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幕間-勇者の独白

勇者視点のお話になります。

 懸念していた雨が降り出し、私は舌打ちしながら宿へと急いだ。


 小走りで駆けながら、先程の光景を思い浮かべる。我ながら十代前半にしか見えない少女に対して、酷いことを言ったものだ。

 事情を知らない人に見られていたら、間違いなく私は悪者にされていただろう。


 だが、真実は違う。あいつ、エルヴェは元男で、私達のパーティの一員――いや、厄介者であった。


 あいつとの出会いは私がCランクの冒険者になったばかりの頃に遡る。その時、あいつはAランク冒険者であり、それなりに有名であった。

 下らない。ソロで活動する者の中では、最年少でAランクになったとか言う触れ込みだったが、どうせコネと賄賂でランクを上げていただけだろう。


 何せ、パーティの中であいつが果たしていた役割は全くもって酷いものだったのだから。自分が上級魔術を使えないからと、もう一人のミレーユに(とど)め役をいつも押し付け。

 私とライデンが戦っている横であぶれた魔物を一、二体殴って満足していた。

 前衛は二人もいるのだからそれ以上必要無いのに、である。


 極めつけは先般の魔族退治である。ミレーユの魔術で手負いとなった魔族に、私が(とど)めを刺すはずだった。しかし私が斬り掛かる直前で、あいつがしゃしゃり出て、手柄を横取りしようとしてきたのだ。今思い出すだけでも腹が立つ。


 そんな厄介者を何故パーティに入れていたのかというと、ひとえにお金のためだ。実力は無いが名前だけは知れ渡っている、あいつがパーティにいるだけで、貴族から支援金をせしめることができたのだ。


 世の中は金だ。道具を買うのにも、装備を揃えるのにも金がいる。

 だから、金を集めるためにあいつは必要だった。


 しかし、それももう必要無い。私達は皆Aランクになり、有名になった。あいつがいなくても支援は受けられる。


 魔族との戦いであいつの姿が変わった所を見たとき、私に天啓が下った。上手くやればあいつをパーティから追放できる。そう思って行動した結果、それは上手くいった。やはり神はいつも、正しいものの味方なのだ。


 呆然としていたあいつの顔を思い出し、溜飲が下がる。落ち着いた気持ちで宿屋へと入った。

 肩についた水滴を手で振り払う。


 一階の酒場を兼ねた食堂を見渡し、そこに二人の仲間を見つけ、近寄る。

 金髪を刈り上げ、逞しい肉体を持った男、ライデン。

 テーブルを挟んで反対側には修道服に身を包んだ女性、ナターシャ。ライデンと同じく金髪だが、こちらは長髪で、今は下ろしている。

 エルヴェなんかと違い、どちらも頼れる仲間だ。その元気そうな姿に頬がゆるむ。


「おぉ、ルノアール。どうだった?」

「あぁ、全く問題無かったさ。無事、魔族の討伐報酬は貰えたよ」

「それは良かったです」

「ナターシャも怪我はもう平気かい?」

「えぇ、もう大丈夫ですよ。ありがとうございます」


 私は席に座ると、酒を注文した。昼間だが、依頼をこなした後だ。ライデンも飲んでいるし、問題無い。

 酒を待つ間に、ここには居ないもう一人の仲間のことを尋ねた。


「ミレーユはどうしたんだ? まさか、まだ体調が悪いなんてことは無いよな?」

「いえ、怪我は完全に癒えてます。でも、それ以上に気持ちが落ち込んでいまして……」


 ナターシャの言葉から察する。ミレーユはおそらくエルヴェのことを気にしているのだろう。同じ魔術師ということでミレーユとエルヴェは比較的仲が良かったからな。

 だが、あんなやつ居なくてもパーティとしては全く問題無いのだ。

 ミレーユがとても心優しいことは知っているが、そろそろ立ち直って貰わなくては困る。


「……そうか。でもいつまでも閉じこもっても仕方ないし、少しは気分転換をした方が良いだろう。これからの話もしたいし、彼女を呼んできてくれないか?」

「それは……いえ、分かりました」


 ナターシャにミレーユを呼んできてもらい、やってきた酒を飲みながら待つ。

 ライデンとたわいもない話をしていると、ナターシャがミレーユを連れてきた。赤毛の髪を後ろで結い、いつも通りの鍔の広い三角帽子を被っている。

 ただ、表情だけはいつもと違い沈んだ顔をしていた。


「やぁ、ミレーユ。体の方は大丈夫そうで良かったよ」

「用事は何?」


 ぶっきらぼうな返事。せっかく気遣ってかけた言葉を無視され、少しイラッとする。

 だが、彼女も今は周りを気にする余裕がないのだ。ここは私が大人にならなければ。


「いや、何。これからのことについて皆で話したくてね」

「そんなの決まってる。このパーティではこれ以上戦うのは無理」


 ミレーユの断言に首を傾げる。


「無理ってのはどういう意味だい?」

「エルヴェが居ない。だから無理。皆もそう思ってるでしょ?」

「それは、まあ……」

「あぁ、まあキツイのはキツイだろうな」


 何故ここで役立たずの名前が出てくる。ライデンやナターシャも同意するなんて、意味が分からない。

 ムッとするが、私は言い争いがしたい訳では無い。


「エルヴェが居なくても大丈夫だよ。いや、むしろエルヴェの想いを受け継ぎ、彼の分まで私達は戦わなくてはいけない。違うかい?」


 我ながら上手くフォローできたと思う。私は天才か?


「……だとしてもエルヴェが居ない今。戦力は落ちてる。同じランク帯の依頼は受けられない」

「なら、パーティの人員を補充しよう。アーカル伯爵に相談すれば、きっと良い人材を紹介してくれるさ」


 私達を支援してくれている伯爵の名前を出し、安心させるように話す。

 それを聞いて、ミレーユも迷っているようだ。


「よし、じゃあ新しく仲間が入ったら、最初は簡単な依頼を受けよう。それで連携を整えてから、いつものランクの依頼を受けようじゃないか」


 ダメ押しとばかりに畳み掛けたことでミレーユがついに折れた。ライデンとナターシャも私の案に納得していた。


 戦うだけでなく部下の気持ちをケアできる、リーダーとしての素質も持ち合わせるなんて、自分の才能が怖いな。


 私は内心ほくそ笑みながら、これから訪れるだろう輝かしい未来に想いを馳せた。


 さて、まずはアーカル伯爵に報告と相談だな。これから忙しくなりそうだ。

本日、複数話更新予定です。


沢山のブクマ、評価ありがとうございます<(_ _)>

読んで下さっている皆様に楽しんで頂けるよう、頑張って更新していきます。

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[一言] 勇者が前衛にいるのに、後衛に魔物が行くことを恥だと思わないんだな……
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