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オルランド くすぶり男 2

弁士は、聴衆に向かって大仰に一礼すると、テーブルを回ってチップを集め始めた。弁士はやがてオルランドの元にもやってきた。


「兄さん。熱心に聞いてくれてたよね。銅貨一枚」


オルランドはごそごそと財布を出し、男の帽子に銅貨一枚を投げ入れた。


「質問に答えてくれるんなら、酒を奢るよ」


「そりゃどうも。なんなりと聞いてくださいよ」


男はオルランドの向かいの席に座り、勝手にデカンタを自分の前に引き寄せた。オルランドは男のためにカップと追加の酒を注文し、質問した。


「ジポング海図が盗まれていたって本当か?」


「そうらしいですよ」


「いつ、どうやって?海図は厳重に保管されていたはずだ」


「さあ。詳しくは知りませんね」


「宮廷の侍女が火薬なんかどうやって手に入れたんだ?」


「さあね。どうにかしたんでしょう」


「どうにか?鼻が曲がるくらいの悪臭がする新型の火薬だぞ。宮廷の奥深くで暮らしていた貴婦人が、そんなもの何処から手に入れるんだ?そして、どうやって仕掛けた?」


「さあね。でも、宮廷ですよ。何だって出来ちまいますよ」


「ジポング海図って本当にその場にあったのか?燃えた証拠は?」


「さあね。跡形もなく燃えたって聞きましたよ」


何を聞いても男は聞いた話だからと、内容に責任を持たない。

肩をすくめるばかりで、一向に要領を得ない。


いつのまにかワインひと瓶飲み干されてしまって、オルランドは苦笑した。


「答えになってないよ。それで殺人犯呼ばわりするなんて、濡れ衣じゃないか」


「何だよ、人聞きわるいな。正義の味方と悪女って方が話が盛り上がるでしょ」


「しかし、証拠もなしに」


「いいんだよ。硬いこというのはやめましょうや。そんな話は裁判所ですりゃあいい」


一気に酒をあおった弁士は、オルランドの顔をまじまじと見ながら言った。


「ところで兄さん、さっきから気になっていたんだけど、もしかしてヴァレフォール一族のひとじゃない?法学士だったりして?」


「まあね」


「酒の礼に、いいこと教えてやる。これは注目の裁判になるぜ。ナーダに行って参加させてもらえ」


「いや、結構だ」


どっちかというと、逃げてきたとは言い出しにくかった。

男は気のいい人間らしく、オルランドに説教を始めた。


「こんなところで、ブスブスくすぶっているなんて、だめだよ兄さん。若いんだから、闘志を燃やすんだよ。炎のように燃える自分を売り込むんだ。タダでもいいから手伝わせてくださいってって行ってきな。顔を売るんだよ。そうすりゃあ次につながるんだ。悪魔の薬裁判のダブルオーみたいにさ。注目裁判を任されるようになる」


「どうも」


「じんせい、あわてちゃなんねえ。しかーしチャンスは逃さない。これ大事。わかった」


立ち上がりかけた男に、オルランドは最後の質問をした。


「パシトーエ嬢はどうしているんだろう」


「さあねえ。宮廷からとんずらこいたっきりらしい。ついでに、教えといてやる。つくならビレト公の方だ。勝ちは確定。間違ってもラグネルについたらだめだぜ。じゃあ、ごちそうさん」


デカンタ3本のワインを飲み切った男は上機嫌で去っていった。

オルランドにわかったことは二つ。

1新しい情報は何もない。

2噂に尾ひれがついてますますパシトーエ嬢に不利になってきた。


この事実は、ますますオルランドの心を重くさせた。聞くんじゃなかった。

もう、何の情報も入らないところへ行きたい。


明日晴れていたら、宿屋を出て、ヴァレフォール荘園へ行こう。

冬中こもっていれば、何もかも終わっているだろう。

オルランドはそう決意したが、まるで足止めをするかのように、翌朝は粉雪がちらついた。


出鼻をくじかれて、部屋の中で悶々としていたところに、宿屋の親父が客の来訪を告げた。


「お客さん。弟さんが見えましたよ。食堂で待ってますよ」


弟?人違いじゃないか?

オルランドがのろのろと食堂に向かうと、元義弟コカトリス卿がマントも脱がずに待っていた。五人ほどの従者を従えている。


「やあ、ペレール。君だったのか」


オルランドを認めると、コカトリス卿は小走りで走り寄ってきた。


「兄上。お久しぶりです。お会いできてよかった。ヴァレフォール荘園に向かわれたと聞いて、行ってみたのですが、どうも御留守のようで、。これは戻りながらしらみつぶしに探すしかないと覚悟したところでした。ああ、運がよかった」


コカトリス卿は、ほほえみながら「よかった」とくりかえしたが、すぐに表情を改めた。


「実は仕事の依頼に参りました。友人の一人が裁判沙汰に巻き込まれてしまったので、助けていただきたいのです。兄上は僕の知る限り最高の弁護士ですから」


「買い被りだよ」


オルランドは言いつつも悪い気はしなかった。


「その友人の名前は」


「テレサ・パシトーエ嬢です。ご存知ですか?高名なバルカ提督の婚約者です。」


オルランドは低く呻きながら瞑目した。

こんなときに、ぴったりなことわざがあったな。


Fumum fugiens in ignem incidit.

煙を避けて火中に落ちる。


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