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手紙1

ロザリンドがテレサさんから預かった葉っぱ・・・・というか手紙は2枚あった。

一枚はストロス師あてにお礼の手紙。

だが、もう一枚には宛名がなかった。


『お別れのご挨拶も申し上げぬまま退出に至りましたこと、御心を悩ませるにいたりましたこと、まことに申し訳なく、お許しを願うばかりでございます。懐かしい皆様のご健康をお祈りいたします』


宛名もないけれども、王妃様宛だということはわかった。

ストロス師にもすぐわかったらしい。ひと目見るなり、目を潤ませた。


「自分も大変でそれどころでは無かろうにのう。健気じゃのう。こういう子じゃからこそ、筆頭女官に選ばれたんじゃのう」


ロザリンドもうなづいて言った。


「なんとかして王妃様に届けてさしあげたいですけれども、どうすればいいでしょう」


「そうじゃの。如何したものかのう。わしは、ご典医をしていたころなら、自分で行けたが、引退しているからのう。お願いをしても10日やそこいら待たされるじゃろう」


「そんな」


葉っぱの手紙は、十日たつと枯れて、文字が読めなくなってしまう。

紙にペンで書き写してもいいが、ぜひとも、このままテレサさんの直筆をお届けしたい。


「だれかに託して持っていってもらえば」


「それもなあ。なにしろテレサ嬢は爆弾犯人の疑いがかけられておるからな。誰かに託けてもいいが、握りつぶされたら終わりじゃしな。それに、何か暗号の手紙だと疑われでもして、陛下や王大后様のところに持っていかれてしまうと、いらぬ騒ぎになるかもしれん。

エイラ宮はとくに警備が厳しいからのう」


そうか。だからテレサ嬢は自分の名前も宛名も書かなかったんだ。

ロザリンドは胸がふさがれる思いだった。

あごひげをひねりつつ、ストロス師。


「セーレ公のところへお送りして、そこからお渡しいただくのが確実・・・・・・じゃが

セーレ公は、宮廷におられたり郊外の館に滞在されていたりでのう。そうなると、何時になることやら」


だめだ。それじゃあ、間に合わない。

ロザリンドは決意した。


「届けていただけるお方に、心当たりがあります。これ、お預かりしてもいいですか」


ニムエ・フルーレティ女伯爵なら、もしかしたら。


次の日、特別に休みを頂くと、ロザリンドはニムエさんに会いに行くことにした。

フルーレティ女伯爵家には、昔、何度かお招きいただいたことがある。

母やメイド達の手を借りて、精いっぱいおめかしして行ったっけ。髪を奇麗に編み込んで結い上げて。今は・・・・・・だめ。考えちゃダメ。


とはいえ、男装の時には気にならなかった短い髪が、ドレスを着るとものすごく気になる。

しかも着古してへたったつんつるてんのマントだ。

自分の髪や服なんてどうでもいいの。テレサさんのために頑張るの。

ロザリンドは自分に言い聞かせたが、スカーフを被るような寒い日でよかったとも思った。


あのときは、図書館から馬車で送り迎えしてもらったので、道はよくわからない。

記憶を頼りに、図書館の近くの大通りからを曲がってみると、森の中へ一本道が続いていた。

ひたすら歩いていると、うしろから荷馬車がやってきて、御者のおじいさんが話しかけてきた。


「そこのお嬢さん。この道の先にはフルーレティ荘園があるばかりだよ」


「はい、そこに行きたいんです。


おじいさんは、目をしょぼしょぼさせながらロザリンドを見て言った。


「あれ、あんたうちの姫さまの友達じゃないか?」


「はい。図書館友達でロザリンド・タープと申します」


「ああ。そういえば見覚えがある。せっかくだから、乗っていきんさい」


「ありがとうございます」


御者のおじいさんは、市場で買い物をしてきたらしい。横たわった羊と麻の袋に入った野菜をずらして場所を作ってくれたので、ロザリンドはありがたく乗り込んだ。


「あんたも侍女奉公の面接かね」


「いいえ。ニムエさんにお会いしたいだけなのですが」


「そうかい。本を読むんならうってつけなんだけれどもねえ。ニムエお嬢様は、本を読まない子は嫌いってことで、侍女が居つかないんだよ。今も一人だけだ。」


「もしかしてお名前はシーリアさん?」


「そうだ。お友達かね。いいじゃないか。屋敷の中に、もう2.3人年頃のお嬢さんがいてくれると、華やぐんだがね」


ロザリンドはあいまいに微笑んだ。

じつは、その話が出たことがある。

侍女といっても行儀見習いだから、3人で一緒に住んで、本を読んで感想を言い合ったりするのは楽しそうだし、たまに宮廷に伺候したりできるし、王族のお屋敷でお仕えしたという箔をつけることができる。

ただし、お給料は出るけど。お小遣い程度だし、宮中に参内するため、とか舞踏会のためのその度にドレスを自費で新調しなくてはならないし、装飾品なども自分で誂えないといけない。

うちみたいな名ばかりの貴族には払いきれないくらいお金がかかりすぎることと、当時はすでにロザリンドの婚約が調っていたこともあって、実現はならなかった。そのあと父の死、突然の婚約破棄、兄が悪魔の薬に溺れ、家は破産し、と、ロザリンドの運命は転落の一途をたどっていったため、見果てぬ夢となってしまった。


おじいさんの話は続いていた。


「姫さまはね、ここのところ、元気がないんだよ」


「そうなんですか」


「この間まで宮廷に滞在されていたんだよ。詩を読む会とか物語の会とかで、大活躍なさっていたらしい。そんで王弟殿下セーレ公爵様と仲良しだったんだそうだ。もう二言目にはセーレ公セーレ公って、もう夢中でね。ありゃあ惚れてたねえ。それが帰ってからはぱったりだ。ありゃあ失恋でもしたんじゃないかな。」


「あら」


「昔っから、本さえあれば何もいらないっているお姫様が、何日も本も読まない図書館にもいかないで、閉じこもっているくらい落ち込んでるんだよ」


「それは大変ですね」


ごとごとと荷馬車は森の中を進んでいき、やがて大きな石作りのもんを抜けて、広壮な館についた。


玄関前に降ろしてもらい、ロザリンドは勇気を振り絞って扉をたたいた。

ニムエさんへの取次を頼むと、メイドさんは丁寧な物腰でマントを預かってくれようとしたのだが、ロザリンドは慌てて頭を押さえて断った。


「こっこっここのままでいいんです。すっすっすぐおいとまいたしますので」


天井の高い玄関ホールに、ロザリンドの間抜けな声が響く。

ああ、変な人と思われているのはわかる。でもこの短い髪を見られたくない気持ちが先に立つ。


あきらめたメイドさんは困ったような顔で館の奥に引き返していった。


そういえば、最後にニムエさんとシーリアさんにあったのは図書館の裏庭で、逃げるように去ったのだった。あんな失礼なことしておいて、いまさら「何しに来たの?」というけんもほろろな対応されるかも。私の頼みなんて、鼻で笑われてしまうかも、それ以前に会ってもらえないかも、と思うと、今すぐここを出て、来た道を引き返したくなった。



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