近づく距離
私が再び起きたとき、そこは自分の部屋だった。
先生が居ない、そんなショックはあったけれど気がついたら手に握られていたものを見て微笑んだ。
『何かあったら、連絡してください』
女子にも負けない可愛い字でそう書かれた紙に絢は先生の番号が書かれているのがおかしかった。
普通、生徒には番号を教えないのが基本だ。
いくら自分が厄介にしたかもしれないといっても、番号は教えちゃ駄目だと思う。
そんな、ちょっと抜けいる先生が好き。そう思うのは、今だけ。卒業したら、この恋愛は嘘だって気づく。
「絢ぁーご飯はいる?」
リビングからお母さんが絢を呼ぶ。多分、自分で着替えたんだろうパジャマ姿で絢は部屋を出た。
「今行くー」
ぼさぼさになっている髪を手ぐしで整え、リビングに入るとなぜかそこには先生が居た。
「あ、おじゃましてます」
盛大に噴出しそうになった絢はどうにか引きつり笑いをして、自分の席に座った。
食卓には、家族分のイスしかないが、今日はお父さんが夜勤のため先生がお父さんの席に座っている。
遠慮がちに出されたお茶を飲んでいる先生は私の向かいの席だ。
私と目が合うと先生は、「ごめんな」とでもいうふうに困った笑みを浮かべた。
大方、若くてカッコイイ先生はお母さんお好みだからあれこれ言って引き止めたのだろう。
その場にいなくても、先生の困惑がわかる。
「絢が倒れたって聞いたから、今日はレバー尽くしよ?あ、先生はカツをどうぞ」
「「・・・・・・」」
キッチンからお母さんが出てきて、私の前にレバー、先生と自分の前にカツを置いて手を合わせた。
先生と私の間で微妙な間ができる。
「・・・差別だ」
「倒れる=貧血でしょ!黙ってレバーを食べなさい」
「私がレバー嫌いだと知っていてのうえの嫌がらせ?」
レバー臭に耐え切れなくなった私が、本音を口に出すとお母さんはしっれと言い返した。
自分もレバーが嫌いなくせに。カツを食べながら私を見るお母さんに心の中で呟いた。
お母さんはかっこいい人の前で自分の欠点が言われるのが嫌いだ。前に一度やって、私だけご飯がレバーだった時期がある。
私は学ぶ子なので大人しくお茶を片手にレバーと勝負する準備を始めた。
「うえっ・・・」
「もう少し可愛く食べないさいよ」
「む、むり、だし」
レバーが私の口に入ったとたん、私の細胞が拒否反応をし始めた。嗚咽しそうなのを我慢してお茶で流し込む。
お母さんちゃちゃを入れるが、ココで言い返したらすべてがパーだ。吐き出してしまう。
ふと、先生を見たら肩を震わせて笑っていた。私がきっと睨むと、先生は私のレバーを取って食べてくれた。
「俺、レバー結構好きなので、食べてもいいですか?」
「えぇ!もちろん」
この差は何だ、といいたい心を抑えて私は先生にすべての皿を差し出した。変わりに、先生のカツを持っていく。
レバー皿が差し出されて、先生の顔が少し青ざめたのは気のせい。もしかして、私を助けてくれたんじゃないか?なんてうぬぼれ。
こうして、一日目が幕を閉じた。