Si vales valeo あなたの幸せは私の幸せ
共同で使っている仕事部屋で、ロザリンドがアリトン君と今日の予定について話し合っていると、マルバス伯が、ものすごいニヤニヤした顔で部屋に入ってきた。
「さっきね急にオルランド君が私の部屋にきてねえ。
なんだか贈り物したいから、いい店知らないかっていうんだよ。関係者あての進物なら、私の方で何か選んでおくが・・・・・・と言ったらさ、私的な贈りものだというんだよ。しかも女性あて」
「どなた宛ですかっ?」
オルランド様が私的に贈り物?ロザリンドはおもわず話に食いついた。宮廷でモテモテだった、という話も脳裏をよぎる。
アリトン君も自席を立ち興味津々と言った面持ちで近づいてきた。
マルバス伯の顔に、さらなるニヤニヤ笑いが広がった。
「話の前に、タープ君。鼻血専用ハンカチじゅんびした方がいいと思うよ」
気の利く男を自負するマルバス伯は、時々嫌な気の回し方をするのだ。
「大丈夫です。このごろ、ちょっとやそっとじゃあ鼻血がでないようになりましたから」
とはいえ、ロザリンドは念のためポケットの中にあるのを確認した。
「ちょっとやそっとの話じゃないよ。贈り物は誰あてだと思う?なんと。婚約者ロザリンド・タープ嬢あてだってさ」
え、なに?どういうこと?私のために、なにかプレゼント?
そんな幸せがあっていいのかしらっ。
一気に顔が火照ってくる。まだ鼻血は出ていなかったが、今にも吹き出しそうな気配がある。ロザリンドは念のため鼻にハンカチを当てて、話の続きを待った。
「おいおいおい。なんかロマンス始まったよ。どうよ」
隣のアリトン君が、ガシガシ肘打ちをしてくる。
うざい。でも許す。
マルバス伯は、しばらくクックックと笑った。
「仏頂面で小間物屋について尋ねてくるんだよ。かわいいところがあるねえ。婚約者へのぷれぜんとだってよ。しかも、自分で選びたいと。あれれ?便宜的に婚約しただけじゃなかったかなって、確かめそうになったよ。耐えたけどねえ」
「いよっ気の利く男。マルバス伯」
アリトン君が掛け声をかける。
「まだその掛け声早いよ。話は終わっていないんだからさ。いくつかいい店を紹介しておいた。小間物屋だがね、良いもの扱っている。何を選んでもはずれがない店なんだ。きれいな櫛とかリボンとか。いやいや。あのオルランド君がリボンの棚の前をうろうろするとおもうとさ。乙なもんだよねえ」
くっくっく。再びマルバス伯は、こそばゆそうに笑った。
「話のついでに、さりげなく兄上のギャニミード君に妹さんの好みを聞いておいてあげようってことになったんだよ。私はこう見えて気が利く男だからね」
「いよっ気の利く男。マルバス伯。憎いねっ」
アリトン君が再びはやし立てる。
「タープ君のお見立てなら間違いないですよ。っていうか本人だし」
「だろう、私もそう思ってさ。来たってわけだよ。例えばリボンなら何色が好きかな?きれいな飾り櫛なんかもおすすめ。どっちがいいかな」
「どっち?どっちって。無理、選べないですっ!!」
息が荒くなってきた。ちょっと舞い上がって、変な声が出そうだ。
ロザリンドはやっとのことで、答えた。
「何を頂いても嬉しいです。そんなの」
アリトン君がニヤニヤしながらけしかけてくる。
「じゃあ、高いものにしなよ。リボンじゃなくて宝石をねだってみても、いけるんじゃない。これだけこき使われてるんだから、ふんだくってやればいい」
「ああ。オルランド君は稼ぎはするが使わないタイプだ。ずいぶんとため込んでいるぞ。2,3着ドレスをあつらえて、勘定書きだけ送るとか」
ロザリンドは思わずたしなめた。
「だめですよ。そんなことしたら嫌われちゃうじゃありませんか」
「ほっほーう」
ロザリンドの答えに二人の笑みはますます深まった。
「お聞きになりましたかマルバス伯。本気でつかまえにかかってますよ」
「聞いたよ。いやいや。狙った獲物は確実に仕留めるタイプだね」
「猛禽類を思わせる眼だった」
なにそれ、私ったらどんな目してたの?
「かっからかわないでください」
「そうだ。この際、お揃いの意匠で指輪を買わせちゃうのはどうかな」
「いいですね。婚約指輪を買わせれば、既成事実に・・・・・・」
「そんな、困らせちゃいます。そんなの嫌ですよ。二人ともふざけないでください」
いくら睨みつけても、二人ともニヤニヤ笑いをやめなかった。
「いいですねえ。一度くらい困った顔をするオルランド君を見てみたい」
「一度と言わず、二度三度」
「アリトン君。君わるいやつだねえ。ぐふふふ」
「マルバス伯こそ。ぐふふふ」
おちつけ、落ち着くんだ。自分に言い聞かせてみたが、頭の中では大合唱が渦を巻いて響いている。
オルランド様からプレゼントっ。婚約者へのプレゼントっ。婚約者ロザリンドっ、それは私っわたしにわたしにぷれぜんとー
ぶはっと鼻の中が熱くなり、とうとう血が垂れてきた。
ロザリンドは、鼻をつまんだまま井戸に向かった。
階段を降りたところで、オルランド卿に呼び止められた。
「タープ君。ちょっと尋ねたいことがあるのだが」
ドキドキしながらロザリンドは振り向いた。
「ああ、鼻血か、ならいい。大した用事ではないから」
もしかして、今プレゼントについて聞こうとしていたのかしら?
リボンか櫛か?
選べなーい。でも聞いてほしいっ。
ロザリンドは顔を洗った後、急いでオルランド卿の部屋に行ったが、仕事の話だった。
ちょっと肩透かしをくらって、シュンとなった。




