12 音信不通の王子様
入学式の翌日。
学園の前でノアを待つ。
しかし、授業の開始のチャイムがなってもノアは現れなかった。忙しいのかもしれないと初日は特に気にすることもなく平穏な1日を過ごした。
帰りに店に寄り、大盛況ぶりを目の当たりにし大喜びで兄に抱き着いた。
オーダーが入り過ぎて、針子を増員しないと等と兄は興奮気味だ。
商会始まって以来の盛況ぶりらしく父は涙を流して喜んだ。職人や店員達にはボーナスを支給しなくてはと私はノアの事など頭から飛んでしまっていた。
学園生活をして帰りに店に寄るが日課になってきた頃。2週間も学園に来ないノアの異常さに気付く。
1週間くらいなら急に他国へ外交目的で出向くなんて事は王族には良くある話しだと思ったりもしたが2週間は流石に可笑しいと思うのだ。
そこまで急を要する様な難しい案件も父の様子を見ても感じられない。考えれば考える程に、あの夜の事を思い出す。
嫌な予感しかしないのだ。
私は、店に寄るのを止め王城に向かった。
門番にノアに会わせろと言っても今は無理だの一点張りだ。埒が明かないが諦めたらそこで試合終了と言うではないか!
騒ぎになればノアの護衛や近しい使用人くらい野次馬根性で出てくるだろうと思い、デカい声でノアに会わせろ〜っ!と叫びまくった。
人目など気にしない。だって私は悪役令嬢!
騒いだ甲斐があり、いつもノアの護衛をしてる男が出てきた。私は離さないと言わんばかりに護衛の腕にしがみついてノアの居場所を聞く。
護衛は私を持ち上げると馬車に乗せる。そして、小声で高位貴族用の監獄に入れられてると教えてくれたのだ。私は護衛に伝言を頼んだ。
「絶対、助けるから待ってて」と。
私は急いで家に戻った。
そして帰るなり大声で父を呼ぶ。
「パパ〜っ助けてぇ〜っ!」
その声に父は慌ててダッシュで階段を駆け降りてくる。そして私を見付けると一目散に抱き着いてくる。
捕獲完了だ。
「パパ〜。国王様が、酷いのよぉ〜。
ノア様を高位貴族が入る監獄へ監禁したんですってぇ〜。信じられないわっ。
ノア様が、何をしたって言うのよぉ〜〜〜」
と大袈裟に言いながら涙を流してみる。
嘘泣きを完璧に流せる私って天才っ!
私の涙に弱い父は、オドオドとし始め。次第に怒りに変わっていく。
「ミリアを泣かせるなんてっ!国王だろうと許さないっ!ミリアっ。どういうことか詳しく教えろっ。」
良しっ!父の爆弾に点火はOK!
「話せば長くなるから御茶でも飲みながら話しましょ。」
怒れる獅子を手懐け移動する。メイドは気を利かせ手早く御茶の準備をし淹れてくれる。
「実はね。セレモニーパーティーの帰りの馬車で私がノア様に言ったのよ。ノア様を好きだけど、王家に縛られたくないから結婚は無理って。
そしたらね。ノア様はね、私を心から愛してるから君の負担になるぐらいなら俺が王家から出るって言ってくれたのっ。
私だって冗談だと思ったわ。まさか本気だとは思わないじゃない普通は。
けど、監獄に監禁されてるって異常でしょ?
私とノア様の本気を国王が邪魔したって事でしょ?
ノア様は王家を捨てるほど私を愛してくれてるのよ?そんなに私を求めてくれる人なんてパパ以外誰もいないわ!そうでしょ!?」
パパは御茶を飲みながら私の話を聞くと、ウンウンと頷きながら思考を巡らせている。
こういう時の父は頭の回転が速くなる。
じっと父の考えが定まるまで父の腕にしがみつきながら待つ。
「パパはね。ノア君をオマエの夫となる相手として認めているよ。例え王子で無くてもだ。オマエから婚約を解消した時に一目散にオマエに会いに来たのも好感を持ってる。それまでのノア君は完璧な王子だったのを私は知ってる。他者の思いや願いを良く読み取り汲んで最適解を導き演じる事が出来る男だ。小さな時から彼は男であり王子だったよ。完璧過ぎて心が無いと思う位にね。だから、オマエが心配でもあった。
彼とは幸せになれないだろうと思ってたんだ。
しかし、あの日に完璧さを崩して駆け付けた彼を見てノア君なら大丈夫だと思ったんだ。
まぁ〜オマエが、相手にしないならそれ迄だと思ったがね。」
「パパって人の事、良く見てるわよね?」
私が父の洞察力を褒めてると受け取ったらしく「有難う」なんて言って頬擦りしてくる。
「で、どうすれば良い訳?」
私が続きを促せば父は、第二王子と第三王子の話を持ち出し、それぞれの良い所を褒めた。
だが、まだ若すぎて未知数だと言うのだ。ノアの変わりに推すにも、どちらか決め切れないと言う。
それに、本当はノアも未知数で王太子に慣れるかさえ決まってはいないと言うのだ。
他の貴族達も、誰か一人を推すにも若すぎて決め切れずに曖昧な態度で3人共に良い顔をしてる状態なのだと言う。
今のところ、ノアが有力視されてるのはノアが王妃の息子だからと言う一点。第二王子も第三王子も第二第三婦人の子だからだ。
国王としては、皆平等に可愛いが王妃である正妻の面子を気にしてるらしい。それが行き過ぎた結果、今回の様な荒業に出たのでは?と父は言う。
正妻である王妃は他国の姫君だ。
この国での後ろ盾は無いに等しい。この国で後ろ盾が多いのは第二婦人だ。だからと言って王妃の立場が弱いかと言うと、そうでもない。
王妃の母国である国は、我が国にとって重要な法益相手なのだ。下手に関係悪化はさせたくないのだ。
その辺は、色々と複雑に絡み合っていて国王も3人の妻に挟まれて頭が痛いと言うところだろう。
「ねぇ〜。パパってさ。
公爵位の他に侯爵位も伯爵位も持ってたわよね?
私に侯爵位頂戴よ。ノアを婿に貰うってのは?
案外、私の店ってば金のなる木なのよね。
他にもアイディアはあるんだからっ。いつか、侯爵家に並ぶ商会を創るのも夢では無いかもよ?」
父は呆れた顔で私を見る。
残念な子とでも思ってんだろうと思う。
「だから、王妃がノア君を王太子にしたいんだろう?婿に出すことを認めないだろ今のままじゃ。」
「じゃ〜っどうすんのよっ!
パパは私の願いは何でも叶えてくれるんでしょぉ。」
頬を膨らませプンプンと怒れば父は子供をあやす様に頭を撫で撫でしながら
「どんな手を使っても監獄からは出してやるから。」
そういうのだった。