33 告白
「嘘……でしょ……」
俺の前で、ミレーユが驚愕の表情を浮かべている。ベッドに並んで座っているので、その表情はよく見えた。ここまで動揺している彼女を見るのは、初めてかもしれない。
「本当なんだ。私が……俺がエルヴェなんだ」
ミレーユには全て話した。反転の魔術を受けたこと。その後、気づいたらベッドの上に居たこと。皆の元に帰ろうとしたらルノアールに出会ったこと。ルノアールが、俺を追放したこと。
反転の魔術なんて、簡単には信じて貰えないことは分かっているので、俺達しか知らないことも合わせて話す。パーティで挑んだ依頼。共に過ごした中で起こった、笑い話。そして、ミレーユと話した様々なこと。
それら全てを話し終え、ミレーユの反応を待つ。
彼女は、今聞いた事実を飲み込むことで必死な様子だった。無理も無い。死んだと思っていたら、実は生きてました。なんて衝撃が強すぎる。しかも、見た目が全然変わっているのだ。
顔を俯かせて、考え込んでいる彼女を黙って待っていると。
ミレーユが、手を握りしめた状態で俺を叩いてきた。
痛くは、無かった。
「何で……会いに……来なかった」
「……ごめん」
「あんたがいなくて……どれだけ……大変……」
「……ごめん」
ミレーユの声は震えていた。俺を責めながら、何度も叩いてくる。
やがて、ミレーユが叩くのやめた。俺の肩に顔をうずめ、俺の服をきつく握る。
「……生きてて……良かった」
「……ありがとう」
すすり泣く声。俺はその場で、ミレーユが落ち着くまで、ただじっと彼女を受け入れていた。
☆
ミレーユが泣き止んだ後、俺たちはルクソードさんの部屋へ向かった。泣いたことが、恥ずかしかったのか。あるいは目が赤くなっているのが恥ずかしいのか。帽子を深く被り、顔を見せないようにしているミレーユの手を引っ張り、連れて行く。
帽子を深く被っても、今は俺の方が身長が低いので、覗きこめてしまうのだが。そこは自重して見ないようにした。
ルクソードさんの部屋に着き、扉をノックする。中からの返事を待って入ると。師匠とイグルスさん、ルクソードさんに加え、もう一人知らない女性がいた。
「あぁ、カノン君。よく来てくれた。歓迎するよ」
ルクソードさんに促され、奥まで進む。現在、ここで近衛師団の作戦会議が行われているとの説明を受けた。
「私達、ここに居て良いんですか?」
「構わない。むしろ、手を貸して欲しいと思っている。我々は人手が足りないからね」
「私も、いいの?」
「ミリアムから聞いている。ミレーユといえば、勇者パーティに所属している魔術師だろう? 何故ここにいるかは知らんが、同じく手を貸して欲しい」
そんな大事な場に居ても良いのか尋ねると、居てほしいと言われた。よっぽど人手が足りないのだろうか。手伝うこと自体は構わなかったので、そのまま話を聞くことにする。
ミレーユのことも既に知られていた。ただ、勇者パーティを抜けたことまでは、流石に知らないようだ。ミレーユも言う気は無いようなので、俺も黙っておく。
ルクソードさんはミレーユと初対面なので、彼女へと名乗り。その後、この中で俺が唯一知らない女性も続けて名乗った。女性の名前はソフィアというらしい。
「話は聞いてましたが……随分と幼いのですね」
俺たちも挨拶をした後、ソフィアさんが口を開いた。長い茶髪を頭の後ろで結い上げている。師匠と同じくローブ姿なので、魔術師なのだろう。
この女性が話題にしたのは、間違いなく俺のことだろう。視線を俺に向けて、驚いた表情をしている。
「幼いが、ミリアムが認める実力者だ。問題ないさ」
「は、いえ。別にミリィのことを疑っているわけではありません」
ただ、純粋に驚いただけだとソフィアさんは言った。
この部屋に居たのは四人だけだ。作戦会議が行われているにしては、随分人数が少ないので、尋ねると。今、王都にいる近衛師団の人はこの場の四人だけだと言われた。
王都に居るのが四人――。王都以外の場所にもいるのだろうが、それでも。師団、と呼べる程の人数では決して無い。少数精鋭だとしても少なすぎる。近衛師団は、相当な人手不足のようだ。
あまりの人数の少なさに驚きはしたが。ひとまず、話は落ち着いたので、ここから本題に入ることになった。
「さて。王都の中に、魔物が現れるという謎の現象だが――」
作戦会議はルクソードさんが話の流れを作り、そこに皆が意見を述べる形で進んでいった。
俺とミレーユも街中で見た、黒い靄の話をする。皆、それを興味深そうに聞いていた。
「――となると。これは、魔族によるものと考えるのが妥当ですか」
「そうなるな。魔物を召喚しているのか、あるいは別な場所との空間を繋いでいるのか。どんな魔術かは分からんが、魔族の仕業だろう。
騎士団、魔術師団の一部が調査隊として派遣されて、王都が手薄になった所を狙われたわけだ」
ソフィアさんの言葉の後に、ルクソードさんが続ける。
原因については魔族によるものという意見で一致した。
そして、肝心の目的だが。こちらについては、情報が無さ過ぎるとのことで、結論には至らなかった。
「ふむ。現時点では魔物による陽動の可能性が捨てきれんな。やはり、我々は王城から動くべきではないだろう」
結果、近衛師団の面々は王城に待機という形になった。
街中に現れた魔物が、王城の守りを引き離す、陽動である可能性を警戒してのことだ。
「では、魔物は騎士団と魔術師団に任せるということですか?」
「魔物だけならそれで良いんだけどね。黒い靄を魔族が出しているなら、その対処をしなければいけない」
ルクソードさんはそう言うと、俺へと顔を向けた。
「そこで、君だ。単独で魔族と引き分けた力を見込んで、協力してくれないか? ミレーユ君も。勇者パーティで活躍している、その力を貸して欲しい」
「微力ですが、私で良ければ」
「構わない。大した力じゃないけど」
「ありがとう。騎士団達は、どこから現れるかも分からない、魔物の対処に手一杯なはずだ。だから、君達で黒い靄を生み出す魔族を見つけ出して、倒してほしい」
ルクソードさんからの頼みを聞き入れた結果、俺たちは魔族探しを行うことになった。
これで、その場の方針が決まり、会議が終わる。
俺とミレーユが早速、部屋を出ようとした時、師匠に声をかけられた。
「カノン。武器、持ってないでしょ? これを持って行きなさい。……気をつけてね」
そう言って、手渡してくれたのは、シンプルな意匠の短刀だった。
「ありがとうございます。ちゃんと役目を果たしてくるので、安心して待っていてください」
俺はお礼を言うと、今度こそミレーユと共に街へ向かった。




