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マルバス伯 待ち人来たれり

アラストル館に、いるエルンスト・マルバスあてに届いた手紙には、アスターテ神殿の印章が押されていた。

来た。とうとう来た。

弁護士は来ないのに、裁判所からの手紙が来た。


マルバス伯は追い詰められた気分になった。。


主、セーレ公爵殿下は自信満々だった。


「本当に裁判を仕掛けてくるんなら、こっちだって最強の助っ人を頼む予定だ。コカトリス卿にご紹介いただけるはずだ。ヴァレフォール一族のホープをね」

「この間、悪魔の薬裁判で勝った二人組。ダブルオーだ」


期待していたのに。本当に期待していたのに。

手紙を開ける気にもなれず、マルバス伯は、茫然と、分厚い封書を見た。


宛名も、もちろん古語である。ぱっと見では全然何が書いてあるのか判断できない。

だが、出した人間の名前は読み取れた。おそらく、弁護士の筆になるものだろう。

その中に、マルバス伯は二つの名を見つけた。


オットー・ヴァレフォール。

オスカー・ヴァレフォール。


Oで始まる名前の、二人組が、向こうについた。

終わった。

まずいぞ、実にまずい。

息が苦しくなってきた。心臓も嫌な感じでどくどく打ち始めている。


執事がしらせたのだろうか。セーレ公が部屋に入ってきた。


「手紙が来たんだって?内容は」


「まだ、あけていません」


マルバス伯は震える手で手紙を持ち上げた。


「殿下。Oがつくヴァレフォールが二人も向こうにつきましたよ。オットーとオスカーと。もしかして、ダブルオーってこの人たちですか」


「どうだったかな」


「ヴァレフォールは向こうについてますよ。こちらはどうすればいいんですか。弁護士もいないのに、裁判だなんて、これからいったいどうすれば・・・・・・」


セーレ公は手紙を受け取ると、渋い顔で、その名前を眺めた。


「どうするも何も。来なかったものは仕方ないだろう。・・・・・・とりあえず、訳せ」


「お手伝いいただきますよ。ええ、こんなの読めませんからね」


「わかってるって」


二人して辞書と首っ引きで、読んでみた。

古語は一つの名詞に10個の変形があるうえに、形容詞変化のために男性、女性、中性が存在する。

そのうえ、こねくり回した法律用語の言い回しや、専門用語の羅列で、目が滑る。

解読はなかなか進まなかった。

それでも、法律書類に触れる機会があるエルンストはまだしもで、古語など、学生時代以来であるセーレ公は、お手上げ状態だった。


単語を拾い上げた結果、文章の内容を大まかに把握した。


『私、テレサパシトーエ・・・・・・・・ジポング海図・・・・・・・所有権・・・・・・謝罪・・・持参金・・・国庫・・・・・・・バルカ提督・・・・・・・婚約破棄・・・・・・』


「ようするに、テレサ嬢にジポング海図を盗んだという文章を書け、ということのようですな」


二人は黙り込んだ。

そんな事実と違うことを書くわけにはいかない。

しかし、おそらく、これを拒否したら裁判が始まる。


裁判では、フェニキア古語かラテン語のみで話すことになっている。

こんな読めないような凝った文章を送り付けてくるやつらと、怒鳴り合わなくちゃいけない。


こちら側に弁護士すら来てもらえなかった。

コカトリス卿は、快く「最強の弁護士を推薦する」と、約束してくださったのだそうだが、いまだに来ない。

っていうか、すでに向こうについている感じ?

あのバルカ提督の夫人の裁判だし、有名人がらみともなれば、こちらにも希望者殺到ではないかと思っていたのだが、甘かった。


そのとき執事のゼフォンが客の来訪を告げた。


「ヴァレフォールと名乗る方で、応接間にお通ししておりますが」


「よし。採用だあっ」


マルバス伯は迎えに駆けだそうとしたが、セーレ公に阻まれた。


「落ち着け、エルンスト。示談書の返事を取りに来ただけかもしれない」


「そうか、名前は?」


「名刺はこちらに」


執事ゼフォンが銀盆の上にのせて、セーレ公に差し出したカードを、マルバス伯は奪い取った。


オルランド・ヴァレフォール。


マルバス伯はあわてて、手紙の宛名と照合し、オルランドがあちらのメンバーに入ってはいないことを確認した。


「良し、採用だあっ採用、採用、採用っ」


叫びながら応接間に駆けだそうとすると、またしてもセーレ公に留められた。


「落ち着け。スパイかもしれないぞ。」


「採用です。止めないでください。せっかくの弁護士を逃がすわけには」


「親戚を向こうに回して、こちらの味方になってくれるとは考えにくいだろう」


「弁護士はそんなことしません。正義の味方にきまっていますっ採用っ採用っ」


マルバス伯はそのまま振り切ろうとしたが、セーレ公に加えて執事まで羽交い絞めにして止めに来た。


「落ち着けって。名前を上げたいだけのバカかもしれないぞ。あるいは味方にすると足を引っ張る疫病神タイプかもしれない。なあ、落ち着け」


弁護士採用、弁護士採用、弁護士採用。

頭の中にはその言葉だけがリフレインしていたが、「まずは会って、話をしてから」というセーレ公の言葉にうなづける物があったので、マルバス伯は足を止めた。

荒い息のまま、服の乱れを直すと、セーレ公はマルバス伯にくぎを刺した。


「足元見られたら大変だからな。『採用』の一言は僕が合図をするまで言うなよ」


エルンストはしぶしぶうなづいた。


「よし、会うぞ。ゼフォン。上着と仮面を出してくれ」



ベリアル宮廷の物語、待ち人来たれり あたりを再利用です。

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