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Finem lauda 2 終わりを称えよ 2

オスカー卿は大げさにため息をつきながら、かぶりを振って見せた。


「あぶないですねえ。ロザリンド嬢。エイラ神殿に婚約届けを出した上に、そんな親切になさると、この野暮男が勘違いしますよ。このままでは、法律を盾に、こいつに結婚を迫られてしまいますよ。お嫌でしょうに」


「嫌だなんて、そんなこと」


ロザリンドの正直な思いを言わせてもらうなら

「結婚!!大歓迎です!!ドンと来いって感じです。正直言って狙ってますっ!!」

となるが、・・・・・・おこがましくて言えない。無理。


ロザリンドがぐずぐずしているうちに、事態はどんどん良くない方向に転がっていった。

オスカー卿が笑顔で言った。


「というわけで、ロザリンドさん。真珠は真珠。婚約は婚約で、きっちりと話を分けましょう」


ひえええ。そこらへんはウヤムヤのまま、細く長くいつまでも誤魔化しておきたいのに。きっちり切り込んできたっ!!恐るべしっ!腕利き法学士恐るべしっ!!


ロザリンドが顔をこわばらせたまま、オタオタしていると、アリトン君がしれっとした顔で言った。


「でもさあ、そもそもシャツを借りるためのでっちあげ婚約だからねえ。そういえば、君のサインは妹さんが勝手に書いたものなんだろ?」


話を振られ、兄は大きくうなづいた。


「そうそう。自分の名前が勝手に使われているものだから、落ち着かなくてね」


お兄様!!今の今までそんなこと一言もおっしゃらなかったのに、どうしちゃったの?

ロザリンドと視線を合わせようとしないまま、兄はさらに絶望的な情報を披露した。


「そういえばシーリアさんもおっしゃっていた。ロザリンドに頼まれたとはいえ、神聖なるエイラの婚約証書に勝手に名前を書いてしまって気が咎めておられるとか。フルーレティ女伯爵もお怒りだったなあ。備品のための婚約など女神エイラへの冒涜だと」


あれ?なんか、前に聞いた話と違う。あの二人は婚約大作戦とノリノリだったはず。


兄はティティヴィリス先輩に話をふった。


「本人欄と証人欄に別人がサインした婚約届ってどうなんでしょうね?」


「問答無用で無効ですな。ハイ。公文書偽造に問われる可能性もございます」


ティティヴィリス先輩がくいっとメガネっを持ち上げて断言する。

マルバス伯が、眉間にしわを寄せて話に入ってきた。


「それなんだがね」


もしかして、気の利く男の本領発揮?味方になってくれる?

ロザリンドの期待はすぐに打ち砕かれた。


「私も気になっていたんだよ。迂闊だったなあ。こんな大切な仕事が残っていたとは」


マルバス伯が額に手を当てて嘆いて見せたのち、親切そうに言った。


「これぞ。チームの解散パーティーにふさわしいイベントだよ。みんなでエイラ神殿に行ってオルランド卿とタープ嬢の婚約破棄を見届けようじゃないか」


「賛成」

「異議なし」


話がまとまるのが妙に早い。みんなして、一斉にてきぱきと動き始めた。


「そうと決まったら馬車の準備を」

「乗合で行こう。一台に4人乗れるから、・・・・」

「私は自分の馬で行きます」

「帰りに追加の酒を買ってきませんと」


「僕、着替えてきます」と一番に部屋を出ていこうとしていたアリトン君が兄に声をかけた。


「タープ君たちは一緒に僕の馬車にのらないか?」


「ありがとう。たすかるよ」


ギャニミードは答えると、笑顔でロザリンドを手招きした。


「ロザリンド、乗せていただこうよ」


展開早っ!!万事休す!


そのときオルランド様が、早口で言った。


「タープ嬢。大事な話があるんだが。少し時間を貰えるかな」


待ってました!

ロザリンドは頭をがくがくさせながらうなづき、オルランド様の後について、隣の部屋へ走り込んだ。


オルランド様はしばらく落ち着きなく、頭をかいたり顔をこすったりしていたが、やがて言った。


「そう・・・・・要するに何が言いたいのかというと・・・私はこういう・・・・・・あまり面白みのない人間なのだが」


「いえ、私こそ。こんなみっともない」


「みっともないなんてことはない。全然・・・・・・その、君さえよければ・・・・・・このまま婚約を継続したい。きちんと、結婚を前提に・・・・」


「はいっ喜んで」


オルランドさまは、ほっとしたように。笑顔になった。


「上位法というのがあって、エイラ法においても、例外ではなくて」


「より効力の高いほうに従うことになっているという」


「それだ。というわけで、婚約証書は偽造だが、あらたに本人が記入した婚姻届けを提出すれば万事解決だ」


「はい。ただ、もう少しお待ちいただきたいのです。今、エイラの侍女を探してらっしゃるそうなので、本採用の人が来るまでは、王妃様にお仕えしたいと思います」


「ああ。もちろん。私も、セーレ公にお仕えすることになった。ベリアル宮殿の中に部屋を頂けるそうだから、都合がいい」


「まあ。よかった」


「・・・・・あ、そうだった」


オルランドは、あたふたとその場に片膝を付き、ロザリンドの片手をとった。


ほんとに?プロポーズ?夢じゃないかしら。

うひゃあ。

手の甲へ口づけなさったわ。

その感覚に、ロザリンドの心臓がありえない勢いでどくんどくんと打ち始めた。ざざっと頭に血が上っていく音がする。顔が熱い。目の前がくらくらしはじめた。

今にも鼻血を吹きそうな気がする。そりゃあもう確実に。

鼻血専用ハンカチはどこかしらっ??

あっちの部屋に置いてきた気がする。

今すぐ取りに行った方がいいわよねっそれはもちろんわかっているけど。

でもここを一歩たりとも離れたくない。

ずっと、手を取り合って、見つめ合っていたい。

立ち上がって微笑みかけるオルランド様を、ロザリンドはうっとり見上げた。

もう。オルランドさまったら、なんでこんなに魅力的なのかしら。


そのとき、空きっぱなしの扉の向こうから、何かもめている声が聞こえた。


「おい。ギャニミード君。鼻血ハンカチ届けたほうがいいんじゃないか?」

「いや。今、部屋に入っちゃダメでしょう」

「本当だ。ほら顔が真っ赤。今にもドバっと吹きそうだよ。あたりが血の海になる」

「僕、行ってこようか?通りすがりを装ってさりげなく」

「アリトン君より、気の利く私が適任かな。さりげなく」

「さりげなくなんて無理ですって」


ロザリンドはすうっと冷静になった。

よく見たら、開けっぱなしの扉の向こうに、いつの間にか大きな鏡が置かれている。どうやら、ずっと見られていたらしい。ロザリンドはオルランド様とむっとした顔を見合わせて、そのあと、同時にくすっと笑った。


オルランド様は、ポケットからハンカチを出して渡してくださった。前にいただいたものと色違いのお揃いだ。奇麗なRの縫い取りがある華やかな深紅だ。血を拭いてもパッと見目立たない感じ?


「大丈夫?」


「ええ。ありがとうございます」


兄が戸口に顔を出し、「必要か?」と言いたげにロザリンドのカバンを持ち上げて見せたので、ロザリンドはかぶりを振った。そして、手で顔を扇いだ。幸せで胸は高鳴っているが、鼻血の危機は去った。


「では、婚約発表といきますか」


「はい」


ロザリンドはオルランド様と腕を組んで隣の部屋に戻った。


だれも出かける準備などしていなかったかのように、全員が部屋に戻ってきていた。アリトン君も着替えていない。


「婚約おめでとう」


皆の暖かい拍手で迎えられた二人は、そのままテーブルの前に案内された。

テーブル上に広げられていたのは、賭けのオッズ表だった。

どうやら、周りに婚約破棄を迫られたら、二人がどんな行動をとるかが賭けの対象になっていたらしい。

皆がそれぞれ項目を説明してくれた。


「慌てて隣の部屋に行く。2倍」

「上位法の話が出る2倍」

「このへんさすがですよ。オスカー卿」

「ちゃんと作法通り膝まづいて。手の甲にキスしていました」

「これは意外だったよねえ」

「これを当てたのは二人だけか。ポイント高い。5倍だもの」

「ハンカチ準備していたとは気が付かなかったな」


ロザリンドとオルランドは、渋い顔で項目とオッズを確認した。

「ロザリンド嬢が鼻血をたらす。2倍」なんてのがあったら泣きたいところだったが、さすがにそれは無くて、安心した。

胴元にして、仕掛け人となっていたマルバス伯は、余裕の笑みを浮かべながら言った。


「プロポーズをするであろうことは1倍。賭けが成立しなかったんだよ。だから私がしない方に賭けておいた。婚資の足しにしてくれたまえ」


そして、うれしくてたまらんといいたげに鼻を引くつかせながら言い添えた。


「礼には及ばないよ。なにしろ私はほら、気が利く男だからねえ」


同じ世界で別視点の小説「ベリアル宮廷の物語」をムーンライトノベルで連載しています。


https://novel18.syosetu.com/n3172dg/


こちらはベリアル宮廷が舞台。

98話までに登場したセーレ公やオルランド卿、マルバス伯はまだまだ活躍予定です。

お読みいただけると幸いです

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