仲間でうれしかった。凉は、どうなんだ?。・・・・・返事をしてくれるわけないよな。・・・ごめんな。不甲斐ない彼氏で。そばで歩いてやるってい言ったのに勝手に消えてごめんな。・・・大好きだ。今までも。これからも。気持ちが揺らぐことはないから。明日からの君がどんなであっても俺は君が望む形で生きていく。だからお願い。先にいかないでくれよ」
凉の手を握る力が強くなっていく。もうそこに知っている人はいないにもかかわらず希望にすがる姿を見たら凉はなんていうだろうか。
月明かりが部屋の中を照らしてくる。明日起きたらよく知らない人が寝ていると思うけど、びっくりしてしまうかな。そんなことを考えながら最後俺の知っている凉に別れを告げるために小さくてそれでいて少し角ばった手を握り、三度目の睡眠を始めた。
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朝目が覚めると、頭に何か柔らかいものが乗っていた。顔をひねらせ上を向くとそこには朗らかな表情をした墨坪がいた。俺が起きたのを確認すると小悪魔じみた顔で俺の頬をつつきながら声をかけてくる。
「お、ようやく目が覚めたのね。もう。ずっとあたしの上で寝てたから起こすか迷ってたんだよね~。おはよ。よく眠れた?春久君」
「ああ、ごめんな。ちょっと気になってたから見に来たんだがそのまま寝ちまった。わり、すぐに消えるから」
「あ、別にそんなにいやだったとかじゃないよ。ただ、ほらね。あんまり知らない人が隣どころか膝にいたらびっくりするし。そういうことだから。あまり気にしないでね」
「ああ。じゃ、俺は行くよ」
「うん。またね」
少し距離を感じつつも返事をかわし、俺は部屋を出た。廊下に行くと墨坪の部屋に行く看護師の人たちが見えてきたが俺は気にしないで外に向かって行った。
建物の外に出てから俺は海に出る前にいた埠頭に向かった。海は今日もきれいであんなことがあったなんて想起させないくらいまぶしく照り輝いていた。遠くを眺めているとふと最後の会話を思い出した。あんなにあっけなく終わってしまうなんて思ってもいなかった。そして思い返すと胸にこみあげてくるものがあり、それは涙として流れてきた。
「ぅぅぅう。凉ぅ。凉ぅ」
一度あふれてくるともうとどまることを知らないのがぼろぼろと涙が流れてきた。照り付ける太陽は燃やさんとばかり光っているがこの涙を乾かすのに時間がかかっていた。
軽く警察の話をしますとあの後は何事もなくZLKのメンバーを捉え、しっかりと尋問をしたそうです。




