17 愛を育む時間
ある日の午後。
庭で、ノアと御茶を楽しんでいた。
休日にノアと二人で過ごすのが二人の日課になっていた。既に王太子になる事は無くなったノアは王族として期待される事もない。故にお気楽な王子を満喫しているのだ。まぁ〜成人を迎えれば追い出されるだろうが、それまでは自由に王子を満喫出来る訳なのだ。
「そう言えば、ノアって城では何もしてないの?」
「あれから、特に強制されるスケジュールは無いよ。政務も弟達が変わりにやってると思うし。俺には大事な話も回って来なくなったし。御荷物な王子って感じかなぁ?この前、久しぶりに顔を合わせたアーサーに睨まれたよ。」
ノアは、笑いながらそう言った。
アーサーとは第二王子だ。きっと、ノアがやってた政務が自分のところに回って来て負担が増えたのだろう。今まで自分が王太子にって頑張ってきたなら、ノアを睨むような事はしないだろうから、第二王子にとっては王太子にと期待されるのは迷惑なのかもしれない。本心は分からないが。
「睨んだって事は、アーサーにとってはノアが王太子を放棄したのがムカついたって事なんじゃないの?」
「そうなのかもなぁ。母親が違うから兄弟と言っても交流が無かったし、普通の家がどうかは知らないけどさ、俺は家族愛とか分からないよ。
血の繋がった他人みたいな感覚なんだ。弟達を可愛いとか思った事ないし。
冷静に考えると俺って最低だし人間としてヤバいかもね。」
「まぁ〜環境の問題じゃない?
私だって最近まで御兄様に嫌われてると思ってたし。
いや、恨まれてるとさえ思ってたわ。」
確かに考えてみれば私達は、歪んだ家族の中で生きて来たのかもしれないと思って感慨深かった。
「なんか、暗くなる話題だったわね。それに王族や貴族ってそんなもんかも。家族愛とか考えるだけ無駄な気がするわ。」
「確かにね。だから、俺とミリアは愛ある家族になろうね。」
無邪気な笑顔を向けるノア。結婚や家族に夢を膨らませる年頃なのだろうか?
私は、結婚に夢を持つほど子供では無くなってしまった。前世の私はけして不幸せでは無かったが、結婚して子育てして大変だった経験も記憶が教えてくれるから、結婚や出産、子育てが幸せだけを齎してくれるもので無い事も知ってしまった。
だから素直に、夢を膨らませる事は出来ない。
「それだけが全てじゃないからね。
世の中には、楽しい事とそうじゃない事が同時に存在するもの。楽しい事を多く感じられる余裕を作らなきゃね。」
夢の無い事を言えばノアは不満そうに
「そりゃそうだけどさ。そうだね~とか言えば良いじゃん。ミリアは現実的過ぎ!昔は夢見がちだった癖に。」
そう言うのだ。私は確かにと笑ってしまう。
「昔と逆になったって事でしょ?
私が、昔に感じてた気持ちを嫌と言うほど感じてくれたかしら?」
「感じてるよ。悪かった。
昔の俺って酷い奴だったよね?反省してる。だから許して。昔みたいにノアノアって、くっついて。」
超絶イケメンが甘えてくるのは悪くない。
よしよし。と頭を撫でながら可愛いノアを堪能する。
素直で可愛いノアが大好きだ。
けれど、恋愛として考えれば可愛いだけでは物足りない気もする。贅沢な話だが。
私としては腹黒さとか闇を感じる方が良いと言うか。
そういうキャラに惹かれるという好みの問題だ。
ハラハラ、ドキドキ、キュンキュン。みたいなジェットコースターみたいな恋愛に憧れるのは良くある話だが、実際そんなヤツとの恋愛は疲れるだけなのも良く分かっている。
これは所謂、理想と現実みたいな話だ。
「ねぇ〜、ノア。
たまには可愛いだけじゃ無いノアも魅せてね。」
そう言うとノアは
「それを言うなら、ミリアも可愛いところ魅せてね。」
そう言って唇を重ねる。
そして、ノアは色気のある顔で私の唇を指で弄ぶ様にする。
「俺だって男だから。可愛いだけじゃいられない時もあるって心得てるつもりだけど?」
「そっ…そうね。」
ノアを、ちょっと舐めていた。
コイツの名俳優ぶりを忘れていた。いろんな顔を演じ分ける事など造作も無いのかもしれないと思い知らされた。凄い破壊力にドキドキが止まらない。
なんなのっ。17歳とは思えぬ色気はっ!
鼻血が出ないか心配になる。
私の反応にクスクスと笑って頬にキスを落としたノアは涼しい顔して御茶を飲む。
「ねぇ。ミリア。
これからの事なんだけどさ。
俺も城を出てからの事を真面目に考えなきゃと思ってるんだ。ミリアも自分の店をやってて将来を見据えてる訳だろ?ミリアの足を引っ張る男にはなりたくないしさ。けど、ミリアの傍から離れたくは無いし。
だからさ、君の父君に弟子入りしようと思うんだ。」
ん?弟子入り?
何故?と思って不思議そうな顔をすればノアは続ける。
「ミリアと同じく俺も商人にでもなろうと思って。
どんな商売かは考えてないけど、商売とは何たるか?はミリアの父君に教えを請うのが早いだろ?」
確かに、父は商売人として師匠にするのに適任だが。
「でも、私的に思う事なんだけどさ。
いつも聞くのが怖くて流してるんだけど、パパって手段を選ばない所があるからさ。法に触れるギリギリの事をしてると思うわよ?
じゃなきゃ、ここまでの富を築いて無いと思うし。
汚い遣り方とかも普通にしてると思うのよね。
人の弱味に漬け込むとか普通にやってるわ。」
「勿論、分かってるよ。
それは、王族も同じだよ。綺麗事だけじゃ無い。
あの城で育ったんだよ?俺だって分かってるさ。
自分の手を汚さず誰かを使うなんて身分の高い者は誰もが、やってる事だよ。」
そりゃそうかと思って頷けばノアは夢を語りだす。
「いつか、ミリアと色んな国を巡ったりして二人の思い出を沢山作って行きたいんだ。
他の国へは公務でしか行っては無いけど、この国の風景とは違うんだ。普通に他国に訪れ色んな経験したいなとか思うんだ。ミリアもそうだろ?」
「なんで分かったの?
私が、色んな国を見てみたいって。」
「そりゃ、俺がミリアを良く見てるからに決まってるだろ?ミリアは平民の暮らしとかに興味を持ってるし他国の情報とか本で良く読んでるしさ。」
ノアは良く私を見てた様だ。
確かに今後の事を考えて分かる範囲を調べたりしていた。そんな時、いつだってノアは傍に居たが別の事をしてたりで見てないと思ってた。
だから、なんだか意外だったけど嬉しいと思った。
私はノアに抱き着き「ノア。大好きっ」と言えばノアは私の頭を撫でながら「俺も、大好き」と答えてくれる。
私達の未来想像には、お互いが居るのが当たり前かの様に夢を描く。それが嬉しい。
自然に唇を重ね、互いの想いをぶつけ合うように熱が入る。庭に居ることも忘れて、濃厚な口づけを交わし二人の世界に夢中になってしまう。
「ミリア〜っ!!」
遠くで父の叫び声が聞こえて我に返る。
声の方に視線を向ければ、二階の窓から此方に今にも飛び降りる勢いの父が見えた。
やってしまった。
ノアと目を合わせ苦笑いになってしまう。
その後、私達二人は正座をさせられ父からの怒りと哀しみ嫉妬の言葉を聞かされた。
しかし、ノアは密室なら良いのかとか、結婚する予定だから良いじゃないかとか、愛し合ってる二人なんだから愛情表現は普通だとか父に、いちいち反論するのだ。だから余計に話がややこしくなる。
あまりにも長々と揉めていたから、兄が呆れた顔で入ってきて話を纏めてくれた。
「場所を選べ!」
それが最低条件だ。
当たり前の話なんだが。