大法廷にて 3 Mundus vult decipi, ergo decipiatur.
よし。第一関門突破。マルバス伯はうなづいた。
常識的に考えれば、ゼパルが「お触り禁止」であることは明らかである。
常識人たるホレイシオ卿としては、証人として不適格である指摘をすれば、引っ込めると踏んでいたのだろう。
甘い。あいにくと、オルランド卿はこの男と話のヤバさは百も承知である。
毒を食らわば皿まで。一蓮托生。
桁外れな馬力の馬鹿話を全力でのっかって一点突破を狙う。
一度、オルランド卿とティティヴィラス君はゼパル氏の船で屁をこく様子を見て、この強気な作戦を立てた。
オルランド卿に促され、ゼパル氏は次々証言していった。
「たしかにあの爆発はわしの屁やねん」
「カノ爆発ハ我ガ放屁ニヨルモノ也」
すかさずオルランド卿が古語に通訳する。
あわててホレイシオ卿が遮った。
「お待ちください。この人が証人であるとはとうてい認められない。ゼパル氏が不適格であることは明らかです。筆記を停止したうえ、破棄するよう求めます」
「異議あり。裁判長。証人に話すことを禁じたうえ、記録にも残さない、アスターテ神官として、嘆かわしいふるまいです」
「裁判長。常識に照らし、明らかにこの世のどこにもない与太話を延々とさせることは、法廷を侮辱するものであります」
裁判官3人は頭を寄せ合って協議したうえ、とりあえず筆記の中断を指示した。
ホレイシオ卿は、ゼパル氏に詰め寄った。
「ご忠告しておきますよ。ゼパル殿。あなたの証言が認められれば、貴方が爆発事件の首謀者となるのですよ」
「おお。逃げも隠れもせん。わしが屁えこいた。これは確か」
書記はペンをとろうとはしなかったが、オルランド卿は、粛々と発言を古語に直していった
「確カニ我ガ為セル事ナリ」
ホレイシオ卿は、不快気にオルランド卿を睨んだ。
「ゼパル殿。このままでは、あなたは斬首刑になりますよ。わかっていないのでは?」
「わかっとる。首ちょんぱがなんぼのもんじゃい」
「死ナド恐ルルニ足ラズ」
「屁をこいただけで、死ぬとは思わんかった。お気の毒やねん。だが逃げも隠れもせん。わしの首持っていけ」
「不慮ノ事故ニ哀悼ノ意ヲ捧グト共ニ、我ガ為シタル事ニ付キ、責任ヲ負フ所存デアル」
オルランド卿は格調高く意訳していく。意訳し過ぎて、別のこと話しているようにさえ聞こえる。
傍聴席から声がかかった。
「証拠を見せろよ」
「そうだ。今、屁こいて見せろ」
ゼパル氏はそちらを振り仰いでいった。
「ばーか。好き勝手にこけるようなら、わしは船やめて屁で稼ぐわい」
「ちげえねえ」
大爆笑が沸き上がった。
「信じない罰当たりがおるんか?なら、わしのケツの穴を拝ませてやろう。どうだ、信じない奴おるんか?おるんなら手を上げい」
ゼパル氏は服を脱ごうとして、廷吏に止められ、またしても傍聴席では大うけだった。
「おっさん。脱げよ」
「見たかねえよ。ばーか」
「おっさん。クセえから、脱ぐんじゃねえよ」
ゼパルが何か言うたびするたびに、ドッカンドッカンの大爆笑である。
「いいぞゼパル」
「俺はお前の味方だ」
「俺もだ」
うけてる。しかし、いいのか、?これでいいのか?
常識人と自負するエルンストとしては、このゼパルの証言を信じた振りをせざるをえない状態には胸がふさがれる思いだが、やむをえない。
Mundus vult decipi, ergo decipiatur.
世界は騙されたがっている。だから騙される。




