Homo proponit, sed Deus disponit. 計画は人にあり、成敗は天にあり
ロザリンドはシーリアさんと二人、控室で、悶々としながら待っていた。
裁判は突然非公開となってしまった。
昼食時になってやっと帰ってきた姫様の話を聞き、あまりのことに、ロザリンドは声を失った。
テレサさんに下された判決は、決闘だという。
それはもう死刑判決ではないか。運が良ければ死なずに済むかもしれないが、大けがは免れない。
昼食はもう喉を通らなかった。
ロザリンドは早々に自分の部屋に引き取り、ベッドに倒れ込んだ。
なんていう理不尽。
余りにも理解を超える現実に、頭が付いてきてくれない。受け入れるのを拒否してしまう。
証拠も証言も一つも審議されることなく、勅書によって判決が決められてしまった。
テレサさんは、たしかに二つの箱から一つを選ぶのが許された。
でもそんなのってあり?
この裁判でテレサさんの無実を明らかにできるはずだった。
そのために、この数か月を費やしてきたのだ。証言をかき取り、あちこちに手紙をおねがいし、証拠品を集め、資料をあつめ、必要な法律を写しまくった。
それらが全てを無かったことにされてしまうなんて、在りえない。
テレサさん自ら主張をする機会すら取り上げられてしまったのだ。
そのことに抗議をしたオルランド様も牢屋に入れられてしまった。
考えれば考えるほど悔しい。
正義の女神アスターテの御元で行われることとは思えない。
なんでこんな理不尽なことが。どうして、どうして?
ロザリンドは思いっきり足をばたつかせ、硬いベッドを拳で殴りつけた。
悔しい、悔しい、悔しい。
気持ちはまだまだ収まらず、さらに毛布を丸めて、ベッドに叩きつけた。
「うりゃああっどあああっ」
バシーンバシーン。ベッドの位置がずれるほどの勢いで、攻撃し続けたが、
空しいだけ、疲れただけだった。
ロザリンドが再びベッドに倒れ込んで、ため息をついた時、遠慮がちに扉をたたく音がした。
「あの、ロザリンド。大丈夫?」
「ええ。大丈夫よ」
ロザリンドは慌てて涙を拭いて起き上がった。よく考えたら、居間から壁一つ隔てただけの部屋だから、ロザリンドが大暴れしていた音はつつ抜けだったろう。
ちょっと恥ずかしくなってきたロザリンドは、慌てて飛び起きると服のしわを直しつつ、できるだけ上品に答えた。
「どうなさったの」
「じつはセーレ公とマルバス伯が、あなたに大至急会いたいとおっしゃっていて・・・・・」
ひええっ。セーレ公?王弟殿下が私に?
セーレ公ほどの高位のお方だと、まずは先ぶれの使者がくるから、そのあと、皆で並んで、お出迎えという手はずだろう。
ロザリンドはドアから飛び出して、シーリアさんに尋ねようとした。
「それって、いつごろお見えにな・・・・・・」
ロザリンドは不用意に顔を出したことを激しく後悔した。
なんと、彼らはすでに来ていた。
ドア一つ隔てた居間に、マルバス伯を従えた仮面の男が待っていた。
マルバス伯がセーレ公に紹介してくださり、ロザリンドはおずおずと頭を下げたが、なんだかこのまま地面にめり込んでいきたいような気分だった。
ものすごく、はしたないことをしてしまった。
涙で頭が冷えていて、鼻血が出なかったことが唯一の救いだろうか。
セーレ公は気さくに話しかけてくださった。
「いやあ、勇ましい雄たけびだったね。あのすごい音は、ベッドを蹴りつけていたのかな」
「殿下っ殿下っ」
さすがは気が利く男マルバス伯。咳払いでたしなめてくださったが、セーレ公爵はひょいっと肩をすくめた。
「何故だい?誉めているんだよ。
怒って当然だ。アスターテの裁きの場で、正論が退けられ、与太話とご機嫌取りが優先されたんだから。そうだろう?おまけに婚約者は逮捕されてしまったしね。
降りかかった不幸にめそめそ泣き崩れていたら、大変だなと思っていた。
それじゃあ勝てるものも勝てなくなるからね」
ロザリンドは、ハッとして顔を上げた。
「・・・・・勝てるんですか」
仮面の中の眼がまっすぐ、ロザリンドを見た。
「僕はそう信じている」
セーレ公はニムエ姫とシーリアさんの方を向いた。
「ここから先はタープ嬢にだけ話したいのですが」
姫様は不満そうではあったが、シーリアさんと共に別室に向かってくれた。
ロザリンドは食事をしていたテーブルでセーレ公に向かい合った。




