10 それでも縛られるのは御免です
ノアと踊り始めれば、騒ぎなど無かったようにホールに活気が戻った。
私とノアは相変わらずな会話を楽しみながら一曲を踊り切り壁際に捌けた。すると待ち構えて居たように父と兄が来て満面の笑みを向けてくる。
「流石、私の娘だ。カッコよかったぞ!」
などと言って父は上機嫌で抱き着いてくる。兄も兄で「見直した」なんて言ってくるから苦笑いになる。
明日は忙しくなるからと言って二人は慌ただしく帰って行くが上機嫌だ。後姿がスキップしてる様に見える位だ。
ノアと顔を合わせて苦笑いしながらテラスへと移動すれば、ミラとルカはソファーに座っていた。
少し前まで、私とノアが秘め事をしてた場所でコイツラも秘め事を?なんて邪推な事を考えてしまいそうになる。
「少しは落ち着いたかい?」
ノアが話し掛けるとミラは涙を拭きながら小さな声で「ごめんなさい」と呟く。
「そのドレスはサンプル品だから。
貴方にあげたものだし。汚そうと捨てようと貴方の好きにすれば良いわ。
ルカ様。私達は疲れたから御先に失礼しますわね。
そうそう。ヒーローは助けたヒロインを最後まで責任持って助けなければならないのですわよ。知ってました?」
「さっ、ノア様。帰りますわよ」とノアの手を引っ張り、その場を後にする。
ホール横にストックされてる飲み物を一気に飲み干し大きく息を吐いた。
「なんだかんだ、ミリアは優しいね。
そんなに俺を惚れさせて責任取ってね。」
そう言いながらノアも飲み物を口にした。
会場の出入口にはノアの護衛が立っていてノアが帰ると伝えると馬車をホール前まで移動する様に指示を出していた。戻って来るとジェットは父達に拉致られる様に帰った事を伝えてくれる。
父達なりに気を使ってくれてるのだろう。
馬車が到着すると私達は馬車に乗り込んだ。ノアが御者に、ゆっくり帰ってくれと頼んだ。
「ねぇ、ミリア。本心では俺を欲してるよね?
あんなに俺を求めるキスをした癖に、違うとは言わせないよ?」
ノアが聞いてくる。確かに拒み切れないのは事実だ。
なんだかんだと私はノアが好きなんだと思う。
記憶が蘇ったと言っても私は、ずっとミリアなんだから。一目惚れし一途にノアを追い掛けてたのは間違いなく私なのだから。
「それは認めるわよっ!だから?だからなによ?」
喧嘩腰になってしまう私をノアは「可愛いなぁ」とか茶化しながらクスクスと笑う。
そして、いつの間にか沈黙の中見つめ合うと、どちらからともなく唇を重ねた。
永く濃厚なキスは互いに離れたくないと言ってる様に熱を帯びていく。互いの甘い息遣いが耳に入って来ると余計に二人は盛り上がって行くようだった。
何度も何度も飽きもせずに唇を重ね合い舌を絡み合って居れば、いつの間にか馬車が停まっている。
御者や護衛は気付いてないフリで空気を読んでくれる。
離れがたいと、何度も重ねる口づけを名残惜しそうに離すとノアが言葉を紡いだ。
「愛してる。ミリアは?」
「愛してる…。でもね、結婚は無理。」
私の言葉にノアが目を見開く。「何故?」消え入る様な声で呟くノアに私は静かに答える。
「王室に入りたくない。自由を奪われたくない。」
ノアは少しだけ考えると「分かった」と一言呟く。
また抱き締められて唇を重ねた。
ノアが満足するまで堪能すると笑顔で言った。
「俺。卒業したら廃嫡するよ。
そしたら俺と一緒になってくれるでしょ?」
「はっ!?」
爆弾発言をすると私の驚きをスルーして馬車から私を降ろし帰って言った。
何を言ってんのよ。
アイツ何言ったの?
本気なの?
「嘘でしょ〜〜〜〜〜っ!!」
遠ざかる王家の馬車に向かい大声を張り上げた。
その声に反応するように父と兄が慌てて外に出てくる。
呆然と立ち尽くす。乱れに乱れた私の姿を、ぎょっとした顔で見つめる父が黙り込んだ。
兄は呆れた顔で、無言で私を抱きかかえて屋敷に強制送還される。
部屋のベットに放り投げられ、後から入って来たメイド達にバスルームに運ばれアレヨアレヨという間に身体を洗われバスタブに落とされた。
明日、ちゃんとノアと話さなきゃ。
そんな事を考えながら、されるがままの私は最終的にベットに運ばれ、そのまま眠りに付いたのだった。