砂時計が流れ出した
私が言葉にならない声に菖蒲がビックリする。心なしか少し青ざめて震えている。
そうだろう、私を殴っているところを先生に見られたらおしまいだ。
菖蒲は大学への推薦入学が決まっていて、事件沙汰になったら推薦が取り消されるかもしれない。
どんどん、涙をこぼしながら近づいてくる先生に菖蒲はビクッとする。怒られると思っているんだろう。
しかし、彼方先生は菖蒲に振り向きもせず、私の前に座った。
「痛かった?」
私の頭を撫でながら質問する。先生の暖かな手のひらに涙が流れる。
頑張って立とうとしていたのに、体が安心しきって動かない。涙が、溢れてくる。
まったく関わった事がないのに、なんで私なんかを心配してくれるんだろう。
でも、そんなこと関係ない。助けてくれた、それだけが嬉しかった。
「痛かった、苦しかったっ・・・理不尽な理由で菖蒲に苛められて、なんでってっ」
涙を飲み込みながら、私は心の中に溜まっていた疑問を吐き出す。
なぜか、安心できる。先生の前だというのに、私は思いっきり泣いた。私を慰めながら、先生は菖蒲の方をゆっくり振り返った。
いつのまにか先生の涙は、止まっていた。
「大丈夫だよ。・・・菖蒲さんだっけ、このことは池内主任に報告しますね」
「嘘っ!!ご、ごめんなさい、もう二度とやら無いので、黙っててくれませんか!?ごめんね、絢」
先生が菖蒲を振り向くなり、学年主任の池内先生の名前を出した。菖蒲は、推薦が取り消されないように必死に取り繕う。
先生の背中越しに菖蒲が私に怒っている事が分かる。怖い。思わず、先生の服をつかんでしまった。
私の行動にビックリしながらも、先生は「大丈夫だよ」といって服をつかんだ私の手に自分の手を重ねてくれた。
震えが、止まる。私は下を向きそうだった顔を上げて、まっすぐに菖蒲を見た。
菖蒲と私の目が合うと、菖蒲は後ろを向いて走り出した
。精一杯、気を張っていたためか私は菖蒲が見えなくなると、視界がシャットダウンした。