目が覚めたとき
菖蒲の姿が見えなくなって、気絶した私が目覚めると、そこは真っ白な部屋だった。
独特な薬品の匂いからすると、保健室だろう。まさかあれくらいで病院には運ばれない。
「あ、目が覚めましたか?」
声がして、起き上がろうとすると、頭が重くて起き上がれない。
カーテン越しに聞こえた声が、近づいてきてカーテンを開けた。そこに立っていたのは、先生だった。
「駄目だよ、まだ横になってなくては」
カーテンを元に戻す先生は、教師らしくないおかしな敬語でしゃべる。ふいに絢は吹き出した。
「せんせ、い・・・そういえば、敬語がおかしいですよっ・・・・」
笑っているせいか、うまく言葉に出来ない。
絢は笑い涙が溜まった顔で先生をみると、困ったように苦笑して立っている先生がいた。
茶色い髪に黒い眼鏡の優男な先生はそんなしぐさが良く似合う。絢の胸の鼓動がふいになった気がした。
「あれ・・・?」
どくんっと言う音に絢は胸に手を当ててみる。しかし、絢には心臓の鼓動しか分からない。
「ん、どうかした?」
胸に手を当てて不思議そうな顔をしている絢に先生は不思議な顔をして、そう聞いた。
「ううん、気のせいです」
そう、先生のしぐさにドキドキしただけ。だけど、それは疑似。学校では生徒が教師に恋することはたまにあること。
そして、それは疑似恋愛にすぎない。
絢はこの感情をそう考えた。みんな、かっこいい。それだけで疑似恋愛をすることが結構あるからだ。
それより、いまはそんなことで悩んでいるときじゃない。助けてもらったお礼をしなくては。
「先生、あの・・・ありがとございました」
無理にでも体を起こして絢がお礼を言うと先生は絢のおでこを押して、絢を寝かした。
「ん、気にしないで。多分、卒業まで表立っては無いと思うけど・・・あの手は執念深いし、結構辛くなるかも。下手に介入して、やっかいにしてごめんな?」
助けてもらったのに、先生が助けた事で悲しそうな顔をするなんておかしい。私は平気です、と言いたいが眠気が襲ってきた。
最後に頑張って声に出す。
「いえ、嬉しかったですから・・・」
おぼろげな視線の中で、先生が綺麗に笑ったのが見えた。
次におきるときは先生はいるかな・・・?