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15 ありのままの私達


国王が去り、部屋の中はノアのシクシク泣く声だけが残った。


私はテーブルの荷物を持ち外で控えているメイドに手渡しリゾットの温めと、フルーツのカットをお願いした。



私はメイドが戻るまで本棚にあるアルバムを広げていた。幼い頃からの写真が沢山収められてある。


婚約者として一緒に過ごしたい日々が蘇ってくる。

殆どの写真のノアは同じ笑顔を貼り付けた様で笑ってしまう。笑顔を貼り付けてる癖に、私との距離を微妙に開けていて身体が拒否してるのが分かった。


それに対して私は、いつだって幸せそうな顔で笑っている。本当に出逢った頃からミリアはノアが大好きだったんだなと感じる写真だ。


メイドがワゴンを引いて戻って来る。

私はワゴンのまま受け取ると鼻水を啜るノアに声を掛ける。


「コラっ。問題児。ご飯だよ。」


「…うん。」


私はワゴンをベットサイドまで押して行き、リゾットを取り分ける。


「ノア君は自分で食べられまちゅかぁ?」


からかうように聞くとノアは苦笑いしながらも甘える。


「食べれません。」


「まったく手のかかる問題児でちゅね。」


スプーンで掬ってフーフーして「あ〜ん」と差し出すとパクりと食べる。


私は吹き出し「餌付けかっ!」と笑うとノアも笑う。


「挫折しながら大人になるのだよ。ノア君っ。」


そう言いながらリゾットを手渡す。

私も残りのリゾットを一口食べると苦笑いしながら一言。


「やっぱり、薄いわね。不味いわ。」


するとノアも自分で一口食べる。


「美味しいよ。ミリア。」


あの頃の様な笑顔を向ける。



「作り笑いは、もう卒業だからね。」


ノアは苦笑いして「やっぱり不味いね。」と言うのだった。



お口直しにとカットフルーツを食べた。一緒にアルバムを見ながら思い出話に花を咲かせる。


すると、昔話をノアがする。


「きっとミリアは覚えてないと思うけどさ、幼い頃に俺がミリアに愚痴った事があるんだ。

そしたらさ、その日からミリアは誰に対しても思った事を言うようになったんだ。

ずっとミリアは天真爛漫なんだと思ってた。羨ましいって憧れもした。


だけど、やっと分かった。

俺の愚痴を聞いて優しいミリアは俺の変わりに俺の心の声を言ってくれてるんだって。


ありがとう。ミリア。

俺は昔からミリアに守られてばかりだ。」


「ごめん。まったく覚えてないわ。

だから、きっと私が性格悪いだけよ。」


「そう言ってればいいさ。

ミリアの良いところは俺が一番知ってるから。」



本当に、覚えていない。

ノアは勝手に解釈してるだけだと思う。


たまたま、愚痴を聞いた日にノアの変わりに本音を言ったのだとしても。ずっとでは無いと思う。


だって私は、そんなの意識してないままに傲慢だったから。



「馬鹿ね。私は、そんなに良い人じゃ無いわよ。」


ノアは、それ以上何も言わなかった。

その代わりクスクスと笑っていた。



「ねぇ〜。ノア。

学園を卒業するまでココで生きていける?」


「大丈夫だよ。ココで逃げたら大人になれない。

哀れな王子を暫くやるよ。国王にも見放された王子としてね。」


「違うでしょ?貴方は愛されてるわ。

ただ、親が良かれと思った路を歩けなかっただけ。

なら、自分で選んだ路が間違ってなかったと証明するのが貴方の新たな役目でしょ?

巣立ってからも心配させる気?国を護るのは王族の特権じゃ無いのよ?城の外でも国は護れるの。


その前に、その身体をどうにかしないとね。

ちゃんと毎日、何でも良いから食べる事!

それに外に出て太陽と風に当たること!

分かった??」


ノアは笑って「はぁ〜い。ママ。」と言うから「誰がママじゃっ。」なんて言いながらケラケラと笑う。


泣いたり笑ったり子供の様に。



カーテンを開いて窓を開ける。

心地良い風が部屋を通り抜ける。


「少し外に出れそう?

久しぶりに温室に行かない?」


ノアは少し考えて「俺、歩けるかな?」と心配そうに言うから「私だって、そんなに鬼じゃ無いわよ。」と頬を膨らませる。


ノアにストールを掛けてベットサイドの椅子に座らせる。私は椅子と共にノアを温室に転移させた。


「私だって、この位の魔法は使えるのよ。

知らなかった?」


「ごめん。知らなかった。」


「良くそれで前から慕ってたとか言えたわね?

私が、ノアの婚約者として何を学んでたかなんて興味も無かったのよね?」


「確かに…。」


「知ってた。ノアは昔から嘘つきだからね。」


私は、温室にある薔薇の匂いを楽しんだ。 

 

「入学式前日の花束はココの花でしょ?

ノアから直筆のメッセージカード付きの贈り物なんて初めてだったわ。

それまでのノアからの贈り物にメッセージカードなんて付いてなかった。きっと、誰かが適当に選んだ物を送ってきてるんだろうなって分かってた。


ほんとムカつくわよね。

私って馬鹿みたいに、どんなノアでも好きみたいだわ〜。悔しいけど。」



さっきまで椅子に座ってたノアが私を後から抱き締める。背中にノアの温もりを感じる。


「だから大好きだよ。

どんな俺も好きで居てくれるミリアが俺には必要なんだ。」


「じゃ〜逆に聞くけど。

私がノアを嫌いになったらどうすんのよっ?」


「死ぬ。」


「脅す気?最低ね。」


「そう俺は最低なの。」


「まぁ〜お互い様かもね。最低な奴同士、お似合いかもねぇ。」


「で、歩けたの?」


「歩けた。」


「じゃ〜歩いて帰れ。」


「最低〜。」


「だから最低なのはお互い様っ。」



アハハハ…。

二人で大声で笑って笑って笑って。

笑い疲れた。


「よしっ。元気になったね。」


「うん」


「私、帰るよ」


「もう帰るの?」


「私も忙しいのよ」


「仕事と俺。どっちが大事?」


「女々しい奴めっ」



色気の無い遣り取り。

けれど私達は、どちらからともなく唇を重ねる。

それは、とっても自然に。



「捨てないでね」


唇が離れた瞬間にノアが発した言葉。


「この流れで発する言葉なの?

卒業したら、嫁にくる?」


「うん」


「うん。って言ったね?

じゃ〜家の事は全て任せたよ。」


「高い宝石。買っていい?」


「ねぇ〜っ!いつまで、その設定なのよっ。

オマエが働けよっ!」



ノアは微笑んで私の頬を掌で包み


「ミリア。見付けてくれて有難う。」


そう言って唇を重ねた。

きっと、こうして私達の思い出が増えて行くんだろう。





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