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勅使 2


勅使入場の準備が整い、再び開廷された。


だが、広い法廷に、20人ほどがいるだけであり、がらんとした空間に音が響いた。

原告被告、裁判官、13人の陪審員、そして弁護人のみ。


やがて勅使クローケル卿が勅書を高く掲げて入ってきた。


勅書。それは国王陛下のご意思である。

国王その人をお迎えする時と同じく、皆恭しく頭を下げる。


クローケル卿はセーレ公が自分に向けて頭を下げる様子を見て、満足そうな笑みを見せた。


裁判長は、クローケル卿にその場所を譲った。


そういえば、クローケル卿は唯一神教徒であり、ほかの神をすべて否定しているという。

それなら、アスターテも信じていないわけで、そういう異教徒の持ってきたものは無効という法律はないもんかな。ないだろうな。


クローケル卿は金ぴかに飾られた文箱の紐をほどくと、なかから丸められた書類を取り出した。

そして古語で書かれた勅書をすらすらと読み始めた。



「女神アスターテノ祭壇ニアリテ、無益ナル議論ヲ繰リ返シ、故人ノ名誉ヲ棄損スルノミノ現状ヲ鑑ミ、勅書ヲ発スルモノトスル」


言ってくれるじゃないか、とでも言いたげに、オルランド卿が低く呻いた。


隣のテレサ嬢はうつむいたまま震えている。自分の運命がこの選択一つにかかっていることをひしひしと感じているのだろう。


マルバス伯にしても、やりきれない気持ちだった。

何とか助けたいと今までしてきた努力が、一気にご破算にされたわけだ。

集めてきた証拠、証言、手紙、法律、そういったものが無にされ、単純な二者択一にされてしまった。


被告が選べると言っても、おためごかしだ。


クローケル卿が、文箱二つがのった大きな銀の盆を、証言台に乗せた。

準備が整った。


「テレサ・コルネリア・パシトーエ嬢。内陣へ」


マルバス伯はテレサ嬢に腕を貸し、内陣に送り届けた。


あの二つの箱は、双方の主張を全面的に受け入れた判決なのだそうだ。

どうか、良い方を選んでくれ。席に戻ったマルバス伯はぎゅっと目を閉じて念じた。


テレサ嬢は不安そうに、全く同じ文箱を見比べていた。

目の前に立っているクローケル卿は、何の反応も示さず、テレサ嬢を見おろしている。


テレサ嬢は、やがて、一つを選んだ。


選ばれた箱は裁判長の元へ運ばれ、選ばれなかった方は、オルランド卿のもとに運ばれてきた。

オルランドはすぐさま箱の紐をほどいて中の書類を広げた。


「あの、先に開いていいのかい」


マルバス伯はおずおずと聞いた。

裁判長のほうは紐がもつれているらしく、まだ箱が開いた様子がない。


かまわず書類を確認したオルランド卿が歯の間から、舌打ちが漏れた。

震える手で握りしめる書類を、横からマルバス伯ものぞきこんだ。


『国外追放に処す。期限は一か月以内とし・・・・・・』


ああ、こちらを選べれば、よかったのに。


「同じのが二通来てるってことはないかね」


マルバス伯は希望的観測を述べたが、オルランド卿はかぶりを振った。


「ありえません。違うことを確認させるために、残った一通を被告側に渡すのです。そして、これよりいい判決は在りえない」


「げえっ」


マルバス伯は、オルランド卿を揺さぶった。


「取り換えができないかねえ。ここにいる人で、こっちを選んだことにしていただければ」


「それができればどんなにか。一旦選んだからには取り返しがつかない。裁判長にわたったあちらが正式な判決です」


オルランド卿は、裁判長のほうを忌々し気に睨んだ。

 ボルフリ裁判長は相当不器用な男らしく、いまだに箱を開けられずにいる。

どうやら文箱の紐を絡ませてしまっているらしい。

法廷中の注目が自分に集まっていることに気付いてから、さらに緊張でがちがちになっている。



やがて文箱の紐が開いた。

中の書類を確認したボルフリ裁判長は、しばらく泣きそうな顔で口をもぐもぐさせていたが、やがて痛みをこらえるような顔で判決を読み上げた。


「判決を申し渡す。アスターテ神殿内闘技場にて女神アスターテの公平な裁きにすべてをゆだねるものとする。期限は3日後」


闘技場?ということは決闘?まさか。

衝撃的な判決に法廷は静まり返った。


テレサ嬢が危うくその場に倒れそうになったので、マルバス伯はあわててささえ、椅子に座らせた。

とつぜん原告側から一人の男の拍手と高笑いが響き渡った。セバスチャン・ビレト公爵だった。


「正義は勝者にあり。そういうことだな」


傍らの弁護団を振り返って確認すると、父親譲りの芝居がかった動きで、大きく両手を広げ天を仰いだ。


「父上の無念を晴らして見せます。ご照覧あれ」


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