6:戦いの終わり
(戦わなくてよかったなー)
と吹き出しているマグマを噴水でも見ているように眺めながらミホは感傷に浸っていた。
「ボーっとしてないで、フリーデンに知らせに帰るぞ! シャトーブリアンをもらえるんじゃないのか!」
と精神的疲労から回復したブリアンに言われ、ミホはパーッと顔を明るくした。
「そうだった!」
と勢いよくミホは立ち上がった!
「「「ミホ様はシャトーブリアンがお好きなのですね! 覚えておきます!」」」
(なんで魔王達の声がそろってんの?)
ミホは疑問に思いつつもうなずいて
「うん、そうだよ! でもまだ食べた事がないんだよねー。早く食べたいから、急いでもどるよー!」
…… ブギューーーン!!!
ミホが飛び立った瞬間、周りのものがふき飛んでいった。魔王達も飛ばされそうになった。あっという間に空の彼方にミホが消えた事態に魔王達は口が開きっぱなし、ブリアンは面倒くさい顔になっていたが、
「「「何という速さ!」」」
そう言って魔王達はミホを追いかけて飛び立った。
「あ〜 失敗したな〜 シャトーブリアンなんて言うんじゃなかった。俺の全速力でも追いつかないな、あれは。『瞬間移動』すれば良いって言おうとしてたのに。まぁ良いか……」
ヴォーーン!
そう言ってブリアンもミホを追いかけて飛び去った。
▷▷ ▷▷ ▶▶ ▶▶
ブリアンはかろうじてフリーデンの城の人達が見える上空までくると
「着いたぞ、お前達。…… ってザツ頭もういるな」
と上空で止まった。
遠くの城内でミホの姿がみえる。
「「「まだあんなに遠いですよ!?」」」
魔王達は声が裏返って言う。
「さすがに魔王3人が突然フリーデンの前に現れたらまずいだろ? 俺達はここで少し様子を見よう」
とブリアンは魔王達に言うと、魔王達もそれにシブシブ従った。
「ん? ミホのヤツ、何か困っているなぁ? しかもさっきから『ドンドン!』ってうるさくねぇ〜か?」
城内を観察するブリアンはいった。
確かに城内は騒然としていて、使用人達が必死に閉めている城の入口の門では『ドンドン!』という音が鳴り響いている。
城のテラスでは鳴り止まない門を見ながら、ミホとフリーデン、ローズマリーが困惑した表情で話をしていた。
「何ですか!? あの人達はー!」
ミホがフリーデンに尋ねた。
どうやらミホが魔王を倒しに向かった後、城下町の人達が『女神様が降臨なされた』と一目女神を見ようと城に押しかけてきているらしい。また、『新たな女性勇者降臨』との速報を聞きつけた貴族達は『国王に勇者様との謁見をいち早くお願いせねば!』と押しかけてもいるようだった。どこの世界でも『うその情報』ほど早く世間に広がるもののようだ。
ミホが門の外に聞き耳を立ててみると街の人達が『女神様〜! ありがたや〜』とか、貴族達の『勇者様、是非に〜!』といった声が聞こえてきた。
「私は女神でも勇者でもありません」
とミホは疲れた顔をして言うと、
「申し訳ございません。…… あの〜、明日にでも国で貴族達を招いて貴女様への対応について会議を開くので、その時はミホ様も出席して下さい」
とオズオズした感じでフリーデンはお願いした。
ミホはニッコリと笑う。だがその目は笑っていない。
「王様〜 私がその返事をする前に、何か忘れてませんか?」
「いやっ! 忘れられているのはこっちだから!」
ブリアンの呆れたような怒ったような声がした。
すると
「「わぁ!」」
と、フリーデンとローズマリーの叫びが聞こえた。
ミホが振り向くとブリアンと魔王達が空から降りて来た。
「…… ひぃ! 3魔王!? 何故ここに? ミホ様が倒してくれたのではないのですか!?」
フリーデンは死をも覚悟した顔でミホに聞いた。
城の護衛兵も魔王に気がついたとたん、体が動かなくなってしまっている。
…… う〜ん、デジャブ! 私も魔力を抑えていなかった時、同じだったなぁ〜。って、感傷に浸ってる場合じゃない!
「魔王さん達、魔力を抑えてもらえる! お城のみんなが動けないから」
ミホが魔王達にそう言うと、
「「「はい」」」
3魔王が声をそろえて答え、それぞれの魔王は魔力を抑えだした。
「これから人がいる時はいつもそうして!」
「「「わかりました、ミホ様!」
ミホに指示されて魔王達は魔力を抑えたため、城の人達は自由に動ける様になった。
しかし長期間、人族と争っていた魔族の王達の突然の登場に、依然として城の緊張は高いままで、特にフリーデンの緊張はミホにも伝わってきた。
「えっ〜と王様。さっき言った『解決した』ってのは倒したということではなく、魔族が私の配下になった、ってことなんです」
「「「「配下!?」」」
ミホの説明を聞いていた城中の者は驚いた。
「…… で、この魔王達は……」
フリーデンが恐る恐る言うと、
「我はドウェイグ。よろしくたのもう!」
「俺はアルクロス。ミホ様の配下なのだ」
「私はグランダ。ミホ様の1番の配下です!」
グランダはにんまりとした顔で『1番』というところを強調して言った。それにドウェイグとアルクロスがピクリとまつ毛を動かした。そして目が笑っていない笑顔を作り出し、
「おぉ〜、グランダ。我にケンカを売っているのか? ミホ様の1番の配下は我だ! 何故ならミホ様に最初にお会いしたのは我だからな!」
ドウェイグがイラつきを抑えて言った。
「あら、本当のことじゃない。それに初めて会ったからってなんなのかしら?」
グランダも一向に退かない様子だ。
「俺こそがミホ様の1番の配下に相応しいゾ!」
そう言うアルクロスの発言をドウェイグもグランダも聞いてはいなかった。
魔王達は早口でミホの1番の配下について言い争っている。しかし魔王達のこのやり取りを見て、城中の者は皆、魔王達がミホの配下になった事、そして魔族との戦いが終わったことを確信したのだった!
「魔族との戦が終わったぞー!」
「勇者、ミホ様バンザーイ!」
「聖女ミホ様ー!」
城内は人々の歓声で満ちあふれた。
『突如降臨したミホという
[ おさない〈or〉美しい ]
[ 勇者〈or〉聖女〈or〉女神 ]が、
たった1日で魔族を治め、世界に平和をもたらした』
という誇張や美化し放題の、それは語る人々にとっては都合が良く、一方で語られるミホにとってはとてもめんどくさい、まさに『ミホの伝説』がこの世界に広まっていくのだが、そんなことをミホは知らない。
魔王達の言い争いはしばらく続いていたが、
「そんなに言うなら決着しかないな!」
「あぁ!」
「えぇ!」
(え!? ここで勝負するの!? 城が壊れちゃうじゃん!)
「ちょっと3人とも! やめっ…!」
とミホが静止しようとすると
「「「最初はグー、ジャンケンポン!」」」
「チョキ!」
「チョキ!」
「グー!」
ドウェイグとグランダはチョキを出し、アルクロスはグーを出した。
…… ヘッ!? 決着ってジャンケンなの? お城の人達もポカーンってしているよ!
城の人々は人族を滅ぼしかけていた魔族の王達の、想像をはるか斜め下に超えた言動に、大きく口を開けて棒立ちになっていた。きっと色々と思うことがあるのだろう。しかし今、目の前で起きてることは紛れもなく現実であった。
一方で、ジャンケンに勝利したアルクロスはすごく嬉しそうで、
「ヤッタドー!」
アルクロスは自慢の筋肉をさらした。
「「くそっ!」」
ドウェイグは天を仰ぎ、グランダは頭を抱えた。
「まぁ、今回は負けてしまいましたが次は負けません。そうだ! 定期的に、そうね、一週間ごとに勝負をしましょう!」
とグランダが言うと、
「ウム、当然だ」
ドウェイグが同意した。
(((そんな後付けルール、ズルすぎない?)))
周りの人間は感じていた。
「よし、受けてたつのダ!」
なんとアルクロスは他の魔王の提案を承諾した!
(((えっ、ありなの!?)))
誰もが驚いた。
(…… 魔王達、何考えてるの? 週一にジャンケンで時間を使うとか、魔王って暇なの? 王ってもっとやることあるでしょ!? )
勝手に話を進めていく魔王達にミホは精神的に疲弊しつつも、
「もう、言い合うのやめて!」
上に立つ者としてミホは配下の争いを止めにはいった。
(魔王達の上に立つって疲れすぎるー、あの時やっつけといた方が良かったかも)
ミホは精神的ストレスで少し変になりかけていた。
この魔王達のやり取りを見ていた人達は徐々に自分のやるべき仕事に戻っていき、城内の緊張した雰囲気は完全になくなった。
「では魔族がミホ様の配下になったのは事実なのですね?」
フリーデンが念を押すように確認した。
「「「その通り!」」」
3魔王は声をそろえて答えた。
「あぁ、そういえばミホ様には我々全魔族30万を配下とし、我々の領地もミホ様に管理してもらいますので、よろしくお願いします」
今週限定で第一配下となったアルクロスが言った。
ドウェイグもアルクロスの言葉にうなずき、
「あら、アルクロス、貴方にしてはなかなかの初仕事ね!」
グランダはアルクロスをほめた。
「丸投げ感、ハンパねーな」
ブリアンは呆れたように言った。
(…… え!? 嫌だよ!? そんなこと聞いていないし、私には務まらないよ!)
ミホが1人自分の世界に閉じこもりがけているところに
「あ、あの〜 …… ミホ様が予想していたよりもあまりにお帰りになるのがお早く、準備がほとんどできておらず心苦しいのですが、ミホ様が望まれていたシャトーブリアンはご用意しております。ですから皆様で宴にしましょう」
フリーデンが提案してきた。