ロザリンド 雲の上の世界にて
翌朝、ロザリンドはシュノス夫人について、エイラ宮へと向かった。
ベリアル宮とは渡り廊下が一つだけつながっている。他にはお部屋を掃除するメイドだけが使う狭い通路があるきりらしい。
何だか閉じ込められているみたいだわ。
それに、廊下も普通の石畳で壁の装飾もないし。
謁見の間には、フィリパ・カフシエル嬢が出迎えてくれた。テレサさんの唯一の同僚で仲良しだったという。
そして王妃様に拝謁を賜った。
本当に美しいお方だわ。ロザリンドは見とれてしまった。顔かたちがどうこうというのではなく、そのたたずまいと存在感に、頭を垂れたくなる感じ。
お歳は二十歳中ごろのはずだったが、お母様と同じ40がらみくらいに見えた。
ご懐妊以降、一年以上たつのにおなかは膨らんだままだそうだ。
王妃様、シュノス夫人。そしてカフシエル嬢の前で、儀式が行われた。
エイラ聖典に置いたロザリンドの手の上に、シュノス夫人がペンダントをかざす。細い貝殻のようなそれは、すっとロザリンドの手の甲に吸い付いてきた。
シュノス夫人はうなづいた。
「よろしゅうございます。では誓いの言葉を」
「私、ロザリンド・タープは王后陛下に一途にお仕え参らせますことを誓います」
宣誓を行い、ロザリンドは『エイラの侍女』に正式に任命された。
王妃様は親しく話しかけてくださった。
「ロザリンド・タープ嬢。あなたのお名前はきいておりますわ。フルーレティ女伯から」
「はい。ありがとう存じます」
「いつぞやは、葉っぱの手紙を届けてくださったわね」
「はい。お読みいただけましたか。消えていないか心配しておりました」
「ええ。大丈夫」
ああ、あのテレサさんからの手紙が無事に届いていたのだわ。よかった。
儀式の道具を持って、シュノス夫人が立ち去った。
こうしてはいられない、とばかりに、ロザリンドは携えていた封書を取り出し、王妃様に手渡した。
「これ。テレサさんの裁判のことで・・・・・・急いでお読みいただきたく存じます」
王妃様は当惑なさったご様子でカフシエル嬢と顔を見合わせたが、すぐに手紙に目を通してくださった。
「まあ、大変なこと裁判が打ち切られてしまったのね」
王妃様が顔を曇らせた。
「はいっ。このままでは、三日後にテレサさんはビレト公と決闘しなくてはなりません。私たちはテレサ殿を安全なところに避難させたいと考えています」
王妃様は寂しげに微笑んだ。
「ありがとう。本来それはあの子の主たる私の務めですのにね。ふがいないこと。なんでも言ってちょうだいな。わたくしにできることは何でもいたします」
「ありがとうございます」
ロザリンドはこれからの手順を説明した。
「私が、この手紙を王妃様のために、代筆いたします。テレサさんと一緒に食事をしたいので、外出許可をとるものです。書き終えたら王妃様のサインを頂きたいのです。
「わかりました」
「そして、その手紙に、それを許可する国王陛下のサインも頂かなくてはなりません。ご体調がすぐれなければ、私が行ってまいりますが・・・・・・」
王妃様は被りを振った。
「いいえ。わたくしが参ります。それでも・・・・・・頂けるかどうか」
王妃様はうつむいてしまわれた。ロザリンドはことさら明るく言った。
「とりあえず。お手紙を書きますわ。王妃様の便せんを頂戴いたしとうぞんじます」
カフシエル嬢が、王妃様の紙を出してくださった。金泊で王妃様個人の紋章が押してある。豪華な紙を前に、ロザリンドは緊張しまくりだった。
一文字だって間違えられない。汗も涙も、鼻血も垂らせない。
そして、何とか書き上げて、準備は整った。




