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ロザリンド お仕事開始!!


ロザリンドとアリトン君の仕事、法律と判例集めが始まった。


法というのは、それぞれの神の言葉を法源としている。

裁判の基本的なところは、裁判の女神アシターテ。

原告と被告。検察と弁護士の定義とか、嘘をつかないなどの誓いはアシターテに対して行われる。


そのほか運命の神バアル。婚姻の神エイラ。財産の神マモン 農業の神ヘリオスなどなども独自の法を持っている。


裁判というのは議論の戦いであり、その際にいわば武器となるのが法律とその判例である。

何とも面倒なことだが、その法律がある、ということを知っているだけではだめで、正確な写しを手元に持っておかなくてはならない。


そのため、あっちこっちの神殿に行き、必要な法律を写したうえで、神殿の印鑑を貰ってくる。確かにうちの神の言葉です、という意味で。

マモン神殿 ヘリオス神殿。バアル神殿。エイラ神殿。

そこへ行っては、ひたすら書き写す。


その足で、図書館へ行き、その法律を使った裁判の判例のなかから、使えそうなものをうつす。もちろん、その法律を使った裁判は膨大なものになるから、全部を写すわけにはいかない。その判例の中から使えそうなものをピックアップして、書類にまとめる。


兄によれば、この準備で裁判の勝敗は八割がた決まるのだそうだ。


すでに必要になりそうな法律はオルランド卿が書き出してくれている。


だが、神殿での窓口の場所や書類のもらい方などは見当もつかなかった。ロザリンドはギャニミードにたのんで、仕事を教えてもらうことにした。

幸い兄の体調はよかったため、一日程度なら、ということで外出許可をとって付き合ってくれることになった。


待ち合わせの図書館前まで、アリトン君の馬車に乗せてもらえることになった。

白い車体に金の飾りがアクセントになっている二輪型のもので、神話の世界から抜け出てきたような、素敵な馬車だ。アリトン君のダーリンはこの国の大臣をしている超お金持ちだそうだ。とっても太っ腹。


「すてきだろ。ダーリンと一緒に練習したんだよ。僕が髪をなびかせて馬車を御する様を見るのがお好きなんだよ。ヘラクレスとイオラオスみたいだろ」


相変わらずのナルシストっぷりだ。

でも好きに使わせてもらえるのはありがたい。

神殿は街に点在していて、あるくと、それぞれ小一時間かかるのだ。


とはいえ、ベンチに車が付いたようなものなので、吹き曝しで寒い。

いくらマントを掻き合わせても、髪が短いのって首すじがすうすうする。



兄、ギャニミードとはナーダの図書館前で待ち合わせをした。

通いなれた場所なのに、なんだかこわばって顔で待っていた。入院してから施薬院の外に出るのは初めてのことだから、無理もない。


「お兄様。お久しぶり」


ロザリンドは馬車から降り立つと、かけよって兄を抱きしめた。半月ほどしかたっていないのに、ずいぶん久しぶりな気がする。

薬によって目の周りにできてしまった隈のせいで、ギャニミードは憔悴しきっているように見える。一番酷い状態だった時を知っているロザリンドは、だいぶ薄くなってきたのを知っているが、こうして久しぶりに会って健康な人々と比べてみると、まだまだ隈が濃いい。何日か眠っていない人みたいだ。


「まだ、半月もたっていないよ」


答える声も弱弱しく掠れている。酷い風邪を引いているみたい。あの煙の薬のせいだ。ロザリンドはことさら朗らかに、兄の手を引いて、馬車のところに連れて行った。


「こちら。私の同僚。ラウル・アリトン君」


兄はアリトン君と引き合わされた時には、少しバツが悪そうに見えた。もしかしたらお金を借りに行ったときのことを思い出したかもしれない。

アリトン君のほうは屈託なく手を差し伸べた。


「久しぶり。タープ君。乗って乗って。仕事を教えてもらえるのは助かるよ。僕ら、素人だからね」


「私なんか、なりすましだし」


ロザリンドが言うとギャニミードはくすくす笑った。


「外出許可は日没までだ。急ごう」


二人乗りなので、着ぶくれた3人では座り切れず、アリトン君が御者席に移って、運転してくれることになった。


まず向かったのは財産の神マモンの神殿である。

祈りをささげる人たちでごったがえす本神殿で献金を行った後、3人は写字室へ向かった。


裁判では財産についての争いが多いため、神殿の写字室はずいぶん混雑していた。大きな書見台の向こう側にいるので顔は見えないが、どうやら十数人の人が仕事をしているようだ。誰もしゃべらない。カリカリ、というペンの音だけが響いている。

どうやら窓に近い席はすべて埋まっている。


ロザリンドたちは書見台を一つ確保して、説明を聞いた。


「法典はあちらの窓口で法令の番号を言って貸し出し申し込みをする。祭司が後ろの部屋から法典を持ってくる。そして僕らはここで写す。移し終えたら、あちらへ返す。そして、写した文書を隣の部屋に提出。そこでは祭司たちが写せているか確認してくれる。確かに一字一句間違いなく写せていたら、神殿の印鑑を貰える。それは裁判でつかえる。」


「わかった」


「だが、祭司も人間だ。見落とすこともあるし、ちゃんと見ていないこともある。ここで一文字でもつづりの間違いをしていたら、相手陣営に突っ込まれるからな。写すときは慎重に」


「はい」


「まずは38条。婚資についての法令だな。手分けしてかかろう」



3人でせっせとはげんだので、昼前には仕事を終えることができた。

これで、午後からは図書館へ行き、判例さがしができる。

実に順調な滑り出しだった。

アリトン君がお昼を奢ってくれることになった。


「僕のなじみの店に行こうよ。シチューと牛タンの煮込みが絶品なんだ。」


「楽しみ」


「もしかして、僕も知っているかも。チーズ入りパンもうまいところだ」


マモン神殿のすぐ裏手にある店とのことで、馬車はこのまま置かせてもらって、歩いていくことになった。

いくつもの飾り柱が並ぶ柱廊をぬけて、建物の角を曲がったとたん、何者かがアリトン君とぶつかった。


「おっとっと」


アリトン君は少しよろけた程度だったが相手の被害は甚大で、持っていた紙ばさみから書類をばらまきながら、もんどりうって倒れた。

頭がばくはつしたようなもしゃもしゃ頭のその人は、相当目が悪いらしい。


「ああ、すいませんっ小生は考え事をすると周りが見えなくなるたちでっごめんなさいっ」


素早くたちあがり、柱の一本に深々と頭を下げたあげく、「ああ、眼鏡がっめがねがっ」といいながら、その場に這いつくばって廊下を撫でまわし始めた。


ギャニミードが近くに転がっていた分厚いグラスの眼鏡を拾いあげると、手渡した。そして、どうやらその顔に見覚えがあったらしく、その名を呼びかけた。


「もしかして、ティティヴィラス先輩?」


ずいぶんと長い名前のその人は、いそいそと眼鏡をかけ、突然ギャニミードにキスでもするんじゃなかろうか、と思うほどぐっと顔を寄せた。


「まさか。タープ君か」


確認するや否や、その人はギャニミードにむしゃぶりついてきた。


「よかったなあ。心配していたんだよ。薬のせいで屋敷も売られて、家族ごと行方知れずになったって。タープ家は無理心中したって噂もあってな。モレク先生もな、心配なさってたんだよ」


「ご心配おかけしました」


「今、どうしてるんだ??」


「今は施薬院に入院中で・・・・・」


ギャニミードは助けを求めるように、ロザリンドとアリトンのほうを見た。

ロザリンドも声を出していいものか迷った。

アリトン君が咳払いをして、話し始めた。


「タープ君は今は一緒に弁護士の助手をしています。実は今、大きい裁判に備えているんですよ。ご存知ですかね。ビレト公がテレサ・パシトーエ嬢を訴えた裁判です」


「知ってるさ。バルカ提督をとらえしは魅力か海図かってね。しかもヴァレフォール対ヴァレフォールの好カードってことで、業界注目の裁判じゃないか。タープ君。君すごい山あてたな、おい」


ギャニミードはゆすぶられて、照れくさそうに笑った。


「よかったら、先輩にも加勢していただけると助かります」


そういって、アリトン君とロザリンドに紹介してくれた。


「バシリオ・ティティヴィラス。講座の先輩だ。婚姻関係の権威だよ」


「なんと」


アリトン君がティティヴィラス先輩の手を取った。


「一緒に働こうじゃありませんか。上司もあと何人か雇いたいと申しておりまして。ぜひ」


そのとおり。声の出せないロザリンドも隣で力強くうなづいた。

目の悪いティティヴィラス先輩にも、アリトン君の美しさは通じたらしい。しばらく見入った後、どぎまぎしたように顔を赤くしてうなづいた。


「それは後学の為にもぜひ参加したいね。今取り組んでいる案件はあとひと月ほどかかるんだよ。それが終わったら馳せ参じるよ。何処へ行けばいいかな」


ロザリンドは急いで事務所のある所を書いて、手渡した。

せかせかと廊下を速足で行く後姿を見送って、ロザリンドは言った。


「いい人ね」


「そうだな。真摯に仕事に向き合う真面目な人だ。僕も今まで気が付かなかった」


「そうなの?」


「目が悪いせいで、それにしょっちゅう何かにぶつかっていた。それに書類の写し間違いが多くてね。講座の中でも影じゃあ「ティティ」と呼び捨てにしていた。つづりを間違うと「ティティの仕業」とかね」


あら、ひどい。とロザリンドは思ったが、アリトン君が感心したように言った。


「ああ。語源はあのひとなのか。伝説の人に逢っちゃった」


「奥さんに子供が3人いるから、いつも小遣い稼ぎに追われてた。どんくさいし貧乏くさい、パッとしない男だと小ばかにしていた。つくづく申し訳ないことをした」


いろいろ自分の言動を思い出したのか、ギャニミードはうつむいて溜息をついた。


「大丈夫。あの人なら、ちゃんと説明すればお前の立場も分かってくれるだろう。それに彼の奥さんもときどき書類つくりを手伝ってくれるそうだから、働く女に理解がある」


「なら良かった」


「ただ書類の写し間違いが多くてね」


「それは気を付けないと。それに、名前が長いわね。間違わないようにしないと」



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