34 彼女は何処へ(アルベール視点)
「アイツらに、嵌められました」
絞り出すように言ったデニスの言葉に、アルベールは眉を寄せた。
「どういうことだ?」
「俺は、セシル様の待たされている部屋の天井から、彼女を見張っていたんですけどー‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」
デニスの話はこうだった。セシルは何者かによって薬を飲まされて気絶させられた。デニスはセシルを取り戻そうと彼らとの戦闘に至ったが、不思議な聖魔法を使われて、デニスも意識を失ってしまったらしい。
そして、意識が途切れる直前に、現れた人物に言われたそうだ。
『安心しろ。約束通り、彼女はしっかりと返す。‥‥‥まあ、その時には貴方達の知る彼女とは限らないが』
そして、その人物達はセシルを抱えて何処かへ消えていってしまった。
それを聞いたアルベールは、ダンと壁に拳を打ち当てた。
「デニスに魔法をかけた者は、誰だか見当はついているのか?」
「恐らく、山火事の時にいた子供でしょう。‥‥‥そして、その子供は、多分、聖女・エレンだと思います」
「なに?」
アルベールが聞き返すと、デニスは頷いた。
「彼が使っていたのは聖魔法でしたし、雰囲気がよく似ていたので」
「じゃあ、もう一人の方は誰だか分かるか?」
「あれは、大司教ですね。以前あった集会で挨拶をしているのを見たことありますもん」
現在の大司教は、表舞台に姿を表すことが多い。ここ最近、信仰の廃れから献金の少なくなっている教会は、上層部広告塔として扱うことも多かった。大司教もその一人だった。
「話が見えてきたな。エレンは元から教会と繋がっていたんだろう」
「セシル様がいなくなっていることを受け入れている王宮も、今回ばかりはグルだと見ていいでしょう」
今回、セシルが連れ去られた概要は分かった。しかし、だからといって、打開策が見つかった訳でも、セシルの居場所が分かる訳でもない。
ただ、時間だけが無情に過ぎていく。
大司教が言っていた言葉を考えると、一刻も早くセシルを取り戻さなければならない。取り返しのつかなくなる前に。
しかし、手がかりがない。
「‥‥‥教会を片っ端から探していく」
アルベールはそう言いつつ、外に向かって歩き出した。デニスは慌てて彼を止める。
「国中の教会を全てですか?無茶ですよ。そもそも、教会にいるかどうかも分からないのに」
「だが、何もしない訳にはいかないだろう」
「アルベール様が焦っているのは分かりますけど、ここは冷静に」
二人は向かい合って、静かに睨み合う。こんなところで争っている場合ではない。しかし、焦りからどうしても攻撃的な言葉になってしまう。
「あの‥‥‥」
その時、二人の前に金髪縦ロールの女性が現れた。以前、屋敷で侍女をしていたが、セシルに嫌がらせをして追い出された彼女だった。
「なんだ」
時間がない中現れた彼女に、アルベールの顔は自然と険しくなる。
「セシルさんのイヤリングが落ちてましたので、届けに来ましたわ」
「‥‥‥‥‥」
彼女が差し出したアメジスト色のイヤリングを見て、アルベールは目を見開いた。デニスも、また然りだ。
「それ!どこに落ちていたんですか?!」
デニスが詰め寄ると、少しあとずさりしながら、彼女は答えた。
「質素な馬車の前ですわ。王宮のパーティなのに、みすぼらしい馬車だったので、覚えていますの。私がイヤリングを拾ったらすぐに発車してしまったのですが‥‥‥」
デニスは彼女の手を掴んで、ブンブンと上下に振った。
「ありがとうございます!これなら、セシルさんの居所が掴めるかもしれない!」
彼女は目を白黒させながらも、そっぽを向いた。
「別に、先程、魔物から助けてもらった借りをセシルさんに返したかっただけで‥‥‥」
「アルベール様!その馬車にセシル様が乗ってますよ!馬車の目撃情報を集めましょう。そうすれば、セシル様の連れ去られた先が分かるかも」
そんな彼女の言葉を無視して、デニスは勢いよく振り返った。
「いや、その必要はないようだ」
「どういうことですか?」
「彼女の居場所が分かった」
アルベールは口端を上げて、デニスの腕を掴んだ。
「とにかく、急ぐぞ」
⭐︎⭐︎⭐︎
「位置探査機能?」
デニスの問いにアルベールは頷いた。二人は、それぞれ別の馬に乗って、道を駆けている。
時間が惜しいので、アルベールは移動しながらデニスに説明を始めた。
「そうだ。このイヤリングの先端に付いているのは魔法石なんだ。魔法石には保護魔法がかけられているが」
そこで魔法石が僅かに光り、右方向を示した。
「片方だけを無くさないように、片方を手に持つと、もう片方のイヤリングの居場所を示してくれるようになっているんだ」
「うわあ、地味な機能‥‥‥」
「しかし、現状、それに救われている」
アルベールは、魔法石についてを話した時、セシルが興味津々と自分を見つめていたのを思い出した。彼女を思い出せば、自然と顔が綻んでしまう。
彼女は、強がりだが、こういうことに反応してしまう素直さも持っているのだ。
「ところで、セシル様はその機能を知っているんですか?」
「知らないだろうな。説明していないし」
「アルベール様、マジでそういうとこっすよ」
「どういうところだ?」
「そもそも‥‥‥」
デニスはそこで口籠った。
彼は、もしセシルが別の場所でイヤリングを落としてしまっていたらどうするのかと考えていた。茶化しながらも、アルベールの心配をしていたのだった。
その時、イヤリングが白い光に包まれる。それを見て、アルベールは目を細めた。
「大丈夫だ。これは、しっかりと役目を果たしてくれたようだからな」
「‥‥‥?」
デニスは首を傾げる。しかし、アルベールの確信を持った表情を見て、自分の主人を信じてついて行こうと決めた。




