秘密の通路
廊下の角を曲がると、マルバス伯たちが待っていた。
ロザリンドが書類を渡すと飛びつくように内容を確認した。
「サインはいただけなかったのですが」
ロザリンドは言った。オスカー卿は印章のへこみを確認した。
「大丈夫ですよ。印章があれば十分だ。それにたくさんの貴族の前でこれを押したのだから、約束を守ってくださるはず」
「よし」
書類を確認し終えたマルバス伯はロザリンドたちに向きなおって、計画の続きを教えてくれた。
「我々は、明日の朝一番にアスターテ神殿に行き、テレサさんの外出許可を勝ち取ります。皆さんは、明日の夕食にテレサさんが来ることを信じて、お待ちください。我々が食事をする部屋までお送りし、扉の前で待たせていただきます。外に見張りが立つことになるかもしれません。落ち着かないとは思いますが、ご容赦願います」
「食事の後は、どうすれば」
「私どもが廊下で待っております。食事が終わったら、皆さんはテレサさんを、そのままお引き渡しください。帰り道で、我々の仲間がその身柄を取り戻す計画です。その旨、テレサさんにお伝えください。少し騒がしくなりますが、ご心配なく、と」
去ろうとするマルバス伯を王妃様は引き留めた。
「待って。その計画を少し変更できないかしら。」
「はあ。どのようにです?」
「実は、私の部屋から、誰にも見られずに外に出られる道があります。テレサをそこから逃がしますから、どなたかが、その出口へ迎えに来てくださらないでしょうか」
ぎょっとしたようにカフシェル嬢が口をはさんだ。
「王妃様。お待ちください。そんな道どこにもございませんわ。
秘密の通路?部屋から出るには廊下に出るか窓からしか出られませんよ。王妃様の居所は3階ですよ」
王妃様はフィリパ嬢をなだめるように言った。
「あるのよ。黙っていてごめんなさいね。私だけが知らされている通路があるの」
「え??」
驚きで言葉を失っているフィリパ嬢に「後で説明しますよ」とささやき、王妃様はマルバス伯に話を続けた。
「おそらく、戦などの際にそこから逃げられるように作られた通路です。限られた人間しか知りません。鍵は私が持っています。エイラ宮の部屋の一つから、東側の塔の裏手にある果樹園まで伸びています。そこに迎えの人をよこしてください。長年ここで過ごしたフィリパですら知らない道です。安全で確実ですわ。ぜひ、そのようにしてください」
マルバス伯はためらっているようだった。
「実は、その通路のことは先ほどお話に出たルキウス・マルバスから聞いておりました。しかし、検討した結果、その案は却下となりました」
「何故ですの?」
「その通路を使ってしまえば、王妃様を巻き込んでしまうことになります。なにがしかの罪に問われる可能性もあります」
「かまいません。この秘密の通路を使ってください」
マルバス伯は、しばし迷うように、隣のヴァレフォール卿と顔を見合わせていたが、やがてうなづきあった。
「ありがとうございます。では、王妃様のそのように変更しましょう。あす、場所の確認をしましょう」




