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Epistula non erubescit手紙は赤面しない

エイラ神殿の面会室は男女で別れている。

女用は仕切りのない部屋で、顔を合わせて話ができるが、時間が短い。

男用は、間に仕切りがある部屋だが、エイラの巫女も部屋の外で待機している。裁判の為の面会であるという書類を書いて予約をとったので、制限時間も長い。


テレサさんとの面会は、いつもなら、ロザリンドとして女用のをつかう。

だが、今日は男用だ。

神殿の面会受付のところで、男装の女と見咎められないかドキドキしたが、法学院のメダルが功を奏し、ロザリンドはあっさりと面会室に通された。


女性用の面会室は一応同じ部屋にいるという気がしたが、こちらは本当に別室にいる感じがする。切り取られた壁の一部に、目の細かい網のようなものが張ってあり、よく目を凝らさないと向こう側が見えない。

間仕切りの向こうに現れた、テレサさんは驚いたようだった。


「え、ロザリンドさんなの?ギャニミード・タープって方だとお聞きしたのだけれど」


「ええ。私です。今日は兄の名前できました」


兄に成りすまして働いているという説明をすると、目を丸くした。


「すごいのね」


「ありがとうございます。実は、裁判で使う、手紙というか告白書というものを作成することになったんです」


男用の面会室を選んだ理由は、時間制限がないことのほかに、今日の仕事があまりにも決まりが悪くて、顔を合わせたくなかったというのもある。

男の人がするよりも、自分がやった方がいいと思い、今日の仕事を買って出たものの、やはりいざとなると、気が重い。


ロザリンドはできるだけ平静な顔をしながら言った。


「婚姻関係の裁判に詳しい人から、アドバイスをもらったんです。ティティヴィラスさんっていうんですけれど。その人が言うには、ものすごいねちねちした質問が来るそうなんです。


「ねちねちって」


「二人きりでベッドへ行き、まずバルカ提督は何をしましたか?とか」


テレサさんは「ひっ」と小さな声をたてて口を手で覆う。ロザリンドは慌てた。


「ごめんなさい。私も言いたくはないんです。でも裁判というのは証言台に立ったら、聞かれたことすべてにこたえなくてはいけない。みんなの前で、彼はあなたのどこを触ったんですか?胸?どんな風に?とか、そんないやらしい嫌な質問ばかりするんですって。しかも大きな声で言わなくてはならない。そして、それを聞いて傍聴席の人たちがはやし立てる。そういう雰囲気に耐えられなくて、裁判を取りやめてしまう人もおられるって」


テレサさんは見る見るうちに顔を赤らめ涙ぐんでしまった。

そうよね。嫌よね。誰だってそうだわ。


「ですから、オルランド卿は、こちらから先手を打って、テレサさんの告白書を提出する計画を立てたんです。結婚を完成させる行為を双方合意の下で行おうとしたにもかかわらず、無しえなかった。

その理由は、ひとえに婚約者のシャツに阻まれたものである、とアピールする作戦です。エイラ神殿には、裁判のために婚約者のシャツも貸してくれるよう頼んでいます。

証言を最初からまとめて提出してしまった方が、一つ一つ証言するよりも楽だと思います。」


テレサ嬢はうなづいてくれたが、きまり悪そうだった。

わかる。ものすごく個人的な秘め事だもの。

初夜について根掘り葉掘り聞かれたくもないわよね。

でも続けないといけない。


ロザリンドはそそくさと自分の書類に目をやった。


「始めましょう。えっと、婚約式の夜、介添えを務めたご婦人によると、テレサさんが寝室に入る前に、「バルカ提督は婚約者用のシャツを着て、ベッドにおられた。ということですが、間違いありませんか?」


テレサさんは真っ赤になりながらうなづいた。


「そのシャツはすっごく恥ずかしいデザインだったものだから、えーっと、カルタゴ大使のハンノ伯爵は、あんな恥ずかしいしろものを着るなんて、それだけでバルカ提督の愛の証拠だって、おっしゃっていたとか。皆さん、お手紙で証言してくださるそうです」


「ありがたいこと」


テレサさんが少し微笑んだので、ロザリンドは少しだけ安心した。


「そのシャツが脱げなかったというのは、どういう状態なんでしょう」


「わからないわ。シャツというより、袋だった。袋の口にある刺繍が首元のあたりにある時には、普通の袋のように緩んでいるが、袋の口を押し下げると、腰から下が水に濡れた布袋のように縮み、ぴったり体にくっついてしまう。無理矢理脱ごうとすると体が締め付けられてしまったって」


「摩訶不思議なシャツですね」


「カルロスさまは袋の口の上げ下げを繰り返しておられたのだけれど、袋を脱ごうとするたびに、ふくらはぎや腿のラインがあらわになってしまって」


「ひええ」


書類に書き加えながら、ロザリンドはドキドキした。


「というわけで、そののち、バルカ提督はどうされたんですか」


「寝台に戻ってこられて、エイラの霊験はあらたかだ、とかそんなこと仰っていました」


「なるほど」


「とりあえず、この状態で、できることを全てしてみようって」


「すべて・・・・ですか」


うおおおおお。大人の男の余裕ってやつ?すごく艶っぽい。かっこよすぎる。

息を荒くしながら、ロザリンドは相槌を打った。


「それで、そのあとは」


テレサさんは上目づかいでこちらを見た。


「それで終わりではいけないの?」


「必要なのは、どちらかというと、この後のことなのですが・・・・・・」


「この後ですって・・・・・そんな・・・・・・そんなのって・・・・無理よ」


テレサさんは、もしもじと身もだえしながら、目をそらした。

ロザリンドは慌ててなだめた。


「お気持ちはわかります。個人的な秘め事ですものね。ごめんなさい。でも、愛、という目には見えないものを、確かにあったと証明しなくてはならない。そのためには、態度、言葉などのめにみえるものをですね・・・・・」


テレサさんは激しくかぶりをふった。


「うんざりだわ。嫌。何もかも、嫌」


「辛いお気持ちはわかります・・・・でも」


「何がわかるの。いったい、貴方に私の何がわかるって言うの」


悲痛な叫びにロザリンドは言葉もなくうつむき、テレサ嬢がすすり泣きながらつぶやくのを聞いていた。


「わからないわよ。頼りになる人はみんな行方不明で、泥棒で爆弾犯人の濡れ衣を着せられて、急に閉じ込められて、おまけに、こんな決まりの悪いことを延々と質問されてる。私の気持ちがあなたにわかるわけないでしょ。おためごかしは、やめて」


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