1 どうやら悪役令嬢らしい
目覚めたら前世の記憶が蘇るなんて笑えない。
しかも異世界転生とか冗談か?
転生したら悪役令嬢だったので死亡フラグ回避します
的な、アレですよ。
ザマァな展開のアレ。
ほんと笑えない。
物語としては面白いし、嫌いじゃないけど。
いざ、自分がなんて望んでない。
前世は、それなりに大変だったが全うしたと思う。
別に後悔もないし、なんなら遣り切ったと思っている。それに普通に寿命まで生きた。
なのに何故?
だいたい人生半ばって時に死んで転生したら…。ってのがセオリーでは無いのか?
ちゃんとした年齢までは思い出せないが、ざっと70年から80年は生きた気がする。
だから、この身体の今迄の人生を思い返せば私がどれ程の我儘娘だかは良く分かる。
しかし、貴族令嬢だ。
周りを見渡す限り、そこまで酷いだろうか?
貴族とは権威や厳格さ等を重んじる。
上下関係はハッキリした身分制な訳で、公爵令嬢の身分なのだから高圧的な態度も普通だと思うのだ。
いくら前世の記憶が蘇ったとは言えど、この身体で生きてきた16年の記憶がある以上は自分がヤバい奴とも言えない。
確かに前世の世界の概念なら、ヤバい奴って事になるが。
さて?どうしたものか?
そもそも、今の自分が第一王子であるノアに一目惚れして娘を溺愛する父親に頼んで婚約を結んだ訳で、王命では無い。
確かに国王としても公爵家との縁談は利益になるから結んだに違いない。利益にならなきゃ、いくら公爵の頼みでも無理だろう。
公爵家は中立派だ。取り込んだ所で然程のメリットは無い。そう考えたならば利益になるものは財力だろうと考えられる。
全体像を考える時、前世の記憶は役に立つ。
16歳の小娘な今の自分は知識があっても浅はかだからだ。
流石、第一王子の婚約だけあり王妃教育の賜物で知識だけはあるのだ。
ただ、世間知らずの馬鹿だったのは歪めない。
恋だの愛だのをシナリオ通りに付き合う気はない。
だいたい王妃とか面倒くさい。
確かに、幼い頃から顔が整ったノアは超絶イケメンだ。一目惚れをするのも納得だ。
けれど、今迄の私はノアの内面を見てきただろうか?
いや、全く見てない。顔が良いだけで恋に落ち自分で創り上げた幻想の中のノアしか見ていない。
今だから分かる。
自分で言うのは何だが、甘やかされて育って自分が望めば手に入らないものは無いと本気で思っていたのだから、今迄の私は空気は読めない。と言うか読んだことはない。
そもそも、乙女ゲームとやらの本当のシナリオも分からないがって言うより悪役令嬢ものの小説の中の乙女ゲームなのだから分かるはずもないフラグ回避って事で何となくのストーリーが分かるって程度な訳で、そもそも私がプレーしてた訳では無いから完全に網羅してる訳もない。
それにだ。小説もサラサラと一度読破しただけで隅々と覚えてる訳はない。
主人公である私と国やヒロイン、攻略対象の名くらいは覚えてるがストーリーは大まかにしか覚えない。
そこまでガチヲタクではない。
多分、目覚めて思考すること数十分。そろそろシナリオ通りにメイドがビクビクしながら朝の支度にやってくる頃だろう。
さて、今まで通りにするか?優しく接する?
シナリオ通りなら記憶が曖昧だと誤魔化すだったかな?
まあ〜、どう行動するにしても私の居場所は公爵家な訳だから家の中は居心地が良い方が、そりゃ良いに決まってる訳で。
そう考えれば、いちいちメイドがビクビクしながらは面倒くさい気もする。
ちょっとした事で謝り続ける姿を見続けるのも、こっちが気を使うってものだ。
コンコンコン。
部屋の扉からノック音が聞こえてくる。
メイドのお出ましだ。
私は「どうぞ」と声を掛けた。
恐る恐ると言う感じにメイドが扉を開けて入ってくる。そして、ベットの上で上半身を上げている私を見て目を見開き
「すいませんっっ。私が来るのが遅すぎましたっ。」
そう大きな声で謝罪をし頭を下げたまま動かない。
青褪めた顔で少し震えて居る様だ。
通常、令嬢たるもの目覚めていてもメイドが起こすまで横になっていなくてはならない。勝手に起きるものでは無いのだ。
前世の記憶のせいで忘れていた。
面倒な事になったと苦笑いが出てしまう。
「貴方、名は何だったかしら?昨日、頭を打ったせいか記憶が曖昧なのよ。御父様に言って医者を呼んでもらえるかしら?」
面倒だから適当な事を言って下がらせた。
私の指示で慌てて部屋から出て行くメイドは余程、慌てて居たのだろう。扉を開けっ放しで出て行ってしまったのだ。やれやれである。
記憶が曖昧なのは嘘として、昨日は階段から落ちたのは事実だ。頭に多少の痛みがある。
残り数段という所からの転落だからたいした事はないのだが、今までの私なら大袈裟に騒ぐだろうと思う。
メイドから報告を受けたのであろう父が慌ただしい足音を立てて部屋に走り込んできた。
「ミリアっ。記憶が曖昧とは本当かっ!?可哀想に…。」
絶叫かの様な大声で、そう言いながら私に抱き着いてくる。いつもながら大袈裟過ぎる。
「ちょっとだから大丈夫よ。パパ。
それよりパパ、御願いがあるんだけど。
少し曖昧な記憶で御茶会に行くのは不安だから暫く控えようと思うの。だから、予定してた御茶会の主催者に侘びの手紙を出しといてくれないかしら?」
今までの私は毎日の様に御茶会へ出向き人様の噂話や自慢話を飽きもせずに話して遊んでた訳だが、前世の記憶が蘇った私としては積極的に行きたいとは思えなかった。それに、過度な愛情を向けてくる父にもドン引きである。
溺愛してる娘の言う事は素直に従うのは有難いが助長して欲しいかもしれない。
「そんな事はお安い御用だ。
他に何かあるかい?何でも言いなさい。」
今は、ちょっとウザいから早々に立ち去って欲しくて「もう少し休みます」と言って出ていってもらった。
もう少し、今後の事を真面目に考えようと思う。
なにせ来年には王立魔法学校に入学という流れなのだ。シナリオなら今から数カ月間で攻略対象の御兄様との関係を修復し婚約者であるノアに対しても好印象を持たせる為に記憶喪失を理由に関係改善をするだろう。
けれどシナリオ通りにするのが必須な訳でも無い。
私は小説の中のミリアでは無いのだから。