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3 愛する気満々なのですか?②






 化け物、と。その言葉はセシルが日々投げかけられてきた言葉だった。


 セシルの母は、大聖女だった。大聖女とは、国に複数いる聖女の中から、最も優秀な者から選ばれ、他の聖女を纏める者のことだ。簡単に言えば、尊いとされる聖女の中で一番偉い人のこと。


 それ故に、そんな大聖女がセシルを産んだことは大問題であった。


 更に悪いことは、セシルの見た目にあった。老婆(ろうば)のように白い髪、毒々しい紫の瞳。聖なる雰囲気など欠けらも持ち合わせていない。太陽の光のように照る金髪に海のように美しい瞳を持っていた母とは似ても似つかない。

 なのに、母の強い聖魔力だけは受け継いでいたのだから、これ以上の皮肉はない。


 いつからか、誰かが言うようになった。


『大聖女は、魔物と契ったのではないか』


 母は、それを否定も肯定もしなかった。

 それ故に、根も葉もない噂はまるで事実のように取り扱われる。


 だから、セシルはよく化け物と罵られることがあった。


 教会では、魔物の子であるセシルのことを。王宮では、邪悪な見た目と聖魔法を持つセシルのことを。


「セシル様っ!」


 レインの声でハッとする。そして、セシルの目線の端で何かがこちらに飛んでくるのが見えた。そして、レインがそれを素手で振り払うのも。


「大丈夫?!」


「大丈夫です。攻撃力の低い魔物でした」


 レインの指差す方向を見ると、そこにいたのは小さなネズミ型の魔物だった。レインが振り払ったからか、体をピクピクさせてひっくり返っている。



 魔物は育てば人間に襲いかかり、空気を汚染し疫病をもたらす。セシルはすぐさま祈りを捧げて、その魔物を浄化した。


「おかしいですね。ここら一帯は魔物が寄りつかないような結界が張られているのに‥‥」


「そうなんだね‥‥」


 レインの方を振り返ると、彼女は傷口に白いハンカチを巻くだけで、手当てを終わらせようとしていた。


「待って!痕になってしまうかも」


「これくらい大丈夫です」


「ダメだよ」


 セシルは、レインの手を握って、聖魔力を流し込めるように力を込めた。


「聖女・セシルの名の元に命ず。傷つき、病める者に慈悲と癒しを与えよ」


 黒と紫の光がレインを包む。不気味な光で怖がらせてしまうかもしれないけれど、少しだけ我慢してもらおうと考えて、祈り続ける。


 徐々に、徐々に。レインの傷が治っていった。


 しばらくの沈黙。


 「もしかして怖がらせたのかも」と段々と不安になってきているセシルに、レインはようやく口を開いた。


「‥‥‥セシル様。私、かつてあなた様に助けられたことがあります」


「え?」


「小さい頃、親に売られてしまって、拐かされそうになっていた時、セシル様が聖女の魔法で助けて下さったんです。その時の姿は本当に神々しく‥‥」


 凛としていて、愛らしくて、いじらしくて‥‥と延々と褒め言葉が出てくる。自分とは大分かけ離れたイメージに、セシルは「ストップストップ」とレインを止めた。


「それは、本当に私かな?」


 何を当たり前のことを、と怪訝な顔をするレインに、セシルは「だって」と続ける。


「私は、よく“化物”だって言われるから‥‥」


「そんなことはありません。‥‥‥だって、セシル様の魔法は綺麗ですから」


 セシルは、自分の見た目を嫌っていない。嫌ったことなどないが‥‥

 それでも、レインの言葉はとても嬉しいものだった。


「‥‥‥‥ありがとう。レイン」


 レインはセシルの手を握り、ひざまづく。


「あなた様は、今も昔も私の恩人です。先程はセシル様が仰られましたが、私こそセシル様に何かありましたらどこへでも飛んでいきます」


「そんな、大袈裟(おおげさ)な」


「大袈裟ではないです。なんでも言ってくださいませ」


 レインの表情は至極(しごく)真面目だ。それに、彼女は「なんでも」と言ってくれた。

 ならば、ずっと言いたくて堪らなかった言葉を告げようとセシルは決心した。


「じゃあ‥‥‥‥じゃあ、一緒にご飯食べたいかな」


「そんなことでいいのですか?」


「私にとっては重大かも?」


 二人でふふっと笑いあう。


「かしこまりました、奥様」


「あれ、もうセシルって呼んでくれないの?」


 セシルがレインを覗き込むと、彼女は少しだけ顔を赤くした。


「それは‥‥先程は焦っていて、つい呼んでしまっただけで」


「私は呼んで欲しいけどな」


「ですが‥‥‥」


「寂しいな」


そう本音を溢すと、レインはグッと言葉に詰まる。そして、セシルを上目遣いで見た。


「セシル様?」


「うん。ありがとう。レイン」


 手を取り合って微笑み合う。本当に、今日は彼女と仲良くなれてよかった。


「さて。アルベール様の贈り物はどこにあるのでしょうか?」


 2人で辺りを見渡すが、それらしきものは見つからず、検討もつかない。その時、遠くから声がした。


「あ!セシル様!レインさーん!!こっちです!!こっちにありますよー!」


 栗色の髪の彼が遠くから手を振って、指を刺す。その指の先には‥‥‥


「‥‥‥‥木?」


セシルがポカンと目の前に存在する木を見上げる。すると、エリックは「はい」と頷いた。


「セシル様がこの屋敷に来た記念だそうです。流石アルベール様」


エリックは木の側でニカッと笑うが、セシルとレインは戸惑いを隠せない。


「記念?木???」


「アルベール様‥‥」


 セシルはひたすら頭にクエスチョンマークを浮かべているし、レインは少し後ろで頭を抱えている。



 さて。旦那様が愛する気満々なように見えるのですが、それは気のせいなのでしょうか??



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