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ゼパル氏の噂

ゼパル氏の噂知ってるかい?

その名はカサンドロス・ブッファルマッコ・ブオナミーゴ・アルルカン=ゼパル


錬金術師にしてゼパル商会の総帥。そして、稀代の屁こき男だ。

そのひとが、ナーダのフォカロル神殿で祭司をしていた友達に会いにいったときのことさ。

ケンカをしたかなんかで、酒をかけられたゼパルさんは、何かに急に腹を立てて、とんでもなくデカい屁をこいてしまった。

どうやら、この人は怒れば怒るほど、でっかい屁をこいちまうらしい。

とんでもないむかっ腹を立てたゼパルさんは、でかい屁をこき、その屁に蝋燭の火がついて、大爆発を起こしフォカロル神殿を跡形もなく吹き飛ばしちまった。その時の火柱は馬で7日かかる宿場町でも見えたというぜ。

もう、大爆発。

その勢いでゼパルさんはぴゅーんと空を飛び、自分の船まで戻った。

フォカロル神殿からナーダの港まで、歩いたら小一時間かかるところだが、ぴゅーんと飛んだもんだからものの数秒で着いたんだと。

だもんだから、そのときたまたま居合わせた公爵閣下を殺しちまってたってことに、気が付かなかったんだ。


公爵の息子さんはもちろん犯人を捜した。これがなぜか、王妃様の侍女パシトーエ嬢の仕業ってことになってしまった。

あわれな娘さんは爆殺事件の犯人として逮捕され、裁判が行われることになった。


その裁判が始まってそうそう、ゼパルさんは証人として名乗りでた。

こうしちゃおれん。あの爆発は、わしの仕業じゃい。

無実のお嬢さんが罪に問われるのを黙ってみちゃおれん。

正義を貫くために、首ちょんぱがなんぼのもんじゃいっ。

漢だよ。うん。


実はこの人、この間首を切られたビフロンス公爵夫人のパトロンやっていたんだそうだ。

ところが、プロポーズしたとたんに、そばにあった火掻き棒で頭をかち割られたらしい。


悪魔の薬を作ったあんどらずという大悪党いたろ。こいつに薬の作り方を教えたのも、ゼパルさんなんだって。


すげえよな。伝説の人だよ。


んでこの人の弁護士になったのが、ヴァレフォール家のオルランドだ。

薬の裁判について聞いたことがあるならダブルオーと呼ばれた弁護士たちを覚えてねえか?その片割れなんだけどよ。


もうね。いろいろドラマチックな人だよな。


そしてアスターテの大法廷にておこなわれた裁判で、証人として招かれたゼパルさんはとんでもない屁をこいてみせた。

アスターテ神殿だけじゃなく、西の市場までが、肥溜めに叩きこまれたみたいなとんでもない臭いだったぜ。

いまでも思い出しただけで鼻をつまみたくなるようなやべえ臭い。

その時の服は鍋でぐつぐつ煮込んで、くたくたになるまで洗ったけどよ、匂いは消えなかった。


その屁のせいかしらんが、裁判も変なことになってな。

なんと勅許が発せられた。陛下がやめるように命令したらしいぜ。御自らの伯父上である公爵閣下が屁で死んだってのは外聞が悪いからじゃねえかって、もっぱらの噂さ。

そのあとも、大混乱。

何の審議もなく、決闘ということになっちまったり、決闘するはずの嬢ちゃんが逃げたり、あと、陛下のお気に入りだとかいう『親衛隊』があっちこっちうろついたりもう大混乱。

なにもかも、ゼパルさんの屁一発で吹き飛ばされちまった。

そんでもって、なぜかゼパルさんの弁護士してた兄ちゃんが牢屋にぶちこまれたんだが・・・・・。

この辺の事情が、よくわかんねえんだ。誰か知ってたら教えてくんな。


とにかく、弁護士のオルランド卿は30日の牢屋入りとなっちまった。

これにゼパルさん。怒ったのなんの。

衛兵隊の建物の前で大騒ぎをはじめた。


「なんでわしを逮捕せんのやっ。屁こいたのわしやぞ。おまけに殺人犯やぞ。

ビレト公をついうっかり殺してしもうたのはワシやねん。

この間、裁判で認められたやんか。

殺人犯を野放しにしておきながら、弁護士を牢屋にぶち込むなんぞ言語道断やねん。おかしいやろっ」てね。


衛兵隊では、終わった裁判だし、ゼパル氏の訴えを認めるわけにはいかないので、体よく追い払おうとした。

しかし、ゼパルさんは粘った。


「オルランド卿の代わりにワシを俺を牢屋に入れんかい!さもないと玄関で屁をこくぞっ」


脅された衛兵隊では、仕方なく

「弁護士がいるのはアスターテ神殿の中にある牢屋だから、そっちへいけ」

とおいはらった。


それでゼパルさんはアスターテ神殿へいったのだが、

「逮捕されたきゃ衛兵隊の方へ行け」

と、そっちでも追い払われた。


ゼパル氏はそれから連日通った。

衛兵隊もアスターテ神殿も、「あっちへいけ」とたらいまわしにしたもんだから、毎日のように行ったり来たりした。


そしたら面白がってついてくる奴らがでてきて、それが毎日のように増えて、10日たったころには大行列を引き連れて行ったり来たりするようになってさ。

俺も二日目位から、ときどき一緒にウロウロしたんだ。

騒ぎはますます大きくなった。


だれかがゼパル氏に屁をこいてくれとリクエストしたんだよ。

そしたら、

「わしを怒らせたらデカい屁をこいてやる」

というんだよ。

よし来た、とばかり、みんなして怒らせようとしていたんだけど、口喧嘩じゃあ、だれも敵わねえんだよ。

二倍の勢いで言い返してくるし、えげつない下ネタのオンパレードでさ。

みんな笑っちまって、ケンカにならねえの。


面白いのは、だれかに「ゼパル先生」って呼びかけられたとたん、急に顔を真っ赤にしてモジモジし初めてさ。

「先生はいけん。それだけは呼ばんといて」って。

おもしれえよ。それまでド汚い下ネタポンポン言っていた男が、急にはにかみ屋になっちまってさ。

そうなれば、みんな呼ぶに決まってるよ。

「先生」って呼び続ければ、怒るんじゃね?って思って、呼びかけ続けたやつらがいたが、ゼパルさんは屁をこかずに、そいつらに殴り掛かっちまってさ。

「先生と呼ぶなって、いうとるやろがっ」

ケンカになったが屁にならなかった。

そもそも、自分が怒らせろって言ったじゃん。

怒らせたら屁をこくって言ったのに、殴り掛かってどうするんだよ。

なんにせよ大うけ。ああ、おもしれえ。


連日ゼパルさんが押しかけてくるもんだから、衛兵隊前とアスターテ神殿前は大賑わい。

一回だけ衛兵隊の詰め所の前で、屁をこいたんだよ。ブリッって感じの小さいやつ。それがもう臭えのなんの。みんなよってたかって嗅いで、げろをはく。衛兵隊の門の前がゲロまみれになっちまってな。

みんな市場へ行って、オレンジを買いまわったもんだから、またしても八百屋が大儲け。

それからはゼパルさんが突然に屁をこくかもしれないってんで、オレンジ満載の籠を背負ったやつが付いてくるようになった。


そんなこんなでな、弁護士オルランド卿は、少し早めに釈放になった。

既定の日数の半分くらいで出られたらしいぜ。


そんで、オルランド卿はアスターテ神殿の門から出た直後、門の前でわめいているゼパル氏のところへ挨拶に来た。一番の殊勲者だもんな。


「ありがとう。あなたのおかげで少し早く出てくることができました」


祝福ムードの中、オルランド卿がゼパル氏に握手を求めた。

ここはがっちり握手をして、戦友として抱擁を交わし、やんやの大喝采で大団円って場面じゃないか。

誰だってそうすると思った。その感動の場面を見逃すまいと、皆で取り囲んで拍手の用意をして待っていたんだよ。


だがな、ゼパルさんは一味違う。

こんな風に短い腕をぐっと組んだまま、差し出されたオルランド卿の手をにらみつけて、ものすごいむくれ顔になってさ。

なんて言ったと思う?

「まだまだ喚き足らん。あと十日ほど中に居れや。な!!」

だってさ。

オルランド卿は苦笑しながら手を引っ込めて

「まっぴら御免です」

だってさ。


話にならんと帰ろうとする弁護士一行と、「中へ戻れ」とわめきながら通せんぼするゼパル氏とで揉み合いになったんだが、そこへ仲裁に入ったのが弁士たち。

しかもパンタロネさんとザンニさんとか有名どころが次々に声をかけたんだよ。

うちの組合と契約しませんかってね。ぜひ一緒に一旗揚げようじゃありませんかって。こんな面白い人を放っておく手はないもんよ。


じつはさ、ゼパルさん、学があるお人らしくてさ。字とか本とか読めるんだってよ。それに、外国の劇なんかも暗記してるんだと。人は見かけによらねえよ

ってわけで話がまとまったらしくて巡業に旅だった。

ビレト公が屁で死んだって話を広めて回るんだと。

帰ってきたらさ、またおもしれえ話を聞かせてくれること請け合いだ。


最後まで聞いてくれたみんなに、大流行している錬金術師ゼパルの屁こきポーズを教えちゃうぜ。

こうしてな難しい顔したまま腰を落としてケツを突き出すんだ。

覚えて帰ってくれよな。

ほれ、やってみな。


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