11 君の他に何も要らない
「嘘でしょ〜〜〜〜〜っ!」
ミリアの大声が馬車の中にまで響き渡り俺は笑ってしまう。今頃、どんな顔をしているだろうか?
想像しただけで俺はドキドキワクワクしてしまう。
俺の唯一無二の人。愛してやまない人。
俺の全てだ。
ミリアが居ない世界なんて考えられない。
逢えば逢う程に好きが膨らんで『愛してる』なんて言葉がチッポケに思える。
さっきまで隣に居たのに、また直ぐに逢いたくなる。
ミリアが座ってた場所に温もりを探してしまう。
熱病に掛かった様だ。
彼女に初めて逢ったのは5歳だったか?ハッキリとは覚えてないが、5歳でも綺麗な顔立ちをしてる女の子だと思った。暫くすると婚約者が決まったと教えられ彼女の名がミリアだと知った。定期的に御茶会を開き彼女を招待するのが俺のスケジュールに組み込まれた。求められる俺をただこなす様にミリアとの御茶会をこなした。
ミリアはマイペースだった。自分の思い通りに自由に周りなんてお構い無しで天真爛漫とは彼女の為にある言葉だと思った。ベタベタとくっついて離れないのはウザいと思ったが逢う度に、俺の顔を褒めて帰るミリアが面白いと思った。
いつだったか、ミリアに聞いた事がある。
『俺が王子じゃなく平民でも君は今のように僕にくっつくのか』と。ミリアは迷わず答えた。
『顔に身分なんて関係ないじゃないっ。ノア様の顔が世界で一番好きです!』
その答えに衝撃が走ったのを今でも良く覚えている。
他の奴はともかく、身分以外の理由で俺に近付く奴に出会った事がない俺には彼女の言葉が、とてつもなく嬉しかったのだ。
顔だけだとしても、この顔さえ有れば彼女は俺が平民だろうと貧乏だろうと俺を好いていてくれると思うと初めて自分の顔が愛おしいと思えた。
それなのに、16歳の歳にいきなり婚約を撤回されたのだ。頭の中が真っ白になって、居ても立ってもいられなくなり俺はスケジュールを初めてサボって彼女の家へと、急いたんだ。
別人の様な彼女に怒りを覚えてしまう。
けれど、俺は彼女をミリアを手放したく無かった。
なんとか彼女との交流だけは死守し、時間を見付けては逢いに行く。彼女は相変わらず冷たいが優しい。
とても矛盾だらけの彼女が益々、愛おしくなる。
全てが素なのに矛盾だらけで不思議な人だ。
王子である私にもズケズケと悪態を付く。それも可愛い。不思議と彼女がすることは全て可愛く思えてしまう。
大好きが止まらない。
ミリアの事ばかり考えていれば、あっという間に城に着いてしまう。城に帰ると、真っ直ぐに父に会いに行く。セレモニーパーティーから戻ってから直に仕事をしている父は執務室に居た。
家臣達に下がって貰い父と二人きりになる。
俺は真剣な顔で父に向き合うと宣言した。
「俺は王族から抜けたい!この檻の中から自由にして下さいっ!」
想定外の言葉に父は、今までに見たこともないマヌケな顔をして固まった。思考が停止したのだろう。
俺はもう一度、同じ言葉を繰り返す。
さっきより大きな声で。
聞こえてない訳じゃないのは分かってた。
けれど念を押すように言いたかった。
父は、大きく咳払いすると「おいっ!誰かノアを閉じ込めろっ!」怒りにも似た大声で叫んだ。
すると何処からともなく現れた魔法師に取り押さえられ連れ去られた。
転移魔法で、高位貴族が犯罪を犯した場合に使われるという快適な部屋の監獄へ入れられた。
「俺は犯罪者扱いかよ。」力なく呟くとアハハハハハハっと乾いた笑いが止まらなくなった。
自分達の操り人形が壊れたら話し合いをするどころか監禁するとは、本当に俺は道具なんだなと実感した。
俺は床に倒れ込みと仰向けに寝そべった。
天井に向かって愛しい彼女の名を呟く。
「ミリア…」
このまま逢えなくなったら俺は死んだほうがマシだ。
そんな事を考えたら涙が溢れて止まらなかった。
怖い、怖いよ…ミリア…。
あの日から何日経過しただろうか?
監獄の中は窓もなく、ずっと薄暗い。
日にちの感覚さえ狂わせる様だ。定期的に着替えや食事は差し入れが入るが誰も言葉を発さない。
ミリアの事ばかり考えて妄想の中に浸る。
妄想の中では俺は毎日幸せで満たされる。
だから余計に時の流れが分からなくなった。
生きてるのか死んでるのかさえ分からない。
夢現の中で幻想なのか夢なのか分からなくなる。
相当にイカれてる様だ。
眠りについて臨場感タップリの夢から目覚め妄想のミリアに触れる。そして実感する。
これは幻覚だと。
ミリアに触れたい。
助けて!ミリア…。