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シュルガット隊 見参2

突然怒鳴られて、シュルガットは言葉を切った。

え?おれ、なんか悪いこと言った?


王弟殿下セーレ公が、上座を譲り、わざわざもてなすほどの男となると、やはり相当な身分であろう。そんな雲上人に、形相を変えて睨みつけられ、シュルガットはおもわず体を固くした。


「殿下、どういうことですか?女ですと?」


主賓はシュルガットにではなく、セーレ公爵にくってかかった。


「男しかいない舟遊びにお招きするとおっしゃったはずだ。それなのに女を招いたのですか」


「招いていません。そうではなくて」


あわてて、取り繕おうとしたセーレ公だが、主賓は聞いていなかった。


「女の何が珍しい?世界の半分は女だぞ。一時だけでも、そこから離れて男だけのパラダイスを作ると言ったくせに、だまされた。興ざめだよ。今宵の宴は、私好みにするといっておいてこれか。台無しだっ」


主賓の男がカップを床にたたきつけた。金属製のカップが絨毯から転がり落ち、からんころんと音を立てた。

船上は静まり返った。


「殿下には私をもてなそうという気持ちがないようですなあ」


セーレ公もグラスをたたきつけると、負けずに言い返した。


「ちゃんとお望みどおりにしているでしょうが。見てくださいよ。このむさくるしい船内」


「なにい?むさくるしい、だとお?聞き捨てならんな。一度男だらけの宴を開いてみたかったといっていただろうが。ここはもうアルゴー船。あるいはテーバイの神聖隊だと調子いいこといったくせに。なんだその非難がましい態度は」


「だから周りを良く見ろといっているんです。何処に女がいるんです?」


「とぼけるな!!さっき自分が呼びこもうとしていたじゃないか」


「していません」


「してた」


「していません」


「ああ気分の悪い」


主賓は耳をふさいだまま、セーレ公の言い訳にも、侍従たちのとりなしにも耳を貸さず、ふらふらと船尾の方へ歩きながらわめきはじめた。


「女が居るなど許さーんっ。この船から追い出せーっ」


「さすがレオ様。いいお声」


すかさず隣の美少年が拍手する。主賓はすこし機嫌を直したらしい。


「そうか。よし。一緒に叫ぼう」


主賓の男はそのまま船のヘリのところまで行くと、小姓の肩を抱き一緒に、拳を天に突きあげて叫び始めた。


「俺は女が嫌いだー」

「僕もきらーい」

「女―でていけーっ」

「そうだー出ていけーっ」


真っ黒な海に向かって二人が声を合わせてさけび始めると、船中にいる招待客たちも、野太い声で大合唱し始めた。


「女ーでていけーっ」

「そうだーでていけーっ」

「俺は女が嫌いだ―」

「あたしもー」


もしかしたら、主賓の男は女嫌いとして有名なエギュン公かもしれない。シュルガットは思った。そういえば召使の何人かは、それっぽい紋章をつけたお仕着せ姿だ。北風神聖扇ボレアスリピタだっけ?


セーレ公は、酒を戻しそうになっているらしい。口に手を当てると、そのまま、ふらふらとクッションに倒れ込み、顔をうずめてしまった。

もしかして、もてなしていた男に面罵されてショックだったのか?。ざまあ見やがれ。


カライスという爺さんがいそいそとセーレ公の介抱に行った。そこで何事かいいつかったらしい。シュルガットの腕をつかみ高甲板の端っこまで引っ張っていくと、囁いた。


「船内くまなく、お気の済むまで探してよいとのお言葉です。わかって居られましょうが、もし船内でお探しの女が見つかっても、高甲板には連れてこないように、頼みますよ」


「ああ、もちろん」


「あとで、ワインを一樽差し上げますんで、先ほどのことはご内密にね。これ、お土産です」


お察しください的な目配せとともに、重たげな革袋財布を手に押し付けられたので、シュルガットは「どうも」と懐にしまい込んだ。

役得役得。


カライス爺さんは楽隊を呼び戻し、チャンカチャンカと軽快な曲を演奏させはじめたが、あまり和やかな雰囲気にはならない。


シュルガットは去り際に振り返った。主賓は先ほどの席には戻ろうとせず、小姓の手から果物を食べさせてもらったあと、その指にキスを繰り返している。セーレ公は相変わらずクッションに突っ伏したままだ。

戻ったら、セーレ公の宴会をぶち壊してやったという武勇伝とともに、こいつらの醜態を触れ回ってやるぜ。くひひ

ほくそ笑みながらシュルガットはカオスとなっている高甲板を後にした。


さてと。

シュルガットは隊員たちを船上に呼び寄せ、船内を捜索し始めた。

男ばかりだから、女を見分けるのは楽そうだ、と思ったがそうでもなかった。

派手な色のドレス姿はちらほら見かけるのだが、よく見ると上半身が裸だったり。髭を生やしていたりする。

ゴツイ男たちの熱い視線と粘っこい投げキッスを避けつつ、船内を捜索していたシュルガット隊は、自分たちが、いつの間にか狩られる側になっていることに気が付いた。

そう。ここにいるのは、男を獲物にする男たちばかり。


「ここの船室見ていいわよ。そこの可愛い君だけ。ウフッ」

「隠れてそうなところ、みつけちゃった。そこの彼にだけ教えてア・ゲ・ル」

「アタシ案内してあげてもいいわよ。船内だけじゃなくて目くるめく世界へ」

「あら、ワタシのこと疑ってる?ドレス、脱がしてもいいのよ」


次からつぎへと迫られ、物陰に引きずり込まれそうになったシュルガット隊は脱獄囚捜索どころではなく、這う這うの体で引き上げたのだった


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