4:師弟の会話【日記】
ミホとブリアンはキャッキャ、キャッキャいいながら景色を眺めたり、各種風呂を試した後、二人並んで露天風呂につかりながらこの世界に来てからの様々な出来事を思い返していた。
「ねぇ、ブリアン師匠…… ここって『ゲームの世界』じゃないような気がするんだけど~」
ミホは何となく感じていた違和感を口に出した。
「確かにゲームにしては会話とかよく出来すぎてるなぁ。っていうか、お前、転生したここが『ゲームの世界』だと思ってたのか?」
ブリアンは今さら発言するミホに驚いた。
「だってレベルとか、最強とかっておかしいじゃん。ここの世界に来たとたん、『魔王倒せ』って、それゲームの世界の話でしょ!?」
ミホはガバッと立ち上がり言い訳のように言った。
「でも魔王は倒さなかったし、倒すはずの魔王の国に来ちゃってるんだぞ、俺たち」
ブリアンはミホとは違い、仰向けになって泳ぎながら応えた。
「だよね、だよね。私、ここに来てアシュメ達とか見てて、グランダって本当に魔王なんだって思って、っていうことは、なんとな~く、
(ここって本当に実在する世界に来ちゃったのかな~)
って思ってたんだよね」
「世界神のルーファスも『来世を楽しめ』って言ってたじゃねぇか」
もっともな指摘をブリアンは空を見ながら、ゆっくりと羽と足を動かしつつ言った。
「プッ、『世界神』って、ルーファスって本当に神様だったんだ。まぁ、自分で世界神って言ってたしね~」
ミホも仰向けになって露天風呂に浮かびながら言った。
「ミホ、お前、ルーファスのことちょっとバカにしてるだろ。俺みたいにバチが当たってもしらねーぞ!」
「ブリアン師匠、姿も性別も変えられちゃったもんねー」
ブリアンとミホは空を見上げながら言った。空には1つだけ雲が見え、それ以外は快晴の夕焼け空だった。
雲がゆっくりと形を変えるように、この世界に来てミホとブリアンは初めてゆっくりと時を過ごしていた。
「今日あったことなのに、だいぶ昔のことのように感じるぜー」
「そうですね。ブリアン師匠」
風呂から出たミホは自分の部屋に戻り、ベットに横たわりながらスライムゼリーを待っていた。
(本当に今日転生してきたばかりなのにいろんなことがあったなぁ~)
そんなことを考えていたら、ミホは寝落ちしていた。
こうしてミホとブリアンの新たな世界での長い長い1日が終わった。
■■■■シレースの日記■■■■
グランダ様がついに「転生者」を連れてこられた。転生者のミホ様はグランダ様が用意されていた服のサイズ通りで、見た目や言動は人族の少女と変わらない方だった!
転生者が来た際に、私はブロッサムの任務から外れ、ミホ様の専属執務を行うよう言われていた。これからはミホ様への執務に全力を注ごう。グランダ様が用意してくれたこのオリジナルのメイド服に誓って!
それが戦災孤児だった私を救ってくれたグランダ様への恩返しになると信じて……
◇ 過去回想 シレース視点 ◇
グランダ様と私が初めて会ったのは私が「GG」にいる時だった。戦災孤児だった私はGGに身元を預けられていた。GGには私のような親のいない子供や通常の治癒魔法では治らない重病な人達がいた。後で知ったことだが、GGとは正式名が「ジェネラルグリーン」でマーレリング国に複数あり、これらはグランダ様が魔王になってから作られた施設であり、GGとは施設の名称ではなくプロジェクト名だった。
ある日GGの園長室に呼び出された私はそこで初めてグランダ様とアシュメ様に出会った。
面会の場で緊張して座っている私にグランダ様が言った。
「GGにいる女の子で一定の能力があり、やる気がある者を集め、『ブロッサム』というチームを作る予定です。ブロッサムは王である私の直轄部隊で、ここにいるアシュメの元でいくつかの特別任務を担当してもらいます。任務は難しいものも多く、場合によっては命が危険になるものもあると思います。任務に対し、報酬も出ますがその報酬の多くはGGを運営していくための資金として寄付することになります。
シレース、あなたの能力とGGでの活動報告を評価し、このブロッサムへの誘致に来ました。3日以内にこの提案を受け入れるか回答しなさい。なお、質問があれば今ここで受け付けます」
突然マーレリングの王であるグランダ様が現れ、ブロッサムへの勧誘と質問があるかを問われた私は、対面で座っているグランダ様の斜め後ろに立っているアシュメ様を見た。アシュメ様は黙って、微笑を浮かべ私の目を見返した。グランダ様とアシュメ様はとても静かに私の反応を見ていた。
私は初めてGGに来てから、というか連れてこられてから、見ず知らずの人達が自分に食料と寝る場所を与え、簡単な仕事と学習する機会を与えるこのGGに疑問を感じていた。
(誰が何の目的でこのようなことをしているのだろう……)
その疑問の答えは私がGGでどんなに頑張って仕事や勉強をしても出なかった。いや、むしろGGで過ごす日が重なれば重なるほど、その疑問が根強く残りながら何年かの時をGGで過ごしていた。そして長年の疑問の答えが今、私の目の前にあることを悟った。
(このグランダ様が私に希望の光を絶やさないようにしてくれていた人なのだ!)
親を戦で亡くし、あの時、私は完全に絶望していた。それがGGに来てから最低限ではあるが生きていくための場と、人生を歩んでいくための機会を与えられているという安心を感じ、私は人生にうっすらとではあるが希望をもう一度持てるようになっていた。
質問があるか問われていた私は
「ブロッサムというチームで全力で頑張らせていただきたいと思います」
その場でブロッサム加入の意思を示した。
◇ 過去回想 終了 ◇
P.S.
それにしても、ミホ様の服を用意する時、いろいろと悩んで私にまで相談してきたグランダ様は楽しそうだったな。大規模な国家事業をポンポンと決断して進めていくのに、服のボタンの色とかリボンの大きさとか、私はどちらでもいい、というかどっちでも変わらないと思うけど、グランダ様はずっと悩まれていた。
あんな表情のグランダ様を見たのはあの時だけだ。ここだけの話、服よりもずっとグランダ様の方がカワイイと私は思っていた……
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