表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/100

ロザリンド 採用決定!

マルバス伯が雇用のための書類を取りに行ったので、ロザリンドはアリトン君と二人きりになった。


「ありがとうっ」


ロザリンドはアリトン君に、礼を言った。


「採用してもらえたのは貴方の口添えのおかげだわ」


「助かったのはこっちだよ。僕一人がこき使われるところだった」


アリトン君は茶目っ気たっぷりに微笑んだ。


「では、あらためて。僕はラウル・アリトン。出身はエギュン公領。今はアスターテ法学院で研修中」


「私、ロザリンド・タープ。ナーダ出身。施薬院で事務の仕事をしていたの。ギャニミードは兄よ。これから施薬院で働いて医師になりたいんですって。もう法曹界にはいたくないって。メダルを貸してもらったの」


「前の裁判の手伝いをした奴らによれば、仕事においまくられて地獄のような毎日だったらしい。

特に、オルランド・ヴァレフォールは仕事の鬼だって」


「素敵」


ああ、本当にお会いできるのね。お仕事姿も見れるのね。

ロザリンドは思わずうっとりした。


「この話を聞いて、うっとりできるなんて、珍しいね。すごいね。もしかして、髪もそのために切ったの」


ロザリンドは短い髪に手をやった。


「ああ、これ?これはまあ、いろいろあって」


ロザリンドは頭をかいた。

たしかに、髪を切って、それを兄の入院費のためにつかったが、それは結果がそうなっただけである。話すと兄の悪口になってしまう。それは本意ではない。


「仕事のために切ったと言えると、かっこいいんだけど、違うの。お金がなかったから。

でも。おかげで図書館にも入れたし、こうして働けるし。結果オーライってところかしら」


アリトン君は感心したように言った。


「強いんだね。僕は身近に女の子はいないけれど、髪を切るって相当に勇気がいることだってわかるよ」


「あら、そうなの?だって左手につけているのは結婚指輪じゃないの?」


アリトン君はものすごい凝った細工が施された金の指輪を左手の薬指にはめていたのだ。

ロザリンドの視線に気が付き、アリトンは左手をかざして見せた。


「うん。結婚相手も男なんだ」


「そうだったの?」


「びっくりした?だから僕に惚れちゃだめだよ」


「それなら大丈夫。私にはもう憧れの人がいるの。オルランド様」


「まさか。オルランド・ヴァレフォール?」


「そうよ。憧れの人。一番つらいときに、オルランド様の演説を聞いて、私は救われたの。命の恩人。だから、本人に会えるなんて、夢みたい。ずっと会いたいと思っていたの。あの悪魔の薬裁判は弁士が来るのをかかさず聞きに行ったし、図書館に行って裁判の文書も見ちゃったくらい」


じつは、図書館で裁判記録をなんども読み直したり、直筆のサインを撫でたりしていたが、それは内緒である。


「どこがいいのかわからないね」


「あら。ダブルオーの人気を知らないのね。オスカー様とオルランド様。施薬院ではオスカー様が人気だったけど、でも、私はオルランド様一筋なの」


「ではいいニュースがあるよ。君は憧れの人と、同じ屋敷に住める」


「そうなの?」


「ああ。今オルランド卿はセーレ公爵様の居城であるアラストル館にご滞在中で、もう少ししたら引っ越してこられるのだそうだ」


「一緒に住むの?うわあ」


うわあ。どうしよう。毎日顔を合わせることになる?なんだかドキドキしてきた。

まずい。

鼻の奥に嫌な気配を感じ、ロザリンドはあわてて鼻を押さえた。


「どうしたの」


「ちょっと、鼻血がでそう。昔から、興奮すると鼻血が出てしまって」


幸い気配だけで終わったので、ロザリンドは安堵した。

アリトン君はけらけら笑った。


「すごいね。鼻血が出るほど好きなんだ」


「からかうのはよして。それに、出そうだったけど出てない」


「ごめんごめん。突然に鼻血ときたものだから、つい」


ひとしきり笑った後、アリトン君はなんだかつまらなそうに言い添えた。


「僕の美貌が負けるなんて。複雑」


「え?惚れるなと言っているそばから、何?」


「そこはそれ。この距離で僕のいい笑顔を見続けていたら、男も女もたいてい僕の美しさにクラッとくるもんさ。君の場合それがないのはすっごく気楽だけど、なんか物足りない」


「なによそれ」


ロザリンドは思わずくすくす笑いながら言った。


「どっちが美形?、とか、妖精に扮して似合うのは?ってきかれたら、間違いなくあなただから、安心して」


「ま、それでいいか。それに僕のダーリンも安心する。他の男と一つ屋根の下で一緒に暮らして仕事するなんてって、ずいぶんジェラシーでご機嫌斜めだったんだ。女なら問題なし」


「普通は逆よね」


マルバス伯が部屋に戻ってきた。

ロザリンドは雇用契約書にサインをした。兄の名前の書くときには、自分が嘘をついていることが意識され胸が痛んだが、ロザリンドは何とか押し殺した。

これで私は働ける。しかも三食賄い付きで住み込み!


マルバス伯にお借りできる部屋を見せてもらった。

たぶん客用寝室として使っていたのだろう。ベッドに寝転んで、ロザリンドは部屋を見回した。家具はベッドと小さな書き物机だけ。でも、久しぶりの自分だけの空間だ。

私はここに住めるんだわ。

自分だけの部屋!住み込み最高!ひゃっほう!

ごろごろしながら、ロザリンドは幸せをかみしめた。


帰ったら報告しないといけないわ。ストロス師とお兄様にお礼を言わなくちゃ。

そうだ。支度金もいただいたことだし、男物の服を買ってこよう。


お母様は怒るだろうことだけは気がかりだった。

「タープ家の女が、男のなりで働くなんて」

「そんな暇があったら、早く夫を見つけて頂戴」、てなことを、ひとしきりお説教されるはずだ。

でも、お金を稼ぐという大義名分がある。止めることはしないはず。


ロザリンドは意気揚々と家路についた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ