第二十八話:荒波に揉まれるのはいいものじゃない
どうも井中です。時間があるときにゆっくりと読んでくださると幸いです!。
この駆逐艦の名前を聞いてから三日が経った。この間目的の場所に向かっていただけなので特にすることはなかった。今俺は甲板におり、潮風を受けてぼーっと空を眺めていた。
「ねぇ。春久君?。聞いてるの?。お~い。もしかして船酔いで気絶してるの?」
「・・・。いや船酔いはしてないわ」
「じゃあ何してたんの?」
隣で同じくぼーっとしていた凉が顔を覗き込んで聞いてきた。愛らしく聞いてくるその仕草は恋人の俺だから耐えれたけど恋人でない俺は死んでたな。俺は正直に答える。
「青い空と流れる雲を見てた。ほらどうよ。あそこの雲なんて竜みたいに見えるだろ」
「そうかな?。どっちかって言ったら鞭じゃない?」
「まじ?。あの上あたりが顔に見えたんだけどなぁ」
そう言って指をさして説明をしていたがいまいちわかってもらえなかった。凉が言っていた鞭ってどのあたりのことを言っているのか俺にはよくわからなかった。すると涼のポケットから何かの着信音が聞こえた。
「あ、東雲副隊長から連絡が来てる。今からお話があるってさ。とりあえず操縦室に来てだって。行こ」
「了解。なんだろう。また船内の掃除をしろとかかなあれちょっと面倒なんだよな」
「まぁ文句言ってても仕方ないし行こう」
俺はこの三日の出来事を振り返って少し気持ちが下がっていた。涼の合図とともに俺たちは甲板から操縦室に向かって行った。
ーーーーー
「それで何の用なのですか?」
操縦室には俺と凉以外の三人が集まって何かしているようであった。その様子は外から眺めている俺たちにすら届きそうな勢いで緊迫していた。そんな中相棒がこちらに気づいたのか声をかける。
「おお。来たか。ちょっとそこのソファーに座っててくれ」
「?わかりました」
言われたとおりにソファーに座ると朱鷺さんが深刻そうに話を始めた。
「今ね。ちょっとした問題が発生してしまってどうしようか話し合っていたんですよ」
「ちょっとした問題?」
「ええ、今向かっている先で積乱雲が発生しているらしくて。このまま進んでしまっても構わないそうなのですが万が一のことを速度を落として進むかで三人で話していたんです」
「はえ~」
真剣に説明をしてくれている朱鷺さんの横で相棒と香熾さんがうんうんと首を縦にしてうなずいていた。つい気の抜けた返事が出てしまっていたが特段誰も気にしてはいなかったようだった。
「そこで鷹島君と墨坪さんからも意見が聞きたくてここへ呼んだのです。どう思いますか?」
「あたしは万が一のことを考えてゆっくり行った方がいいと思いますよ。海が荒れてこの『真・暁』が転覆しちゃったら大変ですからね」
凉がそういうと香熾さんは口角が上がり相棒と朱鷺さんのほうを見た。それを見た二人は何も言えないような顔をしていたのを俺は見逃さなかった。
「そしたら今、ちょうど意見が真っ二つに分かれたわけだが。春棒。すべてはお前にかかっているぞ」
「え。マジですか。そんな重大なこと俺が最後決めるんですか。え、ほ、他に代案とかないんですか?」
何かにすがるように俺以外の全員は何も言わずにこちらにものすごいプレッシャーを与える目で見てきていた。みんなすごい笑顔なのになんだかその視線は肉体を貫かんとするほど痛かった。俺は遺恨を残さないように自分の今持っている意見と弁解をする。
「はぁ・・・」
一呼吸おいてからゆっくりと話す。
「俺はこのまま進むべきだと思いますよ」
それを聞いたとたん相棒が口角を上げ俺を見てから香熾さんのほうを見た。朱鷺さんは静かに小さくガッツポーズをしていた。そして俺はそのまま続けて言う。
「正直な話、航海の経験とかはないのでどのくらい積乱雲が影響するとか知らないです。最悪帰れないかもしれない。それでも行方が分からなくなった隊員をいち早く助けに行かないといけません。生死がどうあれ。だから俺は多少危険があっても向かうべきだと思います」
覚悟をもって言い切ると相棒は笑みを浮かべて感激しているようであった。香熾さんと凉もなんだか納得している様子であったし悪くない判断であったと思った。するといきなり相棒が立ち上がり意気揚々として言う
「よく言ってくれた。まさしくその通りである、春棒。俺もそう思っている。・・・よし俺も踏ん切りがついた。このまま速度を上げて一気に通り抜ける!!」
「!?」
「大丈夫だ。ここにいる乗員の命は必ず守ると約束するからそんなにびっくりするな。」
全員が驚いた顔をしていたが相棒はもう止まらないのかおおらかに笑っていた。そりゃそんなことができたんなら初めからそうしてればよかったろとこの場にいる誰もが思っていた。
「ちなみに千楽寺君?。それで何日くらいでこの積乱雲から抜け出せるのかしら?」
「そうだな。・・・二日かな。ははは。」
ただいま航海してから三日。この先二日も後悔することになった。その後相棒は俺たちに部屋に戻って休息をしておくように言うだけ言うと床から舵輪を出して何やらいじっていた。その姿を見た後に俺たちは部屋に戻って休息をとった。
俺の部屋は凉と同じ部屋になっている。部屋に戻ってから特にすることもなかったので静かに日課の刀の
手入れをしていた。凉はベッドで横になって手入れしている俺を眺めていた。
「そういえば春久君ってちゃんと刀の手入れとかしてるんだね。あんまりちゃんと見たことなかったけどすごく大変そうだね」
凉は今まで見たことが無かったのか興味を示して聞いてきた。確かに俺は刀の手入れをいつも寝る前とかにしている。その時にはすでに凉は寝てしまっているので見たことが無かったのか。俺は自己納得しうなずいていた。
「まぁ大変と言えば大変だけど。毎日やってたらなもう慣れちゃってるよ。それに訓練疲れで何回か手入れする前に寝落ちすようとするとテツテツがすごく怒ってくるんだよ」
「テツテツ?」
「あ。」
俺は言った瞬間に気が付いた。不意にそれも自然といつもの話をしていたからか気が抜けて誤ってテツテツの名前を出してしまった。いや別に出しちゃダメではなかった気がするけど。一応俺は凉に説明をする。
「そのテツテツと言うのはこの刀の名前だよ。なんかせっかく一緒にいるんだし名前を付けようと思ってな。はは」
「そうだったんだ。なんだかかわいい名前だね!。いいな~。あたしもそういう唯一無二の自分の武器が欲しいな~。そしたら名前つけるのに」
俺は返事をしつつ笑っていると脳内からいきなり怒号がした。予想していたことだがテツテツが話しかけてきていた。
『おい、小僧。何勝手なことを話しているのだ。わしの名前は鉄鉄山であってテツテツと違うわ。何適当なことを話しておるんじゃ。はぁ。手入れを忘れるのだって小僧がまだ未熟であってな・・・・』
『はいはい…。もうわかったから。ごめんって訂正しておくから。』
そう言うとテツテツは『全く』と言って静かになった。ここ最近夜にテツテツと話しているせいか実は少し寝不足でもあったりする。
「何またぼーっとしてるの。手が止まってるよ」
『そうだそうだ。手を動かせ小僧』
そしてテツテツも最近はなんだか態度が横柄になってきている気もしている。
「すまんすまん。でさっきの話なんだけど。一応テツテツにもちゃんとした名前があって鉄鉄山って言うんだよ。だからテツテツ」
「ああ~!。それでね。はいはい!。納得したわ」
それは指で空が気をして凉に説明をすると納得したのかすごくうなずいて笑顔で笑っていた。するとテツテツはまだ少し言いたげであったがよしとしてくれたのか『まぁいい』と言ってくれて俺は一安心して最後の工程を仕上げた。
真・暁が速度を上げてから早6時間。いま俺は一人で部屋の窓からその様子を眺めていた。吹いている風の影響からなのか少しずつ波が粗くなってきていて船が揺れ始めてきた。雨もぽつぽつと降り始めてきていた。
「・・・。かなり暗くなってきたなぁ。ちゃんと向かっているか?」
しばらくすると雨も本格的に降り始めてきて雷もなってきていよいよって感じがしてきた。船はかなり上下に揺れてきて体の中の臓物が浮くような感覚もしてきた。
「うぉっと!。かなり危ないなぁもともと備え付けてあったやつは大丈夫そうだけどその他の荷物が・・・」
かなり揺れてきていたからか荷物、主に衣類が入っているケースなどが動いていた。中には俺のじゃない凉の隊服なども入っているため、衣類が揺れで散乱したときに勝手に触るのは気が引ける。
「ああ、早く帰ってこないかな」
揺れが激しく、たまらず俺は二段ベッドの鉄柵に捕まって耐えていた。すると船内に放送がかかった。
「あ~あ、聞こえてるか?。ただいまの時刻19時50分。かなりの荒波で結構揺れてるけどしっかりとどこかにしがみついてろ。と言うわけで各員の健闘を祈ってる」
ブツッという音とともに放送が切れた。いやわかっているわ窓から見てもかなりの揺れ具合で枕が飛んでくるわ。
「よ、ようやく帰ってこれた!。もうかなり揺れてて大変なんだけど!!」
疲れ切った声で凉が帰ってきたようだ。ああ、こんな中で帰ってくるなんて俺はその度胸に敬意を示した。
「おかえりっ!。かなり揺れてたけど大丈夫なのかッ!」
振り返って凉のほうを見ると髪がまだ濡れているような状態であり、艶めかしい雰囲気があった。
「いやいや!。今はそんなことを考えてる場合じゃないわ!。とりあえず無事か?」
「うん。あたしは!。まだ平気だけどかなり揺れててまた汗をかいちゃったよ!。帰ってくる道中もかなり揺れてていややったよ」
そんな風に言ってい入るがなぜか俺にはまだ全然余裕そうに見えた。
「と言うかこの後こんなに揺れてたら絶対に寝れないじゃん!。そっちの方が問題だよ!。千楽寺隊長が健闘を祈るとか言ってたけど健闘どころか苦戦でしょ!。こけて頭打って死んじゃうよ!」
「しがみついてるしかないだろ!。と言うかこんなに波がっ揺れてるしむしろ転覆しないでまだ普通に進んでいる方が奇跡だろ!。ありがと神様」
俺はこのまま八百万の神に感謝をささげた。すごくいま死の瀬戸際にいるってのにテンションがやたらと高くなってきているのを感じた。
そしてしがみついてからまたしばらくした後、再び船内に相棒の声が響いてきた。いつもと変わらないトーンで話をする。
「あ~。聞こえてるか?。君たち?。夜も更けてきたし寝たいと思っている人もいると思われる。けど多分『こんなに揺れてちゃ寝れるわけねぇーだろ』とか思っている人もいると思うので寝たい人は操縦室に来てくれ。操縦室は揺れないようにしてあるので来たかったら来てくれ。以上」
ブツッと言う音とともにまた放送が切れ俺たちは向かい合って顔を見合わせた。そしてうなずいた。
「言わなくてもわかるよね」
「ああ」
そして俺たちは一緒に操縦室まで急行した。
ーーーーー
操縦室は天国かと思えるほど快適になっていた。一番乗りで着いた俺たちはその快適さに愕然としていた。相棒はさっき見た格好と全く一緒であり、舵輪を握り何とかして操縦していた。
「やってきたか。ま、そうだよな。あんなに揺れてちゃ寝れんわな。そこの棚の中に簡易の布団が用意してあるから空いてるスペースで寝ててくれ。飯はとりあえず明日まで待つか携行食でも食べててくれ」
「ありがとうございます!。ほんとに大変で。じゃあたしは先に寝てるねおやすみ~」
そう言うとすぐさま布団を引きずり出して布団に入り寝た。近くに行くと穏やかな寝息を立てていたのでほんとに寝ていた。そして凉が寝たすぐにドアが開き、何か言い合いが聞こえてきた。
「はぁ。ほんとにあなたって人はもう少し落ち着いていたらどうですか?」
「じゅ、十分落ち着いていますよ!。香純は逆になんでこんなに落ち着いているのにこっちに来るのですか?」
「!。そ、それはこんなに揺れていると寝にくいからですよ。それ以外ありますか?」
「あ、秋君と一緒にいたいとか思ってるんでしょ!」
「ち、違いますよ//」
そう香熾さんに言われ、合っていると言わんばかりに朱鷺さんの顔が赤くなっていったが小声で否定していた。
「はいはい。二人とも仲がいいことはわかってるから。寝たいならそこの棚から簡易の布団出して寝てね」
「「ん?わかったわ」」
相棒にそう言われた返事をした二人はハモっていた。そしてようやく俺がいることに気が付いたのか声をかけてきた。
「あら?。鷹島君も来ていたのね。鷹島君もここで寝に来たのかしら?」
「あ、いや。どうしよか迷ってるんですよ。凉がここに行くと言っていたので俺も来たんですけど、まだ俺シャワーを浴びてなかったなって」
「そういうことね」
そう言うと何かを納得したように朱鷺さんが妖艶な顔でにやにやしていた。香熾さんもなんだか頬が赤くなっていた。
「じゃあ私たちは一足先に寝ていますね。おやすみなさい。千楽寺君。鷹島君」
そう言うと二人は凉に横に布団を引き三人は川の字で寝始めた。なんだか窓から見える景色とこの中の様子の違いで風邪をひきそうになっていた。
「春棒は寝ないのか?明日もこんな感じだと思うし寝ておいた方がいいぞ」
「はい。一度シャワーを浴びてから寝ようと思います」
「ははっ!。こんなに揺れているのにシャワーを浴びに行くのか。勇気あるな。まぁ頑張れ」
そして俺はシャワーを浴びに行った。操縦室を出ると瞬く間に揺れが襲ってきていたが俺はもう結構慣れてきていた。
そして一度部屋に戻って用意してあった寝巻用の服を探すために先ほどの目の前のケースを漁っているとそれは凉の衣服のやつでいろいろと見てはいけないよなものがあったのでそっと俺はケースを元に戻した。そして何事もなかったかのようにほかのケースから俺の寝巻を取り出してシャワーに直行した。
シャワー室も例外なく揺れの影響を受けてかなり揺れており流れ出る水が物理法則に従ってあっちこっち行ってとてもではないが洗えるような感じではなかったが何とか格闘して洗い終わった。
シャワー室を出て着替えた洗濯物を部屋に置いてから操縦室に戻ってきた俺はもう動きたくなかったので布団を引っ張り出して三人の横に寝ようとしたがスペースがなかったので泣く泣く逆側のスペースで寝た。どうか明日は予定より早く積乱雲が過ぎ去ってますように。そう八百万の神にまた俺は祈りをささげた。




